ウォーミングアップ
お手柔らかに…
「どんぐりどんぐり、コントラバス、ファイトミーファイトミー!!さぁ、奏でるがいい!!」
矢継ぎ早にそう言うと彼はまた一つ自分が大きくなったような気がしたものだった。
自分でもなぜかは分からない。しかし、人間一人一人に固有のムードの高めかたというものがあるものだ。
彼の心にはなにかしらの作用をもたらす言葉なのだろう。
「なんだ、この言葉はこの心地よさ、いまだかつて感じたことのないものだ。そう思わないか?」
彼はそう質問した。しかし、周りには誰ひとりとしていない…
そう彼は質問という形式をとったまでのことなのだ。彼のいる部屋には彼しかいない。
やはりこの言葉も一種の儀式のようなものに過ぎなかった…
『ピシャーン!!ゴロゴロゴロ』
近くに雷が落ちた。これは実際に落ちたのだ。その日は土砂降りであり、いつ雷が落ちたとしてもおかしくはなかったし、もちろん何事も起こらず雨が止んでもおかしくはなかった。しかし、この雷が彼にきっかけを与えたようだ。
「じゃあ、行ってくるよ。」
そう無人の部屋に語りかけると、彼はドアを閉め部屋から出ていった。
そして彼は、彼の指揮するオーケストラとその演奏を心待ちにしている観客が待つ、コンサート会場に向かうのだった。
ありがとうございました。