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腐女子とゆめかわ男子の契約恋愛  作者: 遠野まさみ


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契約カップルということ4


「お疲れ」

「いや、こっちこそごめん。俺の顔立ててくれて……」

結局、プランナー代はどうにもならないけど、生花店とのメッセのやりとりで生花は提供してもらえることになった。花冠に仕立てるのは、華道部の部員の中には洋花も扱える部員が居るらしいから、その人たちに頼もうという事に落ち着いた。華道部の部長も突然の申し出を快く受けてくれて助かった。良くも悪くも梶原のリーダーシップがものを言った。

そんな夜遅い帰り道だったけど、鳴海の心は弾んでいた。学校から帰れば、家で『TAL』の新衣装を見れるのだ。今年は『TAL』が発売になって五年目で、記念の年だから色々なオプションが用意されているらしく、新衣装も度々公開されている。そんな喜びが脳内いっぱいに広がっていた時だった。

「あぶね!」

ぐっ、と横からウエストに引っ掛けられた腕の力で背後に引き戻されたかと思うと、ドン、と背中に制服の感触を感じるとともに、目の前を派手なクラクションを鳴らしながらゴオーっという音をさせてダンプが通り過ぎて行った。……横断歩道が赤だったのだ。

「おいおい、死ぬ気かよ」

「い、いや、ごめん……。前見てなかった……」

急にどきんどきんと心臓が走り始める。あの大きなタイヤに引かれていたら、打撲程度じゃすまなかった。そうなれば、新衣装のウイリアムとテリースにも会えなかった。……って、それより。

ぎゅっと背後から抱き締められたままの姿勢にどきどきする。これって、吊り橋効果だよね?

「……っ、く、くるしいんだけど……」

訴える声が弱々しくて、我ながらぎょっとする。梶原はもっとびっくりしたようで、あ、わり! と慌てて手を放してくれた。でも……。

梶原が、確実に、鳴海の命を守ってくれたのだ。


電車に乗っても鳴海の心臓はおかしかった。梶原は最初のデートの時から変わらず、何時も通り鳴海を扉の横に立たせて、自身は握り棒を持っているだけなのに、鳴海の心臓は跳ねっぱなしだった。

どきん、どきん、どきん、どきん。

顔の向きをそのままに、視線だけを梶原の顔の方に向けてみると、梶原はぼーっと車窓から流れていく夜景を見つめているだけだった。それなのに。

のどぼとけ、出っ張ってるなあ、とか、あれっ? もしかして髭、生え始めてるのかな? とか、意外と体臭、くさくないんだな、とか、たった今、新鮮に知ることばかりだった。

列車がレールを滑る音に合わせて、鳴海の心臓が跳ねる。

タタン、タタン、タタン、タタン。

どきん、どきん、どきん、どきん。

なんで急に、こんなに梶原に対して心臓鳴らしてんだろ。おかしいや、私……。

『次はー、――――駅、――――駅~……』

そう車内放送が流れた時だった。降車の客だろうか、二~三人の人の塊が扉の方に寄ってきて、梶原を後ろから押した。その拍子に、どん、と壁に付かれた梶原の手は、鳴海の顔の真横に。

「うおっと、わり。押された」

「あ、……いや……、だいじょぶ……」

タタン、タタン、タタン、タタン。

どきん、どきん、どきん、どきん。

なんだ、この変な協奏曲は。早く電車止まって欲しい。そしてこの体勢から解放して欲しい。

ふわっと香る、かすかな汗のにおい。変なの。リアル男子の汗のにおいなんて、絶対御免だと思ったのに。

……変なの。

タタン、タタン、タタン、タタン。

どきん、どきん、どきん、どきん。

協奏曲は、鳴海が降りる駅まで続いた。

……梶原の手からは、解放されたのに。


「それじゃ、お疲れ」

其処は鳴海の家の前。梶原は鳴海が自宅の門の前で見送る中、夜道を駅へと戻って行った。女子に夜道は危ないからと、それだけの理由で、由佳相手でもないのに梶原は電車を途中下車して家まで送ってくれたのだ。

梶原が駅へと向かう角を曲がったのを見届けた後、鳴海は門扉に手をかけ、はあー、とため息を吐いた。

「そりゃないよ、梶原……」

呟きは、夜の住宅街に吸い込まれて消えた。



「そろそろ禁断症状が出てきた……」

ぼそりと梶原が呟いた時、鳴海はコンタクトの調子が悪くて、鏡で目を見ていた。梶原の言葉に、そういや最近ゆめかわに会ってないなあ、と思った。鳴海はいつでもスマホを開けば現物のウイリアムとテリースに会えるけど、梶原は基本、グッズしか家になく、ピーロランドまで行かないと現物に会えない。メッセージアプリの壁紙やスタンプのクロピーでは物足りなくなったのだろう。

