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腐女子とゆめかわ男子の契約恋愛  作者: 遠野まさみ


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告白1


一瞬学校中が浮ついたバレンタインも過ぎると、校舎の三階は再びしん、と静まり返った空間になる。ここまでやってきたことの実績に加え、ここからの最後の踏ん張りどころだった。桜咲く春を迎えるために、みんななりふり構わず参考書に向かっている。

他愛ない会話も少なくなっていた頃、由佳が鳴海に声を掛けた。

「なるちゃん……」

由佳が、何故か心配そうに鳴海を見やってきた。

「なに?」

「……なんか、元気ない気がして……。梶原くんと会ってる?」

なんでそんなことを聞くのだろう。由佳には『振り』だと伝えた筈なのに。

「もう必要ないでしょ、今。みんな受験一色だよ」

バレンタインに少しだけ話せただけで充分。あとは梶原が由佳に告白するのを待つだけだ。

「でも、二次が終わったらあっという間に卒業だし、卒業したら、もう梶原くんと会えなくならない? 後悔しないように、会っておいた方がいいと思うんだけど……」

後悔する、と言われてずきんと心が痛むのは、後夜祭の時と変わらない。しかし、鳴海の場合は自分の心が報われる喜びよりも、梶原の想いが報われる喜び、そして由佳に素晴らしい彼氏が出来る喜びの、二つの喜びを得る方を取るべきだ。二人も幸せになるんだから、そのわきで一人くらい叶わない想いを持ってもおかしくない。もともと梶原も由佳もモテるんだから、ここでおさまらないと余計に辛い思いをする人が増える。此処でおさまるべきなのだ。

梶原は東京の大学に行くと言っていた。鳴海は地元の大学を受験するから、進路は違う。……って、そう言うことじゃなくって。

「なんで、卒業してまで私が梶原と会わなきゃいけないのよ。本当だったら……」

其処まで言って、口を噤んだ。それは、梶原から由佳に伝えられるべきことであって、鳴海が口を出していいことではない。

なるちゃん? と由佳が訝しんだが、鳴海は笑って首を振った。

「本当だったら、三年間、口も利かなかったかもしれない相手なのよ。卒業してまでもはいいわ」

鳴海はそう答えた。どうしてか、由佳が寂しそうに笑って、そして、更に口を開いた。

「あのね……、なるちゃん、文化祭の時に中庭で、なるちゃんと梶原くんの秘密を教えてくれたじゃない……? だから、私もひとつ、秘密を言うけど……、……私も、誰にも言ってなかったんだけど、……私……、好きな人が、居るの……。その人に会いたくて……、なるちゃんを生徒会室に迎えに行ってたの……」

急な話に、鳴海は驚いて由佳の目を見た。由佳は鳴海の目を見つめたまま、恥ずかしそうに微笑んだ。

……あっ、そっか。好きな人が梶原ってわけか……。なるほど、文化祭でランウエイを二人で歩いたことで、由佳は梶原の気持ちを実感したんだろうな。じゃあ、あとは梶原が言うだけじゃん。やっぱり、あのヘタレ男のお尻をもう一度叩かなきゃ。鳴海は嬉しさの脇に染み出てくるじわっとした苦みに気付かないふりをしたまま、微笑んだ。

「そっか……」

「……うん……、そうなの……。……なるちゃんは……?」

由佳が鳴海の両手をそっと握る。……あったかい。由佳は心を籠めて、告白をくれた。梶原もあの時、あれだけ隠したがっていたゆめかわオタクを、どれだけの勇気をもって告白したんだろう。だったら、鳴海の勇気は……? 鳴海が心を籠めて向き合うべき相手は……?

由佳は梶原を好きだと言う。梶原は元から由佳のことが好きだと言っていた。だったら? 鳴海の勇気は……?

