表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐女子とゆめかわ男子の契約恋愛  作者: 遠野まさみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/24

契約カップルということ3


ショッピングの後、日差しの明るい白木が使われた緑あふれるおしゃれなカフェ(いかにも梶原がチョイスしなさそうなところだ)でお茶をしていたら、店の扉がバターンと開いた。

「栗里先輩!!」

そう叫んで店に入って来たのは、清水だった。ずかずかずかっと店内をまっすぐ鳴海たちのテーブルの方に歩いてきて、栗里と、それから鳴海の顔を見比べた。

「どうして!! 私の誘いは無視するのに、こんな女と一緒に居るんですか!!」

バンッとテーブルに手を付くと、ギッと鳴海をねめつけた後、栗里に涙声で、酷いですう~、と訴えた。

「凄いね、清水。僕、店の名前は載せなかったと思うけどな」

そう言ってスマホを確認している。さっき、自分の頼んだコーヒーとチーズケーキの写真を撮っていたから、もしかしたらSNSにアップしていたいのかもしれない。リア充男子はやることが違うな。

「そんなの、食器を見れば分かりますよ! それに、このチーズケーキは此処の店自家製のケーキだから、一発判別です!!」

うわあ、食器とケーキの形状で店を割り出すなんて、ストーカーかな。そんなことを思ってしまっても、仕方なかった。しかし栗里は動じた様子もなく清水に応じていた。

「諦め悪いなあ、清水。僕がお前の誘いを受けたことなんて、一度もないじゃないか。それに、休日に僕が何処で誰と何をしようと、僕の勝手なんじゃないのかな? それこそ、僕のSNSを勝手にチェックして勝手に此処に駆けつけてるお前と同じようにさ」

ぐうの音も出ない問答無用さに、ちょっと清水に同情したくなる。しかし、その清水の怒りの矛先は鳴海に向いた。

「市原先輩もなんですか!! 梶原先輩という彼氏が居ながら栗里先輩とデートだなんて二股、汚いです!! どういう神経してるんですか!?」

二股、というワードが、清水から見たら、『鳴海と梶原がカップルであるべきで、そこに栗里を巻き込むな』、という意味に聞こえた。……梶原は、鳴海の本当の恋人じゃないのに。だって、梶原は、……多分、由佳のことを……。

黙り込んだ鳴海に、何とか言ったらどうなんですか!? と清水が激昂する。その怒声にハッとした鳴海は一旦、深呼吸をした。

(私は……。……私は……)

そうだ。私の心はウイリアムとテリースにある。ちょっと……、ちょっと梶原とのオタク話が楽しくて、勘違いしたけど、私の恋はウイリアムとテリースの恋心にあるんだわ。

そう思えば視界は明瞭だった。ふふふ、と口の端が上がり、にんまりと笑える。

「二股でも何でもないよ。栗里くんに、私は何の感情もない(し、梶原とも本当の恋人じゃない)し、私の(本当の心の)恋人は……」

脳裏に浮かぶ、宮廷でのウイリアムとテリースの夜の庭での逢瀬。ウイリアムの蒼い瞳がテリースの黒い瞳を捕らえて、そして、ウイリアムはテリースの顎を捕らえ……。ああっ、この神々しい光景に芋栗カボチャのリアル男子が適うもんか!!

「やっぱり栗里くんより、かっこいいから」

にまあ、と笑ってしまう。やっぱり鳴海の推しは最高だ。そんな鳴海を見て、清水は地団太を踏んだ。

「趣味ワルっ!! あんな粗野男の何処が栗里先輩に勝るっていうんですか!! 趣味ワッル!!」

趣味悪いのは清水であって、鳴海の推しは品が良い。そんなこと言われる覚えはないな、と憤慨していると、言い争う(?)二人の間に栗里が入る。

「市原さんに文句を言うのは筋違いだよ、清水。今日は僕が頼み込んで、付き合ってもらってるんだ。市原さんを責めるんじゃない」

「でっ、でも、先輩! この女は梶原先輩と……!」

激昂する清水を、栗里が正す。

「そうだよ、梶原の恋人だ。でも、人のものだからって市原さんの恋人になりたいって思っちゃいけないこと、ないだろう? それこそ、お前が僕を想うように、僕が市原さんを想ったって、その気持ちになんの咎もないだろう?」

