第1話 ピンク色で甘い薬は、宮廷には不要ですか?
薄暗い宮廷錬金工房には、いつだって朝が来ない。
高い天井近くに設けられた細窓から差し込む光は弱々しく、分厚い石造りの床は夜気をたっぷりと吸い込んだまま、底冷えする寒さを保っている。壁際を埋め尽くす天井まで届く木棚には、得体の知れない薬瓶と素材箱がぎっしりと押し込まれ、部屋全体に乾燥させた薬草の青臭さと、煮詰めすぎた魔鉱液の焦げた匂いが澱のように沈殿していた。
その巨大な工房の一番奥、ひときわ古びた作業台の前で、ニーナは小さく、しかしひどく疲労の滲む息を吐き出した。
「……できた」
三日連続の徹夜でかすむ目を擦り、重い瞬きを繰り返しながら、彼女はそっとガラス瓶を持ち上げる。
朝焼けの空をそのまま溶かし込んだような、淡く透き通るピンク色の液体が、とろりと瓶の内側を滑り落ちた。コルクの栓を開けたままの小瓶の口からは、ふわりと甘い香りが立ち上る。
ほんのりと、春先に実る野いちごに似た、優しくて甘い匂いだ。
最後の一本にしっかりと栓を押し込み、ニーナは安堵で肩を落とし、そのまま冷たい作業台に突っ伏した。
「終わった……。全部、終わったぁ……」
これで、第一騎士団向けの重傷用傷薬が三十本、夜警隊向けの眠気覚まし兼解熱薬が十本、王城で働く侍女用の疲労回復栄養ポーションが十二本。昨日の昼休憩――といっても五分で硬いパンをかじっただけだが――の最中に、上司から「明日までに頼む」と笑顔で押し付けられた追加依頼まで、なんとかすべて仕上げることができた。
もっとも、「なんとか」と言っても、ニーナの身を削りに削った結果なのだが。
指先は薬草の灰汁で茶色く染まり、制服のローブはあちこち焦げ、肩は石のように凝り固まっている。
「……帰って、泥のように眠りたいなあ」
ぽつりと呟いてから、ニーナは自分で小さく自嘲気味に笑った。
帰ると言っても、ここから歩いて十分ほどの場所にあるカビ臭い錬金術師寮の自室に戻るだけだ。そして、ベッドに倒れ込んで数時間もすれば、また使い走りの見習いがドアを乱暴に叩きにくるだろう。「急患です」「在庫が足りません」「師長が呼んでいます」と。
仮眠して、工房に来て、薬を作って、冷めたスープを胃に流し込んで、また作る。その無限ループだ。
おまけに、これだけ働いても残業代という概念はこの宮廷には存在しない。
下級錬金術師であるニーナの給金は、王都の裏路地にある食堂のウェイトレスよりも安いのだ。
宮廷勤めは安定していて、国のために尽くせる名誉ある仕事――。
田舎の村から夢を抱いて王都へ出てきて、難関の採用試験を突破した頃は、本気でそう信じていた。
けれど、実際に配属された先で待っていたのは、慢性的な人手不足と、特権階級の貴族や権威ばかりを重んじる上役たちの怒号、そして「前例がない」という理由で新しい工夫を徹底的に嫌う硬直した空気だった。
特に、下級の者が成果を上げることは「生意気だ」「伝統を軽んじている」と糾弾される。結果として、誰もが最低限の質の薬を、昔からのレシピ通りにダラダラと作るだけの腐敗した組織になり果てていた。
その中で、ニーナが唯一、どんなに怒られても絶対に譲らなかった信念がある。
それは、薬の「飲みやすさ」だった。
『薬は苦くて痛いものだ。それが効いている証拠である』
それが、この国の錬金術における常識だった。しかし、ニーナはそれにずっと疑問を抱いていた。
