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怪奇事変 スーパーマーケット

掲載日:2026/05/11

第二十九怪 スーパーマーケット


 『いらっしゃいませ!いらっしゃまい!本日のお買い得商品をご案内いたします!』


 「ふぅ」


 スーパーに勤めてから数年、特別な異動もなく平凡に正社員をやらせてもらいながら過ごしている。

 聞きなれた呼び込み君と言う機器を使った声にも慣れ初め、台詞まで覚えられてきたところだ。

 毎日同じ仕事を熟す日々、平たく言えば退屈な日常だ。

 それでも決まった給料を支給されるのはありがたい、特別男は昇給や昇格には興味がなかった。

 何故なら今のままの給料でも生活の保障がされているからだ。

 

 「(とは言っても、確かにお金が沢山あれば良いんだけどね)」


 その程度の概念を持った金銭感覚……つまり無理してなる必要性はないと言うことだ。

 会社はそう言う訳にもいかず、このまま昇格しない社員を遊ばせておいても会社の成長に繋がらないため、毎年凝りもせずに面談形式で今の現状と今後のビジョンについて話し合わなくてはならない、それが彼にとってはとても窮屈さを感じさせていた。


 『午後3時になりました、売場の店員は清掃の準備をお願いします。お買い物中のお客様には大変ご迷惑をおかけいたします』


 「(迷惑なら清掃なんて客が居なくなった後でいいだろう)」


 文句を言いながら裏に用意された雑巾を持ち出して、陳列棚を丁寧に拭いていく。

 その最中、同期の仕事仲間が近づいてきた。


 「知ってるか、今日も出たらしいぜ?」


 「万引き犯?」


 「ちゃうちゃう、ま~たあの婆さんだ」


 「またか?」


 婆さんと言うのは通称レシートババアと店員側では認識されている、少し変わった客だ。

 レシートと言うのは必ず自身が購入したレシートを取ることはなく、そのまま帰って行く事から名付けられたあだ名のようなものだ。

 だが特徴すべき点はそこではない、何故なら一番特徴的なのは——


 「また例の婆さん、購入した商品が同じなんだってよ」


 毎回同じ買い物をしているからである。

 

 「またか?」


 「ああ、納豆に豆腐、海産物の乾燥わかめに、七味唐辛子、レンジで温められるタッパーのご飯…何作ってるんだろうな?」


 「さぁな」


 棚を綺麗に磨きながらから返事で答える。

 確かに豆腐とわかめなら味噌汁が想像できるじ、納豆があるってことは和食の、しかも朝飯をテーマにした献立だ。

 だが七味唐辛子をどう使うのかは不明…と言うより、そんなに七味唐辛子って無くなる物なのだろうか?

 

 「味チェンで味噌汁に七味入れたりとかか?」


 「お前、俺の心でも読んでるのか?」


 「はぁ?ちげーよ、普通にレシートの購入歴見れば大体予想つくから言っただけだし。つうか七味マジで何に使ってると思う?」


 「……味チェン?」


 「俺と同じじゃん」


 雑談をしながらも手だけを動かす。

 正直こんなところを見られれば同じ所に2人もいらないだろうと配置に文句を付け加えられかねないが、コイツが来てしまった以上は仕方ない。

 

 「たま~に、自分の好物で家にストックがないとダメなんです~ってあるじゃん?」


 「テレビ番組か?」


 「そうそう、多分あの婆さんもそんな感じかな?」


 「さぁな~」


 「てか、他の爺婆はよ、水産コーナーとか惣菜とか見て回ってるのに興味1つ示さないどころか、パンコーナーとか和菓子コーナーとかも興味ないんだぜ?」


 「珍しいな」


 「だよな」


 確かに珍しい、普通老人のお客様なら青果コーナーから、水産、精肉、惣菜とみてパンと和菓子を最後に見るも、レシートを確認するだけならチルドコーナを周って、海産物、

その後は調味料のコーナで買い物が終わってしまっているのだ。

 しかもそれが毎日となれば無理やりな理屈付けかもしれないが、ストック目的で七味なんかは購入してるのかもしれないと考えるのは普通だ。

 