どきん、どきんと、心臓が大きく鳴り始めた。

「由佳……。……私……、…………わたしは……」

「……うん」

由佳が何でも受け止めるよ、って笑顔で言ってくれているような気がした。こんなに鳴海に対して誠実な由佳を裏切れない。鳴海は勇気をもって、由佳の目を見た。

「わたし……、本当は……、……腐女子なの……」

「……、…………」

由佳は何も言わない。黙って鳴海の言葉を聞き入れている。鳴海は由佳の表情の変化が怖くて、それ以上は由佳の目を見て居られなかった。俯くと、ふと、鞄が視界に入る。ファスナーが開いていて、奥に仕舞った化粧ポーチが見えた。鳴海はのろのろとした動作でそのポーチを取り出し、……一番奥に隠してあった、鏡の巾着袋を取り出した。巾着袋から、梶原がくれたウイリアムとテリースのアクリルキーホルダーが出てくる。由佳が隣からそれを覗き込んだのが分かった。ごくり、と喉を鳴らして、鳴海は言葉を続けた。

「……香織たちが騒いでた『TAL』のキャラの、ウイリアムとテリース……このキャラのBL妄想してたの……。……引くよね……、……気持ち悪いよね……」

手が、震える……。ここで、由佳に顔を背けられたら……。気持ち悪いものを見る目で見られたら……。でも、確認するために顔を見れない。

ふ……っ、と、鳴海の手にあったかい体温が触れた。……由佳の手だった。

「なるちゃん……」

「ゆ……、……」

名前を呼びかけ切れなかった鳴海に、由佳はやっぱり微笑んでくれた。

「秘密を教えてくれて、ありがとう……。でも、趣味がどうだからとかいう理由では、私はなるちゃんのこと、嫌いにならないよ……。……だって、なるちゃんの良い所、いっぱい知ってるもん。きっとみんなだって、そうだよ。一年の時に総代で壇上に立ったり、二年生から生徒会の役員やって、この前だって文化祭を大成功に収めたなるちゃんと梶原くんのこと、きっとみんなだって、好きだと思うよ?」

ああ。やっぱり由佳は、梶原が好きになるだけの女の子だ……。だから、梶原がゆめかわオタクを叫んでも動じもしないで、それどころか、その後にランウエイで梶原と仲良さそうに手を繋げたのだ。

嬉しい……。由佳の友達で居られて、嬉しかった。ぽろりと、鳴海の目から涙がこぼれた。

「ありがと、由佳……。由佳にそう言ってもらえて……、私、嬉しい……」

こんなに素晴らしい親友を得たのだ。もうこれ以上望まない。鳴海は由佳に背中を撫でられながら、そう思った。

これ以上は、もう贅沢……。


「梶原が私に唯一くれたプレゼントがこれなのよ」

アクキーを揺らしながら、笑っちゃうよね、と鳴海は由佳に言った。

「恋人役にこんなものしかくれなかったの。そんなことも分からないくらい、梶原には好きな人が居るのよ……」

由佳は黙っているだけだった。でも、聞いてもらえただけで心がすっと晴れた。やっぱり、隠し事は良くないんだな……。やっと、分かった……。みんなとも、もっと本気で話してくればよかった。でももう遅い……。

鳴海の告白は、これで、終わり。由佳は秘密を他言しない子だし、鳴海は梶原に告白する気はない。由佳との間で秘密は守られて、それで表面上は、目標だった『彼氏と一緒の卒業式』を迎える。中学卒業の時に立てた目標が達成できるんだもん。ちょっとの不都合くらい、目をつぶらなきゃ。