えっ、栗里、意外と機転が利くな? それ、本心だったら怖いけど、この場をしのぐ言い訳だよね? だって、鳴海にはその気はないし、栗里だって狩猟本能で落としてみたい、ってだけの感覚なんだから。そう考えると、栗里と清水は同義だ。

「でもさ、清水さんのしてることは、栗里くんのしてることと一緒なんじゃないかな……?」

栗里と清水の会話に鳴海が口を挟むと、二人はぱっと振り向いて鳴海を見た。

「どういうことですか?」

清水が怒気も露わに鳴海に噛みつく。鳴海は清水に向かって諭した。

「だって、『その気ない』って言ってる相手に一方的に気持ちを押し付けてるでしょう? 栗里くんのこと好きなんだったら、もう少し栗里くんのことを考えなきゃ……。恋って、自分の気持ちを押し付けるだけのものじゃないと思うのよ。相手のこと好きだからこそ、相手のことを思い遣れる心が育つんじゃないかな?」

その言葉は、鳴海にも帰った。鳴海はこうも付け加える。

「清水さんは多分、好きなキャラクターに似てるから、っていう入り口から栗里くんのこと好きになったんだよね? だったら、余計に栗里くんという人を分からなきゃいけないんじゃないかな。栗里くんは、清水さんが好きな、作り物のキャラクターとは違う、生きた人間で、感情を持ってるんだよ」

そこまで言うと、清水はグッと言葉に詰まって悔しそうな顔をした。100%とは言わないけど、かなり当たっていたようだった。そして、栗里も思うところがあったらしく、神妙な顔をしていた。こういうのも二次創作であるよね。憧れから恋に代わる瞬間に、攻めがすっごく成長して、受けがそれを眩しくみるパターン。その後二人は、坂道転がるようにでろでろに甘い溺愛の恋愛を味わうんだわ。

鳴海が一人で納得して、テーブルがシンと静まる。栗里は伝票を持つとカタンと席を立った。

「白けたね。お開きにしようか」

自分を間に諍い(?)を起こす女子二人(?)を納得させるために、栗里は鳴海を解放した。それは鳴海の為でもあり、清水の為でもあった。



「おう、市原。花屋から見積もり来てたぞ」

ぺらっと印刷した見積書を鳴海に渡した生徒会顧問の教師は、花材の発注のやり取りとフラワーデザイナーへの連絡を鳴海に任せて、職員室に戻って行った。鳴海は日の暮れた生徒会室の電気をつけて、備え付けのパソコンの電源を入れる。同時にファイル棚から書類ファイルを引っ張ってきて、過去の文化祭経費と今回の文化祭の予算との比較を行った。

……やっぱり生花を依頼するだけで結構お金がかかる。おまけにフラワーデザイナーまで頼むとなると、向こうはプロだから、それなりの値段を要求されてきている。此処の生花店はこのデザイナーとの専属契約みたいだから、他を当たったほうがいいのかな。でも、高校から一番近い生花店はこの生花店だ。

由佳が紹介してくれた生花店は教室をやっていることもあって、各サービス揃っていて素晴らしいが、今年は外部バンドの誘致に予算を取られて、正直他の予算はカツカツだ。備品も新調したいものは沢山あったが、全部既存品で賄った。だから、梶原の(由佳に話し掛けたいと言う)思い付きで行動された尻拭いを、鳴海がしているのだ。こんな理不尽な事あるか?