薬は効けばいい、ではない。
どんなに素晴らしい効能があっても、泥と苦虫をすり潰したような激マズの液体など、重傷を負って弱っている患者がすんなり飲めるわけがない。
苦すぎて吐き戻してしまえば、効く前に意味がなくなる。
臭すぎて子どもが泣き叫び、暴れてしまえば、次から絶対に口を開けてくれなくなる。
だったら、患者が『飲みたい』と思える、美味しくて優しい薬を作るべきではないか。
そう考えたニーナは、夜な夜な独学で材料の配合を見直した。
従来の魔法薬が苦く臭い原因は、素材に含まれる微量の「魔力毒」や「雑味」が抽出過程で残ってしまうからだ。ニーナは己の繊細な魔力操作を駆使し、何十段階もの濾過と魔力中和の工程を挟むことで、その毒素を完全に飛ばすことに成功した。
そして仕上げに、甘味果実の精髄をほんの数滴加えて後味を整える。
寝る間も惜しんで、何度も釜を爆発させながら試作を重ねた結果、出来上がったのがこの「甘くて美味しいピンク色のポーション」だ。
毒素が完全に抜けているため、魔力酔いを起こすこともなく、すっと体に染み込んでいく最高傑作。
事実、これをこっそり融通した若手騎士や下働きの者たちからの評判はすこぶる良かった。
「ニーナさんの薬、全然苦くなくて一気に飲めました!」
「熱で何も喉を通らなかったのに、あの甘いお薬のおかげで助かったよ」
そんなふうに感謝されるたび、徹夜の疲れも吹き飛ぶ気がしていた。
だが、そんな彼女のささやかなやりがいを、宮廷の「権威」が許すはずもなかった。
――ガンッ!!
突然、乱暴な音を立てて工房の分厚い扉が蹴り開けられた。
ニーナはびくりと肩を跳ねさせ、咄嗟に居住まいを正す。
「こんな時間まで、まだウロチョロしていたのか、ニーナ」
冷ややかで、ねばつくような低い声。
数人の取り巻きを連れて工房に入ってきたのは、宮廷錬金術師長であるクロードだった。
艶のある黒髪をきっちりと撫でつけ、金糸の刺繍が施された最高級のローブを一分の隙もなく着こなしている。見た目だけなら理知的で有能なエリートだが、その細く吊り上がった目に宿るのは、常に他者を値踏みし、見下す冷たい光だった。
彼は革靴の音を響かせて工房内を進むと、ふと足を止め、露骨に眉間を寄せた。
「……なんだ、この鼻につく匂いは」
クロードの視線が、ニーナの作業台に向けられる。
ニーナは胸の奥が冷たくなるのを感じながらも、懸命に声を絞り出した。
「お、おはようございます、クロード師長。こちらは、昨日ご依頼いただいた追加のポーションです。新しい調整を施しておりまして、傷病兵の方でも飲みやすいよう、苦味を極力抑えて――」
「抑えて、だと?」
クロードはニーナの言葉を冷たく遮り、作業台に歩み寄った。そして、並べてあった完成品の瓶の一本を、汚い虫でもつまむように指先で持ち上げる。
窓からの弱々しい光を受けて、瓶の中の液体は柔らかく透けた。
綺麗な、ピンク色だ。
次の瞬間、クロードの顔が激しい嫌悪と怒りに歪んだ。
「いちごの匂いがするピンクの薬だと!? こんなふざけた色が、宮廷の恥だということが分からんのか!!」
甲高い怒声が、広い工房中にビリビリと響き渡った。
奥で朝の準備を始めていた他の錬金術師たちが、ビクッと体を震わせてこちらを盗み見る。
ニーナは思わず目を見開いた。
クロードは瓶を高く掲げ、ニーナを睨み下ろす。