「まぁ、なんにせよ、買って貰えてる以上——」


「「ありがたや~」」


 2人揃って同じことを言いつつ、清掃の時間は終わる。

 俺はそのお婆さんを見てないが仕方ない、他にもやることは山のようにあるのだから。




 次の日の出勤では売場のレイアウトを変えることとなった。

 なんでも本部の命令で品物をチェンジさせなくてはならないとのことだ。

 正直似たような用品、レイアウトを変化させて売上を伸ばしたいのは分かるが、常連客からの苦情は凄まじいものがある。

 

 『前は此処に置いてあったのよ!なんで移動させた?』


 『正直変えられると迷惑なのよね~、私、場所ようやく覚えてきたのにま~た別の場所に変わっちゃったら分からないじゃない?』


 謝罪することしかできない。

 つうかそもそもこう言う生の声を聞いてほしいものだ、こっちも別の仕事が残っている以上余計な仕事を増やさないで欲しいと思う。

 

 「次はそっちだ」


 「はい……マジか」


 そして毎回なんで俺が調味料担当なのか悩まされる、ここだけのエリア担当じゃないんだぞっと抗議したい。

 予め印刷された表が記された紙を見ながら、売場移動する商品を見つめて従業員にわかるように値札の近くに小さな紙を入れて行く。

 こうして売場替えを行いながら時間を見て、品出しを行い、余った時間で作業に取り掛かる。

 予定では1週間程度で終わらせて写真を取って本社にメールで送れば完了だそうだ、まだ時間はあるし問題ないが……この作業が一番面倒くさい。


 「面倒くさいな……」

 

 つい小言が出てしまう。

 隣にお客様が居たことに気づかずしまったと慌てそうになるも、そのお客様はボサボサの白髪とシワシワの肌、前髪が長くて表情は見れないが枝のように痩せ干せた手で調味料を取りカゴに入れて行き、立ち去っていった。


 「(やべぇ、クレーム用紙に書かれないと良いけど……)」


 基本的に書かれても大した影響力があるかどうかはその行いによって正しく精査される。

 だから理不尽な物言いもあるからこそ、大事にはならないが、今のは間違いなくこちらに比がある九怪 スーパーマーケット


 『いらっしゃいませ!いらっしゃまい!本日のお買い得商品をご案内いたします!』


 「ふぅ」


 スーパーに勤めてから数年、特別な異動もなく平凡に正社員をやらせてもらいながら過ごしている。

 聞きなれた呼び込み君と言う機器を使った声にも慣れ初め、台詞まで覚えられてきたところだ。

 毎日同じ仕事を熟す日々、平たく言えば退屈な日常だ。

 それでも決まった給料を支給されるのはありがたい、特別男は昇給や昇格には興味がなかった。

 何故なら今のままの給料でも生活の保障がされているからだ。

 

 「(とは言っても、確かにお金が沢山あれば良いんだけどね)」


 その程度の概念を持った金銭感覚……つまり無理してなる必要性はないと言うことだ。

 会社はそう言う訳にもいかず、このまま昇格しない社員を遊ばせておいても会社の成長に繋がらないため、毎年凝りもせずに面談形式で今の現状と今後のビジョンについて話し合わなくてはならない、それが彼にとってはとても窮屈さを感じさせていた。


 『午後3時になりました、売場の店員は清掃の準備をお願いします。お買い物中のお客様には大変ご迷惑をおかけいたします』


 「(迷惑なら清掃なんて客が居なくなった後でいいだろう)」


 文句を言いながら裏に用意された雑巾を持ち出して、陳列棚を丁寧に拭いていく。

 その最中、同期の仕事仲間が近づいてきた。


 「知ってるか、今日も出たらしいぜ?」


 「万引き犯?」


 「ちゃうちゃう、ま~たあの婆さんだ」


 「またか?」


 婆さんと言うのは通称レシートババアと店員側では認識されている、少し変わった客だ。

 レシートと言うのは必ず自身が購入したレシートを取ることはなく、そのまま帰って行く事から名付けられたあだ名のようなものだ。

 だが特徴すべき点はそこではない、何故なら一番特徴的なのは——


 「また例の婆さん、購入した商品が同じなんだってよ」


 毎回同じ買い物をしているからである。

 

 「またか?」


 「ああ、納豆に豆腐、海産物の乾燥わかめに、七味唐辛子、レンジで温められるタッパーのご飯…何作ってるんだろうな?」


 「さぁな」


 棚を綺麗に磨きながらから返事で答える。

 確かに豆腐とわかめなら味噌汁が想像できるじ、納豆があるってことは和食の、しかも朝飯をテーマにした献立だ。

 だが七味唐辛子をどう使うのかは不明…と言うより、そんなに七味唐辛子って無くなる物なのだろうか?

