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腐女子とゆめかわ男子の契約恋愛  作者: 遠野まさみ


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14/24

契約カップルということ2


その後鳴海は生徒会室に戻ると、既に清水は帰っており、栗里もまた、鳴海に約束を取り付けて、上機嫌で帰って行った。廊下に待たせてある由佳のことを思いながら、鳴海は梶原に話を持ち掛ける。

「あのさあ、梶原」

「なに」

それを言うのに、少し躊躇ったのは何故なのか。それでも梶原と由佳の為に口を開いた。

「……『契約』、止めた方がよくない?」

鳴海の言葉に、梶原が鳴海の顔をまじまじと見た。

「……考えてみたら、お互いに弱みを一つずつ握ってる段階で、お互いの弱みは言わないっていう保証になるし、……なにより、梶原、由佳の事、好きでしょ」

ズバリそう言い充てると、梶原の顔が真っ赤に熟れた。

うわー、本気だよ、この人。

「由佳のこと好きなら、私が彼女だと困るでしょ」

其処まで言うと、その先を制するように梶原が、待って! と小さく叫んだ。

「た……っ、確かに、市原と一緒にいる生田のこと、良いなと思い始めてた……。だって、人の為に行動できるとこなんて、まんまクロッピじゃんか。理想なんだよ……。……でも、それと……」

それと……?

「ピーロランドに行けなくなることを天秤に掛けたら、ピーロランドに行けないことの方が、俺にはダメージデカいんだよっっっ!!」

絞り出すような声で言う梶原に、ジャンルは違えどオタクの魂を見た気がした。鳴海だって、いくら推しカプのこと好きなままで良いと言われても、ピッシブ漁りが出来ない状態に追い込まれるのは嫌だ。

「……なるほど……。梶原の考えは、よく分かった……。じゃあ、取り敢えず」

「もう少し、このままで居させて欲しい……。……来月になったら今度は地元でピーロランドのコラボカフェもあるから、一緒に行こう……!!」

華やぐ笑顔と力強い声で言われて、脱力した。

なんだかなあ……。

でも梶原のおかげで、鳴海は今も二次創作を見ることを諦めないで済んでいるし、それはありがたいことなのだ。

だけど、なんか……、なんか、違わない……?

そんな気持ちになったのを、鳴海は自覚した。



おしゃれしてきてね。

そう言って栗里は、鳴海と梶原が偽カップルであることを黙っている代わりに、鳴海とデートすることを要求した。鳴海は金銭に絡まなかっただけ良かった、と胸をなでおろした。以前梶原が『リッツカートルトンをおごらされるぞ』と脅したのに対して『そのくらい』と応えた栗里だ。生活レベルが鳴海や梶原と違うことなんて想像に難くない。金銭目的だったら一体いくら巻き上げられていたのかと、その方が恐ろしい。デートに付き合う事なんて、梶原に連れまわされていることもあって、男子と歩く事にも耐性が出来た。だから問題はなかった。

最初に梶原にピーロランドに連れていかれた時に、洋服に散々ケチをつけられたから、あれから鳴海も私服をそこそこ揃えた。だからその、手持ちの服の中でまあまあおしゃれになる筈のコーディネートで待ち合わせ場所へ向かった。

改札を出ると、駅舎の柱に背を凭せ掛けていた栗里が鳴海を見付けて歩み寄ってくれた。

「やあ、かわいいね。制服姿の市原さんも良いけど、私服も可愛い」

おお、流石リア充男子。開口一番に女子をさらっと褒めるなんて、梶原と違ってウイリアムがテリースに朝一番に会った時みたいだ。

「栗里くんもかっこいいよ。クラスの女の子たちが見たら、私恨まれちゃうね」

「あはは、そうだと良いけどね。さて、何処に行こうか? 市原さん、行きたいところはない?」

えっ? ノープランなの? 梶原は何時もデートコースを決めてきたけど……。

そんなことを思っていると、栗里はさらに続けた。

「前にも言ったと思うけど、市原さんはテーマパークではしゃぐよりも、ゆったりしたデートの方が合ってるんじゃないかと思ってるから、べたに映画とかどう? それでなければ、まずは適当に歩いて気になった店に入ってみるとか」

成程、リア充男子はこうやって女子に寄り添ってプランを立ててくれるのか。流石デキる男子、栗里。梶原とは違うな!