「薬とはな、苦く、重く、喉を焼くような刺激があってこそ、その効能の高さを患者に知らしめることができるのだ! それが権威というものだ! こんな……こんな市場の安菓子の出来損ないのような代物を、誇り高き騎士や貴族に飲ませたというのか? ふざけるのも大概にしろ、この無能が!」
「で、ですが……っ! 魔力毒を抜いているので、実際に傷の治りも従来品の数倍早いですし、服用後の発熱や拒否反応も一切ありません! データも取ってあります、こちらを見ていただければ――」
「黙れッ!!」
クロードが机を激しく叩き、ニーナの言葉をぴしゃりと切り捨てた。
ニーナが徹夜でまとめた調合記録の束が、バサバサと床に落ちて散らばる。
「田舎上がりの下級錬金術師風情が、伝統ある宮廷の調剤法に口を出すな! 貴様のような浅知恵で小細工をした粗悪品が、どれほど宮廷の品位を損なうか分かっているのか? 我が工房の権威を地に堕とす気か!」
容赦なく浴びせられる罵声に、ニーナは唇を強く噛み締めた。
血が滲むほど噛んで、必死に涙を堪える。
反論したいことは山ほどあった。
彼が「伝統」と呼ぶレシピは、無駄な工程が多すぎて魔力が劣化していること。
彼自身はもう何年も釜の前に立たず、部下の手柄を横取りしているだけだということ。
そして何より、患者の苦しみなど欠片も見ていないこと。
助けを求めるように周囲へ視線を巡らせるが、他の錬金術師たちは皆、蜘蛛の子を散らすように目を逸らし、下を向いて作業をしているフリを始めた。
誰も助け舟など出してくれない。ここでは、絶大な権力を持つ錬金術師長に逆らう者こそが異端であり、排除されるのだ。
クロードは床に落ちたニーナのノートを忌々しそうに革靴で踏みつけ、冷酷な笑みを浮かべて決定を告げた。
「ニーナ。貴様のような規律を乱すゴミは、もう私の工房には不要だ。本日付で、貴様を宮廷錬金工房から解雇する」
一瞬、工房の時間が止まったように感じた。
「……え」
「耳まで遠くなったか? クビだと言ったのだ。今すぐここを出て行け。今月分の給与は規定通り、違約金を差し引いて最低額のみだ。寮も本日、この一時間以内に退去しろ。宮廷の名を汚した無能に、これ以上この神聖な場所に席を置く価値はない」
まるで汚れたボロ雑巾を捨てるかのように、冷たく言い放たれた言葉。
それは、石の床よりもずっと冷たく、残酷な宣告だった。
普通なら、ここで絶望のあまり青ざめ、床に這いつくばって「どうかお許しを!」と縋りつく場面なのだろう。
長年勤めた仕事を失う。住む場所も今日突然失う。王都で後ろ盾のない若い女性が、たった一人で放り出されて生きていくのは、決して簡単なことではない。
クロードも、取り巻きたちも、ニーナが泣き喚くのを今か今かと待ち構え、嘲笑の準備をしていた。
けれど。
その瞬間、ニーナの胸の奥底から込み上げてきた激しい感情は――悲しみでも、恐怖でも、絶望でもなく。
全く別の、熱く輝かしいものだった。
(――やった)
心の中で、満面の笑みを浮かべたニーナが、両手を高く掲げて万歳三唱をした。
(やった、やった、やったぁああああああ!!!)
脳内でファンファーレが鳴り響く。
紙吹雪が舞い散る。
(これで!! 毎日徹夜しなくていい! 他人の仕事まで押し付けられなくていい! 理不尽に怒鳴られなくていい! 休みの日に呼び出されなくていい! もう、あの地獄のサービス残業から解放されるんだ!!)
