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腐女子とゆめかわ男子の契約恋愛  作者: 遠野まさみ


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4/24

契約カップルというもの3

朝、待ち合わせたターミナル駅まで戻ると、鳴海は路線が分かれる梶原に呼び止められた。

「これは、俺のささやかな心遣いだ」

そう言って差し出されたのは、クロピーのキーホルダーだった。梶原の手には二つそれが載っていて、一つは自分用らしい。

「これで如何にも、俺がお前の誘いを断れなくて、仲良く一緒にピーロランドに行った、っていう証拠が出来ただろ」

学校での擬態のテンプレートを作ってくれる梶原は、手の行き届いた男だな、と思う。鳴海はありがたくキーホルダーを受け取ると、鞄に仕舞った。

「これから学校に付けて来いよ。俺は付けないけど持ってる。なんか俺らのことを疑われたら、今日の写真とこれを見せてやれ。お揃いのキーホルダーも良い証拠なんだよ。まあ、今まで通り、お前が学校でしっかりの擬態してれば、疑われる隙は無いと思うから、頑張ってくれよ」

最後にそう言い残して、梶原は帰る電車に乗り込んでいった。鳴海は月曜日からの学校生活のシミュレーションを頭の中で繰り広げた。取り敢えず、由佳にSNSのアカウントを取ったことを報告して、流れるように交わされるであろう女子トークをせねばなるまいな、とは思った。



月曜日に登校すると、席に着いた鳴海の所にクラスの女子たちがわっと集まって来た。

「市原さん、梶原くんとデートしたんだって?」

「梶原くんのエスコートでピーロランドに行ったんでしょ?」

「いいなあ。梶原くんイケメンだしスポーツマンだし、リーダーシップもあるし、いいなって言ってる子多いんだよ」

「でも、梶原くんと市原さんだったら文句言う人居ないよね~。美男美女カップルで、非のつけどころがないし!」

「写真ある? 私服の梶原くん、見てみたい!」

そう口々に言われて、そこまで梶原の人気が女子たちに浸透していたことに驚く。一見、まあイケメンではあるけれど、鳴海が関わるタイプではないと思っていただけに、梶原の先手は確かに鳴海に落ち着きを与えていた。スマホを取り出してクロピーとのスリーショットを見せると、鳴海を囲んでいた女子たちがわっと湧く。

「わ~、期待を裏切らないイケメン! チョイスがおしゃれ!」

「ピーロで目立ったでしょう? こんなイケメンの隣で写真が撮れるのは、やっぱり市原さんくらい美人じゃないと駄目だね~」

口々に騒がれて、おっ、これは表面的とはいえ、理想の卒業式に一歩ずつ近づいてる? と思わせる展開だった。それはまあ嬉しい。この人気を維持すれば、卒業式にわびしい思いをすることはないだろう。鳴海はそう期待した。その輪に加わった由佳が

「シナロールやクロッピよりも、なるちゃんの方がかわいいって言うのが羨ましいな。それに、ただ立ってるだけなのに、梶原くん、ファッション雑誌の読モみたいにかっこいいし。クロッピのイケポーズも霞んじゃうね」

などと言ったのを、周りの女子たちが肯定する。この女子受けが、腐女子であることが知れたら手のひらを反すように覆るのかと思うと、それが、なんとしてでも腐女子であることを隠し通して、友達と彼氏に恵まれた卒業式を迎えるのだと、余計に鳴海に思わせた。

その時、女子の輪の外側からにゅっと背の高い男子が鳴海のスマホを覗き込んだ。

「あれ、市原さんってピーロランド好きだったの?」

「きゃっ!」

声を掛けてきたのは同じクラスの栗里だった。急に現れた栗里に驚いて、小さな悲鳴を上げたのは由佳だ。

「栗里くん、急に人の頭の上からの登場の仕方はどうなの? 由佳がびっくりしてるじゃない」

「いや、みんなが騒いでたから、気になって。驚かせてごめんね、生田さん。大丈夫?」

栗原はやさしそうな顔をしたイケメンで、梶原が剛とすれば栗原は柔、というイメージの物腰柔らかな男子で、こう言う時の女子へのフォローもスマートで完璧だ。由佳は少し顔を赤らめて、突然のことに跳ねたのだろう胸を押さえながら、大丈夫、と頷いた。

「それより、ピーロランドに行ったんだって?」

この高校に入学して以来、この学年ではどっちかというと梶原派という人と、どっちかというと栗原派という人に分かれていた。……とはいえ、学校が二分するようなことはなく、梶原のリーダーシップでこの学年はまとまっていた。

「そうなの、梶原が連れて行ってくれたの。初めてだったけど楽しかったよ」

鳴海がそう言うと栗原は、ふうん? と一瞬思案した様子になって、それからこう言った。

「初めてのデートプランにしては、梶原のプランに頼りすぎじゃない? 普通だったら市原さんの好みを聞いて優先しそうなのに」

そう言うものなのか? なにせ、本質は腐女子で一般人のデートがどんなものか分からないので、言い返しようがない。鳴海としては一般人のデートをリードしてくれたのだから、これ以上ない感謝を梶原に感じている。