鳴海は今年の予算と過去の経費の比較をして、ぽちぽちと電卓をたたいた。梶原の思いつきはあれだ。おそらく今、女子で人気ナンバーワンの由佳が花冠を被ったところを見たい、とか何とかなんだろう。そんな浮ついた計画の所為でこっちはこんな遅くまで生徒会室に残ってる。憤然やるかたない、とはこういう心境なんだろうな、と思い至り、はっとする。

何故、腹立たしいんだろう、と、その根本に立ち返ってしまったのである。勿論、梶原の勝手な思い付きで自分が余分な仕事を任されているからではあるが、其処にどんな感情があるというのか。由佳に見せた、あの、だらしない顔。クロピーを前にしてもあんな顔はしなかった。当然、鳴海に対してもだ。其処に思い至ってしまって、うああ! と頭を抱える。

(待って!! 私の心はウイリアムとテリースの恋模様そのものにあるのであって、間違ってもリアル男子になんかない!! ましてや、あの中学時代の黒歴史を刻んだあの男子と同じことした梶原になんか……っ!!)

そう思った時だった。シンと静まり返っていた生徒会室の扉がガラッと開いて、鳴海は飛び上がるほど驚いた。

「なんだよ、市原。こんな遅くまで」

扉を開けて入って来たのは梶原だった。まさかさっきの今で梶原と顔を合わせるとは思っておらず、鳴海は動揺した。

「いやっ! 悪いのあんただから!!」

「はあ? なんで開口一番、俺が悪いんだよ」

「だって、あんたが由佳にあんなこと頼むから……!」

その言葉で鳴海の前にある資料のファイルと電卓の意味が分かったらしく、梶原は瞬く間に顔を赤くして、うー、とか、あー、とか言った。なんだ、その赤い顔と歯切れの悪さ。まるで鳴海の言葉を否定してないな!

「まー、確かに梶原の気持ちは分かるわ。由佳は可憐だし花が似合うよねえ……」

「そ……、そうだよな……! 親友のお前から見てもそう見えるんだな……!」

「あ~、分かる分かる。由佳は守ってあげたいタイプの女子だし、親友としてはそんじょそこらの男子にはやらん、って意気込みだから、私」

言外にお前は対象外だ、と告げたつもりだけど、梶原は分かってないようだった。

「そ……っ、そうなんだよ……っ。生田、困ってる奴を見捨てておけねーなんて、俺の理想そのものじゃん……。生田は、なんか男が支えてやらねーと駄目なタイプにみえるから、狙ってるやつ、結構多いんだよ。でも俺、こんな趣味だから言い出せなくて……」

しょぼんと肩を落とす梶原は、鳴海の前で魅せる姿とはまるきり違った、本気の恋をする梶原だった。だから契約のことを打ち明けた方がいいって言ったのに……。

「契約のこと言わないって決めたのは、あんただからね。……まあ、気が変わったらいつでも受け入れるけど」

「お……、おう……。……でも、クロッピは俺の生きる道だからさあ……」

そこまで言って、またがっくりと肩を落とす。萌えと恋なあ……、何時か鳴海も梶原みたいに悩むときが来るのだろうか。

(いや、ないな)

あまりに簡潔明瞭に答えが出てしまって笑えてしまう。鳴海の場合、二次創作は見守る愛だし、リアルは見込み無しなのだから。

「まあ、そこでぐだぐだ言ってればいいわ。私はこれを片付けないと帰れないから、勝手にやってるわよ」

鳴海が梶原に背を向けパソコンに向き直ると、背後からいきなり手が伸びてきて、資料の半分を持っていかれた。

「手伝う。二人でやれば早く帰れるだろ」

「あら、ありがと」

意外にも親切なところを見せられたのが不意打ちで、何故だか心臓がぴょんと跳ねた。こんなこと、テリースの仕事部屋に積まれた書類を抜き取るウイリアムくらい、見慣れた光景なのに。

(は~、意味のないことに神経使いたくないのにな~……)

ウイリアムとテリースの恋については心配など無意味なくらいゆるぎないものだし、リアルの恋ほど鳴海にとって無意味なものはない。それでも隣の机で電卓をたたく梶原の横顔を見て、ウイリアムにもテリースにも似てない筈なのに、何故かときめいてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