あまりにも嬉しすぎて、危うくその場でくるりとステップを踏んで踊り出しそうになるのを、ニーナは全身の筋肉を総動員して必死に抑え込んだ。
もちろん、表情には一ミリも出さない。
ここで喜んでいることがバレたら、「反省の色がない」と難癖をつけられ、面倒な処罰を追加されかねないからだ。
ニーナは必死に頬の内側を噛んでニヤけるのを防ぎ、これ以上ないほど肩を落とし、悲痛な面持ちを作って深く頭を下げた。
「……承知、いたしました。……今まで、ありがとうございました」
声が歓喜で上ずらなかった自分を、後で思い切り褒めてあげたい。
クロードは彼女が絶望のあまり蒼白になっていると勘違いしたのか、満足げに口角をつり上げ、鼻を鳴らした。
「ふん、身の程を知ることだ。宮廷は貴様のような小娘の遊び場ではないのだからな。とっとと失せろ」
そのまま踵を返し、取り巻きを引き連れてローブを翻し、上層階の自室へと去っていく。
バタン、と扉が閉まると同時に、工房には重苦しく、気まずい沈黙が落ちた。
しばらくして、年配の錬金術師がそろそろと近づいてきて、小声で声をかけてきた。
「……災難だったな、ニーナ。だが、師長に逆らうから……」
その声音には同情の響きは薄く、むしろ「自分に火の粉が飛ばなくてよかった」という安堵と保身がにじみ出ていた。
「はい。皆様も、お体に気をつけて」
ニーナは淡々と、しかし丁寧に頭を下げる。
もはや、彼らに何かを期待することも、恨み言を言う気にもなれなかった。心がすでに、この陰鬱な場所から遠く離れていたからだ。
自分の机に戻り、私物をまとめる。
引き出しを開けてみると、持ち帰るべきものは驚くほど少なかった。替えのガラスペン、手に馴染んだ小型の乳鉢とすりこぎ、亡き母の形見の刺繍入りハンカチ。それから、個人的に書き溜めていた膨大な調合ノートが数冊。
宮廷で何年も、文字通り身粉にして働いたというのに、自分の人生は小さな革のトランク一つにすっぽりと収まってしまうらしい。
荷物を詰め終わり、ニーナはふと、作業台の端に並んだままのピンク色の薬瓶を見た。
宮廷の権威には、見向きもされなかった甘い薬。
「恥」だと罵られた薬。
けれど、彼女は知っている。
これをこっそり飲んだ夜警の青年が、「生まれて初めて、薬を吐かずに飲めました」と泣きそうな顔で笑ってくれたことを。
高熱にうなされて水も飲めなかった侍女見習いの少女が、この甘いポーションを飲んだ翌日には、自力で歩けるまで劇的に回復したことを。
私の努力は、無駄じゃなかった。
少なくとも、彼らの役には立てたのだから。
「……持っていこう。私の子たちだもん」
ニーナは残っていた数本の試作品の瓶を、割れないように丁寧に布で包み、トランクの奥に忍ばせた。解雇された身で宮廷の備品を持ち出すのは重罪だが、これはもともと自腹を切って買った素材で、休みの日に私費で試作した分だ。誰にも文句を言われる筋合いはない。
その後、急いで寮の部屋に戻り、最低限の衣類と、ベッドの下に隠していた薄っぺらい貯金袋をトランクに詰めた。
部屋は狭くて寒くて、壁紙もカビで剥がれかけていたけれど、それでも何年か暮らした場所だ。最後にもう一度だけ部屋を見回すと、少しだけ胸がちくりとした気がした。
でも、その感傷も長くは続かなかった。
寮長に部屋の鍵を叩き返すように返し、宮廷区を隔てる重厚な門を抜け、王都の一般大通りに足を踏み出した瞬間。
――空が、信じられないほど広かった。
「あ……」
石畳を行き交う、活気に満ちた人々の波。
角のパン屋から漂ってくる、焼きたての小麦とバターの暴力的なまでにいい香り。
遠くで鳴る、正午を知らせる教会の鐘の音。
春先のやや冷たい風が、徹夜続きで火照った頬を、労うように優しくなでていく。
