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腐女子とゆめかわ男子の契約恋愛  作者: 遠野まさみ


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オタクというもの4



十月になって、生徒会の選挙が行われた。昨年度に引き続き梶原は立候補で、鳴海は推薦で、それぞれ生徒会長と副会長に就任した。他にも、会計には栗里、書記には清水が新たに就任した。会計に推された栗里が、責任感と行動力だけはあるから、と推薦したのが清水だった。

かくして、生徒会室で初回の顔合わせが行われた。鳴海は栗里を介して清水を認識しているが、梶原と清水は初対面だ。そんな清水は、初対面の梶原に早速怒鳴られている。

「なーにが会長らしく、だよ。俺は俺の生きてきた生き方があんだよ。そもそも立候補した俺と、推薦のお前では意気込みだってちげーだろ」

会長席に座って、足を机の上に投げ出している横柄な格好のまま、梶原は清水に言い放った。

「立候補だろうと推薦だろうと、全校生徒の信任を受けてる身は同じです! それに、生徒会長の素行が悪いなんて、聞いたことない!」

「素行じゃなくって、態度な、態度。そこ間違えんな」

ぴゅっと手元の消しゴムを投げて、清水の額に当てた梶原はやはりスポーツ万能だ。どうやったらあの小さな消しゴムが、清水の額という、これまた狭い所にヒットするのか。

「も~! 栗里先輩、あの人になにか言ってやってください! 態度も性格も成績も、絶対栗里先輩の方が会長に適任なのに!」

「それは無理。だって僕、市原さんを人質に取られてるからね。梶原と市原さんをめぐって正々堂々男の勝負をするのは良いけど、清水の機嫌を取るために梶原を引きずり下ろして市原さんの好感度下げるのは嫌」

「ええ~、先輩! なんで恋人いる人が良いんですかー!!」

「清水が自由の中から選んで僕を好きなように、僕だって自由の中から好きな人を選ぶんだよ。駄目なんて言われることじゃないと思うけどな」

飄々とした態度で清水をかわす栗里は、梶原よりも癖がありそうな人物だな、という印象だ。大体、恋愛を狩猟本能と同じだと言う時点で、かなりおかしい。それとも鳴海が知らないだけで、一般の男子ってそんなもんなのか?

疑問に思いつつ、これが二次創作だったらどうだろう、と思いを馳せる。いい加減な生徒会長に有能な会計。思い付きで大雑把な計画を立てる会長の尻拭いをする為に、敏腕会計が予算のつじつま合わせに奔走する……。ピッシブにもありそうな、如何にもな組み合わせだな! これを神絵師が漫画に起こしたらどんなに楽しいだろう!? などと思いながら閉会を宣言する。

「では、第五十八代生徒会第一回生徒会は、再来週の金曜日開催という事で、皆、よろしくお願いします」

各自が筆記具を仕舞って席を立ちあがる。鳴海も帰るつもりで立ち上がった。……と、その時、ちょっとノートの角が斜め前の梶原の机の上に載っていたスマホに触れてしまい、梶原のスマホが床に落ちた。ガコン、という鈍い音と共に、プラスチックのスマホカバーを付けた梶原のスマホがスーッと床を滑る。

「あ、梶原。スマホ落ちたよ」

栗里がそう言って、自分の席の前に滑って来た梶原のスマホに視線をやった。栗里は机から身を乗り出して、親切に梶原のスマホを拾おうとした。その時鳴海は見た。梶原の顔を。しまった! ヤバい! という顔をした、梶原の顔を。この顔を見るに、きっと、会議中に今まで撮り溜めた画像フォルダを眺めていたに違いない。……そう、沢山のクロピーの写真を……。

「ごっ、ごっめん! 栗里くん!!」

鳴海は咄嗟に席から飛び出し、生徒会室に机で囲った四角の床にヘッドスライディングするかのように滑り込んだ。そして栗原の手が梶原のスマホを拾い上げる前に、自分の手の中に収めて安堵する。

「どっ、どうしたの、市原さん……」

突然の鳴海の奇行に、栗里がびっくりしている。しかし、何が何でもこの画像たちを隠し通さなければならない。梶原とは、お互いの秘密を守ると言う契約を交わしているのだから。

「いやあ、ごめん!!  私の見られたくない写真があるから!」

「そんなアクロバティックな技を繰り出してまでも、見られたくない写真って、なに?」

「言えないから、見られたくない写真なのよ!」

ぎゅっとスマホの液晶側をお腹に押し付けて立ち上がり、液晶を伏せて梶原に渡す。鳴海は梶原と目と目で会話した。

(うおー! あぶねー! ナイスフォローだぜ! 市原!! やっぱ、推しを持つオタク同士は助け合えるんだな!!)

(迂闊なことしないでよ!! 私の腐バレもかかってんのよ!!)