「ふふふ。馬鹿みたいね。最初っから、分かってたことなのに」

腐女子だもん。妄想でいっぱいいい恋見てきたから、リアルの恋は実らないよ。鳴海はそう思った。由佳は黙って鳴海を見ていた。

冬の風が、鳴海たちの周りを通り過ぎた。校舎の影で、栗里が鳴海たちのことを見ていた……。


鳴海が、用事があると言う由佳と別れて帰ろうとしたら、校舎の角を曲がったところに居たのは栗里だった。

「僕が取ってあげたキャラぬいが、市原さんの生きがいだったんだね」

聞いていたか、見ていたのか。今も鳴海の鞄のファスナーからはポーチの口から覗く、アクリルキーホルダーの姿が。

「そうなの。あの時はホントに嬉しかった、ありがとう」

心底本音なのでそういうと、栗里はやけに真面目に鳴海を見た。

「僕だったら、市原さんがあのキャラたちを好きでも構わないよ。梶原は生田さんを好きなんでしょ? 僕にしなよ」

「あはは、栗里くんには腐女子なんて似合わないし、もっと真っ当な子を選べるでしょ?」

笑い飛ばして、栗里の脇を通り過ぎようとした。その時、横から手が伸びて、まるでマフラーを撒くみたいに、首から肩を抱き締められた。

「……っ!!」

「僕にしとけばいいのに。……絶対に本当の笑顔にさせてあげるよ……?」

校舎の影を見渡せる渡り廊下の窓から支柱にさっと隠れる人影を、孝也は視界の端に認めたけど、市原を抱き締めた腕は解かなかった。ひゅう、と足元を冷たい風がさらう。もう少ししたらぬるんでくるはずだ。その頃には、孝也も市原も笑えている筈なのに。

「……栗里くんはさ、手に入らないもの(私)だから、手に入れたいって思うだけだよね。それってないものねだりで、恋じゃないと思うんだ」

最初に宣言した言葉が悪かった。あの時は梶原に対抗するばかりで、こんな気持ちになるとは思わなかったのに……。

「違う、僕は……っ」

「違う? だって、狩猟本能なんでしょ? 恋じゃないよ」

「ちが……っ」

言葉に詰まる栗里に、鳴海は淡々と告げる。

「どう違うの? 全校生徒の目の前で、梶原に見せつけるようにして私の手を取ったのは、表面上私の彼氏である梶原に対抗しようとしたからだけじゃないの? それって、男の対抗意識だけで、つまり手を取るのは梶原を悔しがらせる相手なら、私じゃなくても誰だってよかったよね? 梶原が公言してたら、由佳だって良かったわけでしょ?」

「ちが……っ! ……っ、いや……、……そっか。……、そうか……、……うん、そうかも……、そうかもしれない……、ね……」

栗里の胸に去来した想いは何だったのか。それは鳴海には分からなかった……。



交際を断ったからと言って、明日学校休んじゃ駄目だよ、そもそも私のこと好きでも何でもないんだし。

そう言い残して、市原は去った。やれやれ、孝也が本気で告白して落ちなかった女の子は、もしかして初めてじゃないだろうか? というか、市原以上に本気だった恋があっただろうか?

ため息交じりに髪をかき混ぜると、昇降口の方から生田が出てきた。

「……栗里くん……」

「……なに。見てたの……? 趣味悪いなあ……」

きっと今、自暴自棄で、普段のやさしい王子さまを演じられていない。皮肉に曲げた口許に動じることなく、生田が孝也の前に歩み出て、孝也の目を見た。

「……っ、……わたし……っ、……わたし、栗里くんのことが、すき……です……っ」

馬鹿らしくなる。傷心に付け込めば、OKするとでも思ったのだろうか?

「……生田さん、見てたんでしょ? それなのにこのタイミングで告白するって、すっごく卑怯だよね? 僕がそんな気になると思う?」

孝也が、わざと女の子を傷付けようとして言葉を吐いたのは、多分これが初めてだ。生田はそれでも驚きもせずに、孝也を見つめ続けた。

「良いの。伝えたかっただけだから……。なるちゃんがランウエイで寂しそうだったから、なるちゃんを悲しませたくなくて、言えたの……。好きな人が誰をちゃんと好きなのかは、見てきたから分かります……」

微笑んでそう言う生田の輝いた顔に、孝也は一瞬見惚れた。

「聞いてくれて、ありがとうございます。みんなには、何も言わないので……」

そう言って、生田は孝也に頭を下げて去って行った。みんなみんな、孝也の許から去って行く。孝也はそうやってまた、王子さまを演じ続けるのだ……。



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