「じゃあ、近いうちに行く? あんまり文化祭が差し迫ると、身動き取れなくなるから、なるはやで」

「良いのか!?」

ぱあっと顔を輝かせる梶原をかわいいと思ってしまって、我ながら重傷だと思う。なんでこんなことになったんだ。でも仕方ない。梶原が喜んでる様子が嬉しいのだから。鳴海は梶原の為にスマホを操作した。

「今は何のイベントをやってるんだろ……、あ」

画面をスクロールしていて、とてもいいイベントを見つけてしまった。これを予約したら、きっとクロピー好きの梶原が喜んでくれそうだ。すっすっすっ、と画面を操作して兎に角日だけ抑えてしまう。ピーロなら梶原は絶対断らない筈だからという謎の自信をもって、鳴海は梶原に声を掛けた。

「じゃあ、来週の日曜日どう?」

「なに? デート?」

梶原の返事を聞こうと思って梶原にしか意識が行ってなくて、背後から鳴海の手元を覗き込んだ栗里に気付かなかった。

「わあ! びっくりさせないでよ、栗里くん!」

「いや、生徒会室でなにデートの計画してんの、って話でしょ」

「会議はちゃんと聞いてるじゃない。私語禁止でもあるまいし、何喋ってても文句言われる筋合いはないわ。栗里くんだって清水さんとよく話してるでしょ」

鳴海が言うと、まあそうだけど、と言って栗里が話を続ける。

「でも、もしかして梶原がピーロランドを好きだったの? 以前デートで行ったとか言ってた時は、女の子受けするからって理由だったって話だったけど」

栗里の言葉に驚いた。まさか梶原の呟きから聞いていたとは思わなかった。鳴海は慌てて取り繕う。

「ちっがうよ! 私が好きなの!! 最初のデートの時も私がお願いして……」

そこに声を上げたのは清水である。

「えー、でも市原先輩の持ち物って、どっちかってシンプルでシックなものが多いですよね? 筆箱とか、化粧ポーチとか、グレー系が多いし……」

はっとした。確かに高校デビューを目指してオタクっぽい持ち物は封印した。オタクっぽいものの正反対のものを持とうと思って、シンプル・シックを心掛けて持ち物を選んでいた。成績の所為もあるが、才女、というイメージを持たれたのは、身の回りの物のイメージもあるのかもしれない。

(ヤバい、どう言い訳したら……)

鳴海が言葉に詰まったのを、まるで引き受けるかのように梶原が口を出した。

「ポーチは俺がプレゼントしたから、ちょっと大人っぽかったかもしれないな。わりいな、市原」

ナイスフォローだわ! 梶原!! 鳴海は直ぐに梶原に続く。

「良いのよ、梶原。私も梶原に似合う彼女になりたくて頑張ってるの。水差さないで。二人とも」

ふう、ん? と疑問露わな栗里と清水に、今日の会議の資料を渡してしまう。もうさっさと仕事を始めてしまおう。梶原とは、あとはメッセで何とかしたらいい。今直近で口頭でのピーロランドというワードはヤバい。

鞄から出ていたポーチを二人の視線から隠すように仕舞おうとした。その時に梶原がパッとポーチに手を出してきた。

「あぶねー! 零れるだろが!!」

梶原の叫びに驚いてその手を見ると、大きな手が鳴海のポーチの開いていたファスナーの隙間から見えていた、梶原に貰ったウイリアムとテリースのアクキーの頭を隠していたのだ。

(うおっ!! ヤバかった!! ナイスフォローよ、梶原!)

(うっかり過ぎるだろ、お前!! 今の状態でこれ見られたら、どうするつもりだったんだ!!)

視線のやり取りで、お互いの言いたいことは分かった。これは鳴海がうっかりしすぎた。何時もならアクキーを入れた鏡の巾着はポーチの一番底に収めているのだが、さっきコンタクトの調子を見る為に鏡で目を見ていたのだ。だから巾着に戻した鏡を、ポーチに挿したままだった。あの後、梶原の為の良いアイディアを思いついてしまったため、巾着の扱いが疎かになっていたのだ。うかつだったことを認め、内心謝罪した。

(ホンット、ごめん! その代わり、今度の日曜は絶対喜ばせてあげるから!!)

早く喜色満面な梶原の顔が見たい。鳴海は手元の資料に視線をやりながら、そう思った。



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