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第四話 記憶の取り戻し方



 1,1,2,3,5,8,13,21,34・・・・・・


 □□□がそう呟く。


「フィボナッチ数列?」


 俺がそう答えると、


「正解。そこそこ早いね」


 と、飄々とした声で□□□が返してくれた。フィボナッチ数列とは、一つ前の項と二つ前の項の和がその項になる数列のことだ。

1+1=2、1+2=3、2+3=5......のように、続いていく。


「何で急に?」


「この数列は私にとって数学そのものなんだ」


「……つまり?」


「フィボナッチ数列は自然界にいくつもある。例えば、ひまわりの種の配置。あれはフィボナッチ螺旋といって、左回りに21列、右回りに34列などのフィボナッチ数が現れる」


「自然界に登場する数学、黄金比の例は知っているけどそういうのもあるのか」


「そうとも言える。だが、フィボナッチ数列と黄金比は切っても切り離せない関係にあるんだ」


 □□□は興奮して話す。


「フィボナッチ数列の隣り合った二つの項の比は、数が大きくなれば大きくなるほど、黄金比に近づく」


「黄金比は、1:(1+√5)/2、だいたい1:1.618だよな。確かに5:8=1:1.6、21:34=1.619……で、黄金比に近づいているね」


「そうなんだよ! 数列の世界と現実の世界が黄金比を介して橋渡しされる、こんなに美しい学問が他にあるかな?」


 □□□は本当に楽しそうな口調で数学について話してくれる。俺は□□□□□□□□□□……





 流れ出す記憶が途切れた。あの人は一体誰なのか、容姿も、声も、もやがかかっていたかのように思い出せない。


 目が覚める。ここ最近だけで俺は何回意識を失っているのか、とウンザリする。


「おーい、起きたかーい?」


 緑さんの声が聞こえる。


「ここは?」


「さっきと変わらず、ほら起きて」


 目の前には緑さん、どうやら仰向けに寝転がっていたみたい。左手を掴んでもらって、俺は立ち上がった。


「調子は?」


「腕は痛くない」


「あんなに突き刺さってたのに? 確かに流血も外傷も、それどころか欠片すら無くなっているけど」


 さっき欠片が左腕に突き刺さったところまでは覚えている。その瞬間は少し痛かったが、今では何ともない。それどころか、失われていたパーツが体にぴったりとはめられた様な感覚がした。


『……少し、思い出したことがあります』


 意識を失っていた間、記憶が流れ出してきたことをみんなに話した。緑さんも、魔王も取り巻きの家臣たちも静かに聞いていた。


『知らない女性と何か話をしていた、そんな記憶が流れてきた、と。それだけか?』


『それ以外にも思い出したことがあります。住所とか、英単語とか、最寄り駅の名前とか』


『……いずれも、現状の打破には直接は役に立たなそうだな』


 魔王がそう呟いた。髭のようななにかを撫でながら、彼は考察を述べた。


『欠片が突き刺さった後に脳に記憶が流れ出した。つまりその欠片に君の記憶が閉じ込められているのだろう。ということはこの記憶の欠片を全て回収すれば、記憶が戻るかも知れないな』


『全て、ですか』


『数多くの欠片が世界に散らばっている。我が国の領土外も例外ではない。だが案ずるな、いずれ機会が来るだろう。そう、いずれ……』


 何やら意味深な含みを込めて言っている気がする。今後何かあるのだろうか、少し怖い。


 それはそれとして、記憶の欠片、世界に散らばっている欠片、そこには俺の大切な思い出があるのかもしれない。そう思うと、自然と言葉が出力された。


『俺、集めたいです、その欠片を。このままだと、俺は何かが欠けたままな気がするんです。そうなるのは、いやです』


『そうか』


 魔王が短く頷く。


『それならば、好きにすればよい』


『ありがとうございます!』


 俺がそう言った直後に、俺の左側の家臣たちのなかで、とりわけ背の高い、深紅の体毛の者が王の隣へと移動した。


 彼はどうやら魔王と同じ種族のようだ。さっきから魔王のことしか見ていなかったので、ふと見渡してみると、全く人とは似ても似つかない見た目をしている者や、魔王のように人型のものまで、幅広くいる。


『フェルディナント陛下』


『どうしたミュラー』


『彼が王宮外に出ることで直接の暗殺の危険性が消えたとはいえ諜報活動をされる危険性もあります。完全な自由を与えるのはリスクがあります』


『ほぼないリスクだとしてもか?』


『だとしてもです陛下。仮に彼が信用に足る人物だとしても、そのような疑いを持たれぬよう、一般市民に対して体裁を保たなくてはなりません』


 相変わらずミュラー君はオブラートに包まないなぁ、という緑さん。まぁ本人の前でスパイ疑惑の話をするのは、少し気を使って欲しいと思う。それはそれとしてオブラートの実物は見たことないなぁ、と呑気なことを考えていた。


『では彼を拘束しろと?』


『何もそこまでは申しあげておりません。相変わらず言動が極端ですよ』


『ミュラーも相変わらずの慎重さだな』


 魔王はそうやってミュラーさんに言い返す。なぜだろう、重厚感のあるのイメージなのに、中高生の喧嘩のようだ。そうして、魔王は手をパンと叩いて言った。


『じゃあ彼の足にスポットバンドをつけよう』


『首肯します。ですが左腕の方が良いでしょう。両腕を切り落とす可能性は低いでしょうから』


 どうやら処遇が決まったようだ。


『緑さん、スポットバンドって何……』


『位置情報を常に送信できる魔法がインプットされている、ミサンガみたいなものさ。外そうとしたり、ダメージを負うと送信先にもその情報が流れるようになっている』


 俺が横の緑さんにこっそり質問すると、返答してくれた。なるほど。


『話は終わりだ。今日は宿を手配してあるから、案内にしたがって向かってくれ』


『ありがとうございます』


 魔王と呼んでいたが悪い人、いや悪いモンスターではないのかなと思ったそのとき、最後に、と呼び止められた。


『この世界へようこそ』


 モンスター。別種と実感させられる純白の体毛。声は発さず魔法で会話し、発声器官である口もない。しかし、俺には確かにあの表情が笑顔だとわかった。

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