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第五話 ルームツアー



「なんとかなったね」


「うん、よかったよかった」


 王宮から出た直後、俺は緑さんに王宮内を案内させられていた。俺たちはとりあえず緑さんの自室に一度寄ってから、外の宿に一泊するらしい。彼女の部屋には二人泊まれるスペースはないとのこと。


 螺旋階段を二本、曲がり角を三回、廊下を六本歩いた末に、彼女の自室に到着。


「ほれ、開けるよ」


「失礼しまーす、って、なにこれ」


「居住スペース、かつ研究室。私の根城だよ」


 緑さんの部屋はおおよそ年頃の少女の部屋とは言い難いものだった、と思う。年頃の少女の部屋を俺は知らないけど。


 部屋にはまず巨大な黒いデスクと、そこに積みあがった謎の液体に浸かった生物たち(緑さん曰く、液浸標本というやつらしい)、脇には何冊もの本が積み上がった塔が数本あり、部屋の壁にはフラスコなどが入れられたケースと本棚。その奥に申し訳程度にベッドが置いてある。


「ここ、住んでて楽しい?」


「え、うん」


「へー……」


 俺には理解できない。記憶が戻れば歩み寄れるのだろうか。一方緑さんは少し寂寥を浮かべた表情をしている。


「さてさて、ここから持ち運ぶものを選ばないとね」


「持ち運ぶ? 引っ越しでもするんですか?」


 滞在は宿でするとはいえ、緑さんがここから持ち運ばなくてはならないものがあるようには思えない。そう言うと、察しが悪いなぁと呆れられた。


「記憶を取り戻す旅をするのだろう? 片腕がない君じゃこの世界は厳しい。私がついていってあげるにきまってるじゃないか」


「え、いいんですか?」


「まあこれも何かの縁だ。せっかくだし、ついていってあげなくもないよ」


 ひと昔前のツンデレキャラのようなことを言いながら、緑さんは淡々と物を持っては謎の異空間に収納している。これが魔法なのだろうか。だとしたら、言語魔法の次に俺が出会った魔法がお片付け用魔法ということになるが、いいのだろうか。


 数個の標本、数冊の本、そして少し慌てた様子でノートを突っ込んでから、彼女はふと思い出したように収納棚の引き出しを片っ端から開けはじめた。


「お、あったあったこれこれ」


「えっと、それは?」


「ほら、さっき言われてたスポットバンド」


「……あーはいはい」


 確かにさっきミュラーとかいう魔王の部下らしい方がそんな名前を出していた気がする。位置情報監視のためのものだったか。


 緑さんが取り出したスポットバンドは、ミサンガのような小さな紐だった。これを左腕に巻けばいいのだろうか。


「ここに来た目的の半分はこれをつけることだからね。じゃあつけて、はい」


「……緑さん、あの、俺無理です」


「え? あぁ、そうだったそうだった」


 俺の抗議を受けて、ようやく緑さんは俺がミサンガを結べないことを察してくれた。片腕じゃ流石に無理がある。めんどくさいなぁ、と呟きながら緑さんはこちらに歩み寄ってきた。


「んじゃ、手出して」


「は、はい」


 彼女の手が触れる、その瞬間、俺の中に何かがあふれ出すような気がした。欠片が刺さったときの記憶の奔流と似たようで、少し違う。不思議な感覚。


「……私の手がどうかしたかい?」


「いや?」


「ふーん」


 なんとなくそう誤魔化した。誤魔化しだと気づいていると見せつけるかのように、緑さんはほほ笑んだ。白く細い彫刻のような綺麗な手だった。


 丁寧に三重結びに結んでくれた緑さんは、おもむろに彼女の左手を見せつけてきた。


「私はもう結んであるよ、えへへ、おそろーい」


「いつの間に、てかちょうちょ結び? ほどけない?」


「ほどけないよ多分。てかそれで思い出したけど、ほどけたら肉体もろとも爆発するから気をつけてね」


「え、こわ」


 恐ろしいのはそんな代物を軽く結んだだけで済ませてしまう緑さんだが。そう思った俺の表情をみて、彼女はけらけらと笑った。


「大丈夫、君以外では死なないから」


 どういうことだろう、と思う間もなく、彼女は立ち上がる。ドアを開けて、手招きするその少女の元へ、俺は慌てたように駆け寄った。





 違和感、この世界に来てからずっと感じているもの。


 第一に、右腕がないこと。ふとした動作、起き上がる、扉を開けるなど、両手を使おうとして左腕しか動かない違和感。左側にやけに重心が寄っている違和感。落ち着いたときに、ふと右が軽いことを実感して、何とも言い表せない気持ちになる。


 第二に、脳の違和感。まるで、とかたとえば、とかの比喩を思い浮かべようとして、霧がかかったように思い出せない。特に、緑さんはどこか見覚えがあるような気がしてくる。実際知り合いと言っていたし、面識はあるのだろう。あとは、言語魔法。あの脳を他者に侵食されるような感覚は、気味の悪い温かみを持っていて、馴れるのには時間がかかりそうだ。


 第三に、とまで考えたところで、俺はベッドへ倒れこむ。


 ここは、案内された宿の一室。ここで一晩過ごして明日には出発だ。


 思えば今日は色々あった。目が覚めると異世界。村に着いたら眠らされ、また目が覚めると牢獄と少女。また目が覚めると白毛の魔王。その後は軽く魔法の説明を受けて宿へ案内されたんだっけ。


「楽しみだな……」


 そんな言葉が漏れる。宝探しみたいな、一風変わった冒険が始まるような気がした。

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