 

 「味チェンで味噌汁に七味入れたりとかか?」


 「お前、俺の心でも読んでるのか?」


 「はぁ?ちげーよ、普通にレシートの購入歴見れば大体予想つくから言っただけだし。つうか七味マジで何に使ってると思う?」


 「……味チェン?」


 「俺と同じじゃん」


 雑談をしながらも手だけを動かす。

 正直こんなところを見られれば同じ所に2人もいらないだろうと配置に文句を付け加えられかねないが、コイツが来てしまった以上は仕方ない。

 

 「たま~に、自分の好物で家にストックがないとダメなんです~ってあるじゃん?」


 「テレビ番組か?」


 「そうそう、多分あの婆さんもそんな感じかな?」


 「さぁな~」


 「てか、他の爺婆はよ、水産コーナーとか惣菜とか見て回ってるのに興味1つ示さないどころか、パンコーナーとか和菓子コーナーとかも興味ないんだぜ?」


 「珍しいな」


 「だよな」


 確かに珍しい、普通老人のお客様なら青果コーナーから、水産、精肉、惣菜とみてパンと和菓子を最後に見るも、レシートを確認するだけならチルドコーナを周って、海産物、

その後は調味料のコーナで買い物が終わってしまっているのだ。

 しかもそれが毎日となれば無理やりな理屈付けかもしれないが、ストック目的で七味なんかは購入してるのかもしれないと考えるのは普通だ。

 

「まぁ、なんにせよ、買って貰えてる以上——」


「「ありがたや~」」


 2人揃って同じことを言いつつ、清掃の時間は終わる。

 俺はそのお婆さんを見てないが仕方ない、他にもやることは山のようにあるのだから。




 次の日の出勤では売場のレイアウトを変えることとなった。

 なんでも本部の命令で品物をチェンジさせなくてはならないとのことだ。

 正直似たような用品、レイアウトを変化させて売上を伸ばしたいのは分かるが、常連客からの苦情は凄まじいものがある。

 

 『前は此処に置いてあったのよ!なんで移動させた?』


 『正直変えられると迷惑なのよね~、私、場所ようやく覚えてきたのにま~た別の場所に変わっちゃったら分からないじゃない?』


 謝罪することしかできない。

 つうかそもそもこう言う生の声を聞いてほしいものだ、こっちも別の仕事が残っている以上余計な仕事を増やさないで欲しいと思う。

 

 「次はそっちだ」


 「はい……マジか」


 そして毎回なんで俺が調味料担当なのか悩まされる、ここだけのエリア担当じゃないんだぞっと抗議したい。

 予め印刷された表が記された紙を見ながら、売場移動する商品を見つめて従業員にわかるように値札の近くに小さな紙を入れて行く。

 こうして売場替えを行いながら時間を見て、品出しを行い、余った時間で作業に取り掛かる。

 予定では1週間程度で終わらせて写真を取って本社にメールで送れば完了だそうだ、まだ時間はあるし問題ないが……この作業が一番面倒くさい。


 「面倒くさいな……」

 

 つい小言が出てしまう。

 隣にお客様が居たことに気づかずしまったと慌てそうになるも、そのお客様はボサボサの白髪とシワシワの肌、前髪が長くて表情は見れないが枝のように痩せ干せた手で調味料を取りカゴに入れて行き、立ち去っていった。


 「(やべぇ、クレーム用紙に書かれないと良いけど……)」


 基本的に書かれても大した影響力があるかどうかはその行いによって正しく精査される。

 だから理不尽な物言いもあるからこそ、大事にはならないが、今のは間違いなくこちらに非があると感じた。

 口は禍の元とは正にこのことだ…やってしまった。

 だが——


 「……あれって」


 カゴの中身、それをたまたま見てしまった。

 中身は簡単に言えば納豆と豆腐が入っていて、海産物の袋に——()()()()()だ。

 そう、昨日噂をしていた例のお客様である。

 