「初めてだったんだけど、でも楽しかったよ。いっぱい写真も撮ったし、お土産まで買ってくれたの」

そう言って買ってもらったキーホルダーを見せれば、あっ、それ25周年の記念デザインだね、と由佳からアシストが入る。

「かわいくてお気に入りなの。丁度タイミングよく行けて、良かったわ」

「へえ……。意外だな。市原さんって、そういうかわいい系じゃないと思ってた」

どきっ。本当はカッコいいのとクールの組み合わせが最高に好きですけど、それは言えない。そう思って、そお? とあいまいに返す。

「僕なら、市原さんを本当に満足させられそうなのにな。……市原さんさあ、一度、僕とお試しにデートしてみない?」

「は?」

話の急な展開に鳴海が目を白黒させていると、栗原はにこりと柔和な笑みを顔に浮かべながら、続けた。

「なんとなくだけどね? 市原さんと梶原ってタイプが違うから、趣味とかがかけ離れてるんじゃないかと思うんだ。梶原はアクティブ派だけど、市原さんって文科系というかインドア派に見えるんだよね。だから、僕と市原さんはタイプが似てると思うんだ。デートプランも、テーマパークより映画とかの方が好きそう」

微笑む栗里と、黄色い声を上げる鳴海を取り囲んでいた女子たち。一気に騒がしくなった教室に、廊下から悲鳴のような声が聞こえた。

「栗里せんぱーいっ!! そんな彼氏のいる女よりも、此処に先輩に声を掛けられるのを待ってる女子がいますうー!!」

悲鳴と共に教室の扉を開けて、栗里に体当たりした生徒の胸のリボンは緑色。一年生だな。しかし凄い度胸。普通、後輩って、先輩の教室に入るの緊張するもんじゃない? 少なくとも鳴海はそうだけど。

「清水……。僕は清水とは付き合わないよ。中学の時に何度も言ってあるでしょ」

「だってだって!! そりゃあ、栗里先輩はカッコいいし、スポーツも万能で、頭も良いし、更にはお金持ちのおうちだから、有象無象の女子を煙たがるのは分かるんですけどっ! でも私っ、本気なんですっ! 本気だから、高校まで追いかけて来てるんですっ! この本気さを、分かってもらえませんかっ!?」

おお、朝っぱらから、なんか熱烈な告白ドラマが始まったな。栗里の気持ちが逸れてくれると良いと思って、鳴海が傍観してると、栗里が座っている鳴海の肩を自分に引き寄せた。ぐっと体を引かれて、とん、と肩と背中が栗里に触れる。当然教室内の女子はきゃーと悲鳴を上げ、男子はおいおいーと傍観している。

「清水が悪いわけじゃないし、気持ちは嬉しいけど、僕が清水に持ってる気持ちはほんっとに妹見てるみたいな感覚なんだよ。そんな相手に恋愛するっていうの、無理だと思わない?」

「でもでも、先輩! この女よりも私の方がかわいいです!!」

栗里は、顔でからかう相手を選んでいるのかな。鳴海がそう思っていると、栗里は、違うんだよ、と言った。

「男ってね、手に入りそうなものより、手に入らなさそうなものを手に入れることの方が楽しいの。狩猟本能に似てるね。逃げられると追い掛けたくなる。だから、清水みたいに僕を追っかけてくる子は、最初っから僕の興味を引けないんだよ」

自分を好きだっていう相手に、結構辛辣なこと言うなあ。好きだからアプローチしたい、でもそれが相手をしらけさせる。清水という女の子が、少し可哀想に見えてしまった。

「というわけで、僕は市原さんに興味があるんだよね。どう? 一度僕とデートしてみない? 絶対損はさせないからさ」

るん、という擬音までついてきそうな軽いノリに、鳴海は頭痛を感じた。どうにもこうにも、鳴海の周りには普通の感覚の男子は居ないのか。一年の上期はひたすら擬態上の友達を作ることに集中していたから、三学期になった頃に周りの男子の様子を見てみたけど、やっぱり何というか、鳴海の推しのように鳴海の心を奪ってくれる男子は居なかった。そう思うと梶原はやり方があくどかったけど、鳴海の高校生活の悲願である『彼氏』になってくれたんだから、まあまあ許せる。栗里も、正確に難はありそうだけど、外見は推しそっくりだから、観賞用にはいいかもしれない。

そんなことをやっているうちに予鈴が鳴る。清水はそれでも栗原の言動に堪えないのか、先輩、また来ますから!! と言って、教室を去って行った。

一陣の嵐が去った後、梶原が呑気に登校してきた。鳴海はぱっと栗原から体を話して、そっけなく誘いを断った。

「えーと、悪いけど栗里くんは他を当たってくれるかな? 取り敢えず私、その気ないし」

本音を言えば梶原にだって全くその気はないのだが、擬態しているので『彼氏がいるので』面を装った。栗里はまじまじと鳴海の顔を見て、しばらく考えた後に、

「そう? まあ梶原の彼女だし、そう言われると思ってたけど、市原さんって僕から見て、今でも十分に魅力あるんだよね。だから絶対僕のものにしてみせる」

などと宣言した。鳴海を囲んでいた女子たちのきゃー、という声が教室に響き、梶原がなんだなんだ、とこっちを見ていた。



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