栗里は荷物を纏めて立ち上がると、机を回り込んで梶原の許へ行く。勿論梶原はスマホを鞄に隠した。

「ちょっとくらい、見せてくれたって良いでしょ。市原さんがあそこまでして見せたくない写真って、逆に興味湧いちゃうじゃない。ねえ?」

「……ねえ、じゃねえ……。これは市原が協力してくれて(ブッフェに付き合ってくれたおかげで)撮れた、俺のサイコーの宝物なんだよ」

栗原を威嚇して凄む梶原は、確かにばらしたくない宝物を守る姿勢だった。その表情を見て、ますます栗里が面白そうな顔をする。

「へえ……、そんなに意外な顔するの? 是非とも僕の前でも見せて欲しいな」

栗里は微笑みを浮かべたまま、梶原を通り越して荷物を整理している鳴海の許に来て、腰を折るとずいっと顔を寄せてきた。その距離、鼻先五センチ? ……こうやって間近で見てみると、香織たちが騒ぐのも分かる気がする。

(へえ……、確かに造作は整っているわね……。ウイリアムの王子然たる気品には及ばないけど、最初の紳士っていう印象は変わらないな……。まあ、性格がひねくれてたらどうしようもないけど)

まじまじと近距離での栗里の顔を観察する。暫くそうしていて、栗里は肩をすくめると姿勢を戻した。

「まるで反応してもらえないとなると、傷付くなあ……。僕ってそんなに魅力ない? なんだかますます市原さんに興味がわいちゃうよ」

「わかなくてもいいわよ。基本的に大事な人(推し)にしか反応に出来ないように出来てるから」

「そこがだんだん反応するようになるのが、恋の面白い所だよ」

猫が穴から鼠が出てくるのを待ち構えるような顔で栗里が鳴海を見るが、残念ながらそこに鼠は居ないのだ。そこへ割って入ってくるのが清水なのは、もう恒例と化した。

「先輩!! そんな先輩を振り向かない女のこと、忘れてくださいっ!!」

(恋も愛もウイリアムとテリースの間にだけあればいいし、私は常にそれを見守る立場だから、恋という名のものは私の中には存在しないんだよねっ!!)

鳴海はまとめた荷物を持って席を立つと、自分より背の高い栗里を睨みつけて、人差し指で栗里の左胸を指した。

「あー、ばかばかしい。そもそも栗里くん自身が恋してないのに、なんで私が栗里くんに恋しなきゃいけないの。そもそも論、そこから間違ってるから」

じゃあ、私、帰るから~。

ひらひらと生徒会室を出て行きながら振り返りもしないでメンバーに手を振る。鳴海の推しとは比べ物にならないくらいに、やはり現実の男子はばかばかしい。そういう意味では梶原の推しに対する愛情は理解できるから、やっぱり自分にとってリアルな恋なんてものほどどうでも良いことはないのだな。

「あっ、市原!」

生徒会室の扉を閉め際に中から梶原から名前を呼ばれて、一応彼女として立ち止まる。梶原は鞄に仕舞ったと思っていたスマホを握りしめて、生徒会室から出た鳴海に駆け寄って来てスマホの画面を鳴海に見せた。

「これ! 今度あるんだけどよ」

嬉々として梶原が見せてきたスマホの画面には、ピーロランドのコラボショップが東京で限定開催されると言う情報が表示されていた。成程、今度はこれに行ききたいってことか。

「付き合っても良いけど、どうにも割に合わないわ。梶原の行きたいとこばっかに付き合ってるじゃない」

「そう言うなよ。市原が行きたいところがあるときは絶対付き合うから」

「私は別に付いて来てもらわなくても、一人で満喫できるけど?」

梶原は鳴海の推しに理解がない。同性という事もあり、やはりBLという壁は梶原にとって高いようだった。そう思うと、この契約、梶原に一方的に有利だな?

なんて疑問を抱いている()に、梶原に生えている見えない耳と尻尾がしゅんと垂れる。ああ~、きっとテリースの前でだけ見せるウイリアムの愛情ゆえの甘えをテリースが見たらきっとこんな感じだろうなあ、なんてちょっと自推しで梶原を補完してみたけど、梶原には萌えなかった。やっぱそうよね。

「まあいいわ、貸しにしとくから。いつか困ったことがあったら助けてよね」

「それは勿論、クロッピに憧れるものとして当然」

生徒会室を出てすぐの廊下でこそこそと話をしていたら、どうやら同じく生徒会室を出てきた栗里と清水にその様子を見られていたようだ。栗里が、うーん、と面白そうに鳴海と梶原を観察してこう言った。

「やっぱり梶原と市原さんって、恋人同士には見えないんだよなあ……。性格が違い過ぎて、どうにも接点が見当たらない。梶原が市原さんに惚れてるっていうのも納得できないし、市原さんがどうして梶原を好きなのかも理解できない。君たち、お互いの何処を好きになったの?」

そもそも論か。そこを突かれると痛いんだけどな。

「恋人同士の内情を、外野に触れて回る必要があるかな」

鳴海が栗里を牽制すると、栗里は肩をすくめて笑った。

「疑念が払しょくされないままになるだけだけど?」

明らかに挑発を意識した言葉に、梶原がけれど冷静に応じる。

「誰に疑問に思われようが、お互いだけが分かってればいい気持ちってあるだろ。お前そんなことも分かんねーのかよ」

栗里が肩をすくめて諦める。その様子を見ていて思いついた。もしやこの二人、鳴海というモブを挟んだカプが成立してしまうのではないか? モブを取り合っているうちに、お互いの負けん気で駆け引きするケンカップルのようなBLが成り立ってしまう!! その場合はどっちが攻めだ? 梶原は行動力もあってガキ大将がそのまま高校生になったような奴だけど、栗里と並ぶと意外と頭脳派の栗里が攻めになるのかもしれない。腕力勝負のガキ大将が頭脳派の攻めに論破されて……、なんて、結構二次創作で見てきたな!? いや、いっそ正攻法で梶原が攻めってどうだろう? 頭脳派栗里は梶原の直情的な感情表現にほだされていって、どんどんふにゃふにゃになっていく!! これは王道だわ!!

……などと鳴海が妄想してにやにやしていたのをどう見たのか、梶原が呆れた顔で、帰るぞ、と鳴海を促した。


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