 「……」


 興味を惹かれた男は作業を中断してそのお婆さんの後について行く。

 正直好まれるやり方ではない。

 彼女が万引き行為をした訳でもなく、怪しい仕草をしたわけでもない。

 ただ気になるのだ。

 どう買い物して、どう会計をして、どう帰宅するのか…を。

 

 だが期待とは裏腹にすぐさま会計に移って行った。

 手慣れた様子でレジを打つ店員とそれを待つ客の絵ずら、何も面白味もありはしない。

 会計が終わり、自宅から持ってきたマイバックに品物を収納しそのまま帰宅していく。

 

 「あ」


 そう言えば、先ほどレシートを貰わずにそのまま立ち去ったが……。

 お婆さんが立ち去ったのを期に、レジの人に声をかける。


 「あの、今の人ですか?例の噂の」


 「え?あ、はい。いつも買い物してくれる常連さんですね」


 「レシートは?」


 「そうなんですよね、いつもレシートをお渡しする前に会計を済ませて荷物を運んで行っちゃいますから、必ず残るんですよ」


 「そのレシートの中身は…見ても?」

 

 少し考える素振りを見せつつも、レジの女性は直ぐ渡してきた。


 「いいですよ、多分、取りに戻ってこないでしょうし」


 「ありがとうございます」


 レシートを受け取り、バックヤードに戻る最中、ふと駐車場の窓を見ると——目が合った。

 いや、正しくは前髪で目は見れてないが、間違いない……こちらを見ていると言う視線だ。

 

 「ッ!!」


 背筋が冷たくなるものの、お婆さんはそのままトボトボと帰路について行った。

 一方冷汗をかいた男性店員はすぐにバックヤードに戻りレシートを確認すると、噂通りの品物が打たれていた。

 

 「納豆、豆腐、わかめに……七味唐辛子」


 「お?何やってんの?」


 同僚が肩を組みレシートの中身を見て笑い出す。


 「これって例の噂になってる婆さんのじゃん!何処で手に入れたんだよ?」


 「レジの人に頼んだよ、要らないからやるって」


 「……そっち系?」


 「ちげーよ」


 「だよな、でも本当とは……あれだけガリガリに痩せちゃって」


 「だよな……ん?」


 1つだけ気になる点を発見した。

 噂ではタッパーに入ってるご飯も購入するはずだが、今回のレシートではそれがない。

 

 「ご飯、買い忘れてる」


 「毎日買ってるんだから、家にあるんだろ?買い忘れたんじゃなくて不要だったんじゃねーの?」


 「……何時も買ってたのに?」


 「心境の変化なんて誰にだってあるだろ?俺もお前も、たまたま婆さんにもそういう変化があっただけの話じゃねーのって話」


 「……んー」


 毎日購入を欠かさなかった人物が購入を忘れる事態、それって——自分が後を付けたからだろうか?


 「心境の変化だと…良いな」


 いや、ある意味心境の変化なのかもしれない。

 そりゃ買い物中にずっと店員にべったりくっ付かれたりしたら買い物なんてしずらいはずだ。

 してはいないが、遠く離れた場所から監視されてるって感じただけでも気持ちの良いものではない…もしかしてそれに気づいて買わなかったのかもしれない。

 