「市原さんは、普段どんな本を読むの? テレビとか漫画とかでも、ジャンルってあるでしょ? 洋服はシンプルな方が好き? 今日着てるのなんて、割とさっぱり目だよね?」

ほう、こういう誘導尋問で、相手の趣味を聞き出すのか。巧みな話術だな、栗里! さりげなく相手の趣味を聞き出そうとし、意向に沿ったおもてなしをする!! これが日本の「お・も・て・な・し」か!!

などと考えながら、栗里に応じる。

「そうだなあ、好きなのは(男同士の)恋愛ストーリーかな。やっぱり(腐)女子は(男同士の)恋愛ストーリーが好きだよ。キュンキュンするもん」

鳴海の脳内で、二次創作のウイリアムとテリースが見つめ合っているシーンが展開される。ああ、あの神絵師さんの描いた夜のシーンは良かった。普段冷静なウイリアムがテリースに愛を告白するときの燃え滾るような熱いまなざし……!! あの描写に鳴海は萌え滾ったのだ。

「そっか。じゃあ、映画でも観に行こう」

栗里がそう言って、駅ビルの上階にある映画館に連れて行ってくれた。チケットを買ってくる、と言った栗里を待っている間、鳴海は悩んだ。

梶原は最初のデートとだましていた罰のデザートブッフェこそおごってくれたが、その後は割り勘だった。それどころか、この前の限定ショップでは鳴海がお金を貸している。果たして栗里がチケットを買って戻ってきた時には、お金を払うべきなのだろうか、どっちだ?

などと考えていたら、栗里が戻ってきて、鳴海にチケットの片方を渡しながら「これはおごりね」と、鳴海の悩みを消し去った。

「財布は仕舞って? デートに誘ったのは僕なんだから、おごらせてよ。っていうか、梶原はおごらなかったの?」

「最初はおごってくれてたけど、そのうち割り勘になったから。私も、ずっとおごられっぱなしは悪いなあって思ってたから、丁度良かったよ。身の丈に合った出費なら、払うべきだと思ってるし」

鳴海が言うと、栗里はにこりと微笑んだ。

「そういう考え、すごく良いね。女の子の中には絶対おごられたい、っていう子も居るから、市原さんの考え方は好感度高いよ」

いや、栗里に好感貰っても別に嬉しくないけど。

とは思ったけど、ぐっと口を噤んだ。

「そういう女の子が好きな男子もいるでしょ、きっと」

「そうだね。でも僕はそうではないかな」

話しながらスクリーン室に入る。入り口で栗里が棚からブランケットを取り出していて、座席に座るとそれを鳴海の膝に掛けてくれた。ブランケットを押さえるようにと鳴海の手を取って膝に置くようにさせられて、不意の体温の接触にどきりとする。

「ワンピースの裾が膝から浮くからね。本命の男には見せても良いと思うけど、一応エチケットとして掛けておいて? 勿論、僕に見せたいなら、取っても良いけど」

いちいちやることが紳士だな!! でもこういう気遣いはきっとウイリアムでもするんだろうな。彼も紳士中の紳士だから。どきどきが続く暇もなく、そんな風に栗里の整った横顔をウイリアムに重ねて見ていたら、栗里が鳴海の視線に気づいて、鳴海を見た。

「何かついてる?」

「……目と鼻と口が付いてる……」

まさか推しと重ねて見ていたとは言えずにそう言うと、栗里は軽く笑った。

「あはは。そういうのはね、見とれてた、っていうのの言い訳だから、気のない相手に言っちゃ駄目だよ? 僕に気があるなら、別に言ってても良いけど」

栗里が微笑みながらそう言うのを、鳴海はぽかんと聞いていた。

……そうなのか。ありがたい忠告だ、気を付けよう。まあ、今後そんな場面に出くわすことはないと思うけど。

ブザーが鳴って、映画が始まる。スクリーン上で繰り広げられる恋愛ストーリーの脇役でBL妄想出来るなら楽しいのに……。ああ、梶原とだったらそんな軽口も叩けるんだなあと思うと、擬態したままの状態で男子とデートすることの重みを、改めて感じてしまった。


映画の後はカフェでお茶をして、その後、何とはなしに二人でぶらぶらと歩いていたけれど、通りすがりのファンシーショップの前で足が止まってしまった。

(……えっ? ウイリアムとテリースのキャラぬい!?)