ニーナは重いトランクの持ち手を両手でぎゅっと握り直し、ゆっくりと、そして自分の肺の形を確かめるように、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「自由だ……っ」
ぽろりと零れ落ちた言葉は、これまでに作ったどんなポーションよりも甘美な味がした。
次の瞬間、彼女の口元がふにゃりとだらしなく緩む。
「ふ、ふふ……。ふふふふ……っ、あはははは!」
だめだ、もう我慢できない。
ニーナは通行人に背を向け、道の端っこで口元を両手で覆った。肩が小刻みに、いや、大波のように震える。すれ違う人は、仕事を失って泣いている哀れな少女だと思ったかもしれない。
でも実際は、ただただ嬉しくて、笑いが止まらなかったのだ。
もう、あのヒステリックな怒鳴り声にビクビクしなくていい。
夜明けまで、毒の煙を吸いながら釜の前に立ち続けなくていい。
一生懸命考えた患者のための工夫を、「伝統を汚す恥だ」と理不尽に踏みにじられなくていいのだ。
これからどうやって生きていくか、細かい計画なんてまだ何一つ決めていない。貯金だって、決して多くはない。
けれどニーナの胸の奥には、宮廷の暗い工房の中で、ずっとずっと温め続けてきた「小さな夢」があった。
大きな店じゃなくていい。
立派な王都のど真ん中じゃなくてもいい。
誰にも命令されず、自分のペースで作れる、自分だけの小さなお店。
体調の悪いお年寄りが気軽にお茶を飲みに来られて、怪我をして泣いている子どもにも安心して飲ませられる、甘くて優しい、美味しい薬だけを並べた薬局。
日当たりのいい窓辺に綺麗なお花を飾って、暖かい紅茶を淹れて、誰かの「ありがとう、助かったよ」という声を、すぐそばで聞ける場所。
そんな、のんびりとした暮らしが、できたらどんなに幸せだろう。
考えただけで足取りが軽くなり、ニーナはスキップでもしそうな勢いで王都の正門へと向かった。
巨大な白壁と堅牢な鉄扉の向こうには、どこまでも続く土の街道が伸びている。その先には地方都市があり、村があり、きっとどこかには、ニーナのなけなしの貯金でも買えるような、小さな空き家があるはずだ。
厳しい顔をした門番に通行証を返し、ついに王都の外へと踏み出す。
振り返れば、王都の豪奢な塔群が、春霞の向こうにそびえ立っていた。
かつてはあそこに憧れて、必死に勉強して、しがみついて生きてきた。
でも今のニーナは、あの塔を見ても「あんな狭い鳥籠から抜け出せてよかった」という圧倒的な解放感しか感じなかった。
「さようなら、ブラック宮廷。一生、ごきげんよう!」
誰に聞かせるでもなく明るく言い放ち、彼女は晴れやかな笑顔でペロリと舌を出した。
そしてトランクを片手に、まだ見ぬ未来へと軽やかに歩き出す。
行き先は――そうだ。
あの嫌味なクロードや、宮廷の人間が絶対に寄り付かないような場所がいい。
できるだけ遠くて、空気がきれいで、家賃が破格に安くて、静かなところ。
誰にも邪魔されず、私だけのスローライフを満喫できる場所。
「うーん……最果ての辺境とか、案外ぴったりかもしれないなあ。魔力も豊かそうだし」
地図も持たずに冗談めかしてそう呟いたニーナは、この時まだ知る由もなかった。
その「最果ての極寒領」で、自分が作った甘い薬が、国を揺るがすほどの『奇跡』として崇められることになるなど。
森で助けた真っ白なもふもふが、ただの犬ではないことなど。
そして、血だらけの“狂犬公爵”が、ある嵐の夜に彼女の穏やかな人生へ、ものすごい勢いで転がり込んでくることなど。
今はただ、長かった苦く辛い日々の終わりが、少しだけいちごの甘い香りをまとって、輝かしい幕を開けたばかりだった。
宮廷を追われた不遇の錬金術師ニーナの、甘くて温かい新しい人生は、ここから始まる。