 「書かれてないと良いな」


 「なんか言ったか~?」


 「なんも、それより棚割り手伝ってくれ!俺1人じゃ頭パンクする」


 この時までは深く考えてなかった。

 たかが商品の買い忘れ1つに、そこまで重要な問題があったことに。




 1週間経った。

 棚割り作業は順調に終わり、あとを季節に因んだ売場作りや売上を上げるための売場制作を手掛けるだけだが、この1週間で変わったことがある。


 「……いらっしゃいませ」


 「……」


 あの日、レシートを店員に受け取った日以来、必ずあの婆さんが近くにいるのだ。

 しかも大きく変わったのはそれが調味料コーナーではなく、例えば惣菜売場に居る時、パンコーナに居る時、必ずだ。

 購入する物も密かに見たが何も変わってない。

 買い忘れていたご飯のパックもちゃんと購入している……なのにまるで付きまとわれているようで——気味が悪い。


 「……」


 作業に集中する時間を無理やり作ることで自然とその場から離れる術を見つけることはできたが、それでも——視界の端で彼女がこちらを見ていることには気づいていた。


 「今日も声かけられたのか?」


 小声で声をかけてくる同僚は心底面白そうだ。

 だが自分は面白くはない、寧ろ——不気味だ。


 「なんでついてくるんだ、俺がレシートを拾ったから?」


 「個人情報流失で怒ってるんじゃね?」


 「住所や身分何て書かれてねーだろう!」


 「それでも普段の生活は予測できたりするから相当根に持ってたんじゃね?」


 「マジかよ……いっそクレーム入れてくれた方がマシだ」


 「触らぬ神になんたらってやつだ、とりあえず作業を終わらせようぜ」


 「……ああ——ッ!?」


 「どうした?」


 「い、いや」


 あの婆さんだ、今度は店の出入口で見ていやがった。

 こちらの視線をしばらく感じていたが、向こうはしばらくその場に留まった後に帰路に着いたようだ。

 時間にして僅か数分だが数十分の時間にも思えた。

 

 そんなことを思っていると見慣れた姿の人物がこっちに駆け寄ってきた。

 レジの店員、レシートを貰ったレジの女性だ。


 「聞いてよ、あの何時ものレシートお婆ちゃんのレシート」


 「ん?お、な、なんだコレ!?」


 「なんだよ、そんな驚いて……」


 「驚くに決まってるんだろ、何時も決まった物しか買わない婆さんが()()()()を購入してるんだからな!」


 「え!?」


 思わず驚きレシートを見ると確かに購入した商品はいつもと違った物だった。

 

 「アイス、芋羊羹、しらすに手巻き寿司、ルイボスティー?なんか無茶苦茶な物ばかりだな」


 「まぁ献立で考えればそうかもしれないが、別に献立で考えなきゃ普通じゃないか?」


 「そうね、でも……」


 その時、清掃のチャイムが流れるBGMが店内に鳴る。


 「とりあえず婆さんの健康的な人生が今日の一番の収穫だな」


 「だな、仕事に戻るか……ってかなんか言いかけませんでした?」


 「いいえ、あとで話せたら話すわ」


 その表情は何処か曇った様子だった。

 何も可笑しな所など何一つもないだろうに……。


 


 清掃が終わり様々な業務をこなして帰宅する時間になった。

 決まった時間に変えれるのがこの会社の魅力的なところだ。

 そうしてタイムカードを切ろうとした瞬間、あのレジの人が居た。

 そう言えば何か言いたげだった様子だったが、なんだったんだろ?


 「あ?」


 目があった。

 レジの人は直ぐにこちらに来ると先ほどの話の続きをしてきた。

 

 「コレ、もう一度見てもらっていい?」


 「え?あ、はい」


 アイス、芋羊羹、しらす、手巻き寿司、ルイボスティー…何処も変な所はない。


 「これ縦で読んでみて」


 「……え?」


 アイス

 芋羊羹

 しらす

 手巻き寿司

 ルイボスティー


 「あ・い・し・て・る」


 一気に背筋が凍り付いた。

 ずっと見ていた、見られていた、近づかれていた。

 あの意味は——こう言うことだったのか。

 あの老婆はきっとレジで購入する自分の商品の会計を変だと思われつつも拾ってくれる人物を探していたのかもしれない。

 それがたまたま自分だったのかもしれないし、本当にこの商品はたまたまかもしれない。

 噂——その噂がこうした次の噂を呼ぶことになるのかもしれない。

 だが確実に思うのは、感じるのは。


 「(きっと、あの老婆は()()()()()()()()のかもしれない、ずっと)」


 誰でも良かったと聞いたことがある、きっとこれもそうだったのかもしれない。

 店員の男は常にあの老婆を気にしながら仕事をしなければならない、永遠に……。


 第二十九怪 狙われた店員

 

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