衝撃の対面だった。公式では見ていなかった、オタク性の高いキャラぬいだった。鳴海も何時か公式から『TAL』のキャラぬいが出ないかと、SNSにアップしてある他の作品のキャラぬいたちとの写真を羨ましく眺めていたのだ。

『TAL』のキャラぬいについての公式からの発信は今のところないから、これはいわゆる海賊版……。しかし、オタクであれば出掛けた先でキャラぬいと一緒にホットケーキの写真を撮ったり、ライトアップされた並木道を背景にキャラぬいたちを撮ったりするのは夢ではないか……!! しかもこれはうつ伏せぬい……。どんな場所でもコンパクトに収まり、且つ推しの顔を堪能できるという優れモノだ!!

店の前から微動だに出来なかった鳴海に、栗里が声を掛ける。

「どうしたの? なにか気になるものでもあった?」

「あ……っ、……ええと……」

千載一遇のうつ伏せぬいとの出会いに言葉を継げない。ふと鳴海の視線の先を見た栗里が、あれ、と声を上げた。

「これ、『TAL』のぬいぐるみじゃないか。デフォルメ効いてるなあ」

く、栗里! あんたぬいぐるみを見て『TAL』のキャラだって分かったの!? 実は栗里も『TAL』オタクだったの!? いや、もしかしたら清水にキャラクターを見せられ慣れていて、それで区別がつくだけなの!?

栗里の発言に動揺してしまって返す言葉が見つからない。ええっ? ここでどういうべき? あれ欲しいけど、きっと海賊版だし、公式以外にはお金落としたくないけど、喉から手が出そうになるほどめちゃくちゃほしい!! でも、前に『TAL』に興味ない感じで話しちゃったから、今更『TAL』の話題を振るわけには……!!

「ティ……『TAL』って……、ええと、……前に香織が騒いでた……、あれ、……かな……?」

動揺露わに、しかし鳴海は一縷の望みを掛けて、言葉を発した。栗里は鳴海の言葉を何でもないように聞いて、応えた。

「そう。河上さんもプレイしてつって言ってたね。それにしても、このグッズは清水から見せられたことないなあ。アザラシの赤ちゃんみたいなフォルムで面白い形だ」

栗里!! ナイスアシストだ!! そういうオタクでは出てこない言葉を待ってた!!

「そ、そうなの。ゴマフアザラシの赤ちゃんみたいな丸っこい形がちょっと癒される形だし、目が大きくてホント、ゴマフアザラシの赤ちゃんみたいでかわいいわ」

「あ~、そう言われれば癒される顔してるね。赤ちゃん顔で」

「うん」

話をしながら売り場に入る。うつ伏せぬいを目の前にして、鳴海の心臓は大きくどきどきと鳴った。そっとウイリアムとテリースのぬいを手に取り、じっと顔を見つめる。

(ああっ、なんて癒されるぬいなのかしら……っ!! このデフォルメ感、このフォルム、このやわらかさ、この触り心地!! ウイリアムとテリースの魅力を損なうことなく二頭身のぬいに仕上げてあって、海賊版ながらも良い仕事してるじゃない……っ!!)

喉から手が出るほど製品化して欲しかったぬいを手にして、穴が開くほど凝視していた鳴海をどう思ったのか、栗里は気に入ったの? と鳴海に尋ねた。

「え……? え……、ええ、そうね……。癒しグッズとしては、割といいんじゃないかしら……」

取り繕うように言うと、栗里は鳴海が持っていたぬい二つを取り上げて、売り場の奥へ行った。

「え……っ? 栗里くん?」

すると栗里は、店の奥にある会計であのぬいの清算をしているではないか。えっ? どういうこと? もしかして……、もしかして……!?

会計から帰って来た栗里は、あのぬいたちをショップ袋に入れたまま、鳴海に渡した。

「気に入ってたみたいだから。今日の記念だよ」

にこっと微笑む栗里の背後に天使の羽根が見えた。

(ええっ!? 栗里良いやつじゃん!! 今まで誤解してて悪かった!!)

女心は秋の空よりも移ろいやすいものなのだ。推しグッズを手渡されれば、ころりと寝返る。

「あ……、ありがとう……」

動揺を押し隠して、ウイリアムとテリースのぬいを手にする。

(推しの……、推しのぬいたちが、我が手に……っ!!)

感動で手が震える。鳴海は心の中で感涙にむせび泣いた。でも。

(これが梶原だったら、きっと今の感動を分かち合えたのかな……)

推しを持つ者同士、きっとこのレアグッズを手にした感動を分かってくれるに違いない。そういう意味では、一緒に居て楽しいのは、やはり『栗里<梶原』なのかもしれない。



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