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第七話 不要なもの



 とおいとおいむかし、あるたからばこがあった。


 そのはこは、パンドラの箱とよぶひともいた。あるひ、こうきしんにかられたかがくしゃが、そのはこをあけてしまった。


 はこのなかから、バラのようなめがにらんでくるのがわかった。すると、『蒼の霧』がわきだして、そのかわりにときのながれがすいこまれていった。


 かがくしゃがこうかいしてふりむいたときには、もうパンドラの箱はとおくへいってしまった。





 気がつくと夜も更けて、周囲はすっかり静まり返っていた。この世界の住人は、音を立てない。


 言ってなかったっけ、と緑さんはあっけらからんとした顔でそんな昔話を語ってくれた。子供に読み聞かせをするような口調で少し癪だったが、悔しくも安心してしまった。


「初めて聞きました」


「私じゃなくても誰か言ってくれても良いじゃないか、王とか」


「人任せにしないでください。いや人じゃないのか」


 俺がそう言うと、緑さんはからからと笑いながら、説明してくれた。


「今の昔話の続き。時の流れが吸い込まれてしまったこの世界では、人間は年を取ることがなくなってしまったんだ。いわゆる、不老長寿ってやつかな」


 あっさりとそう語った緑さん。俺がまだその事実を受け入れる前に、彼女は朗々と語り始める。


「この世界の人間はね、15になるとすべての老化が止まる。私も君もそうさ、例外は居ない。不思議なことに人間以外の生物は、モンスターは、ふつうに老いて死んでいくのだけれどね」


「は、はぁ」


「もっとも、この昔話そのものが真実かどうかはわからないけれどね。あくまで伝承だから。そもそも内容も抽象的だ」


 やれやれと首を振る緑さん。少しうざったい。


 そうか、俺は不老なのか、とぼんやり思った。実際どうでもいい、もう何を言われても驚かない。まぁ元の世界に戻れるとなったときには、もう30歳になってるなんてことにはならなくてよかった。


 二人で空になったガラスの食器を部屋の外に運ぶ。ドアを開けると外で待機していたモンスターと会釈して、受け取ってもらった。


「語りたいことはまだあるけど、明日に備えて早く寝ようか」


 そう言ったのは緑さん。


「添い寝してもいいんだよ? 一人ぼっちで寂しいだろうし」


「結構です」


 クスクスと笑う緑さん。そんな感じでお開きになって、ドアノブに綺麗な手がかけられる。


「あぁ、そうだ」


「どうかしました?」


「大事なことを忘れてた」


 そう言って緑さんは俺のもとへ顔を近づける。相変わらず距離が近くて、平静を保つのに苦労する。


「私に対して、『です、ます』を使わないでほしい、敬称もいらない」


「それは……」


「昔じゃなくて、これからの話さ。旅の仲間に遠慮は要らないだろ?」


 数瞬、考える。確かにそうなのかもしれない。


「でもいきなり名前呼びは……」


「抵抗あるかい? じゃあ、こうしよう」


 緑さんは人差し指を立てて言った。


「あだ名で呼ぼう、君は昔、私のことをリョクと呼んでた。私は君をリュウと呼んでた。これからも、これでいこう」


 声は弾んでいる。記憶にない筈なのに、どこか懐かしい心地がする響きだ。


「明日からよろしくね、リュウ」


「わかりま……いや、わかったよリョク」


 そう言って部屋からでる彼女。一人残された俺は考える。


「ただのクラスメイトなのに、あだ名で呼び合う仲……」


 違和感は、三つでは終わらなかった。





 夢を見た。それだけは覚えている


 それだけだった


 何故か目元が腫れていた


 悪夢だったのかもな




 翌朝、起きる


 生温かいベッドから出る


 これまでのことは全部夢だったと思いたくなる


 でも


 ”これじゃない”ベッドの柄が思い出せない


 ”これじゃない”枕の硬さが思い出せない


 ”これじゃない”部屋の景色が思い出せない

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