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その右手に愛を : ReConstructed  作者: 篠ノサウロ
第一章 勇者
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第二十五話 襲来



 あの町から飛び出して、()()が経った。


 他者と関わらないと、これといった事件も起きない。相変わらず野良のスライムと遭遇したときなんかは、リョクに全部丸投げしているので、戦闘に関してはすることがない。自慢じゃないが、俺の剣技(笑)ではホウレンソウの切断で精一杯である。片腕がないんだから大目に見て欲しい。


 じゃあそれ以外はどうかというと、リョクからある程度料理や洗濯を教えてもらいながら、手伝っている。うん、冷静に考えると、リョクがなんで男物の服を持っているのか不思議だけど、考えると怖くなるので考えないことにした。


 それ以外でしたこととなら、記憶の回収ぐらい。そのせいで、直線で進めば三日でつく道に3倍もかけたのは申し訳ないと思う。


 さて、俺が今いるのは……


「うみだーーーーーーーーーー!」


「湖ね」


「リュウ、目の前に広大な水の世界が広がっている。これはまさしく海なんだよ、野暮なこと言わないで」


「淡水だろ?」


「……うえーん」


 泣いているふりをするリョク。彼女との会話もずいぶん慣れてきて、最近はこっちも遠慮がなくなりつつある。


「さて、ようやく到着したわけだが、せっかく海に着いた以上、何をするかはわかっているよね?」


「いきなり落ち着くな、それと湖な」


「そう、釣りだよ!」


「はいはい」


 早速釣り具を(ボックス)から取り出す彼女を手伝うしかない俺。完全に主導権は奪われている。リョクがいないと速攻野垂れ死にルートの俺は、非常に立場が弱い。


「ほい」


「へい」


 釣竿を渡された。お互い好きな場所で釣ろうとの誘い。かなり過干渉しがちなリョクにしては、意外な提案だった。


「いいの?」


「いいの、うん、いいの」


「……なんか含みを感じるんだけど」


「べっつにー」


 ちょっと問い詰めたらなぜか急に不機嫌になってしまった。女心が難しいのかただ単にこの厄介少女が難しいのかはわからないが、これ以上刺激しないようにおとなしく離れることにした。


「じゃ、私は左周りで場所探すから、日が暮れるまでには合流しよ」


「了解、じゃあまた……」


 というわけで、絶好の釣り場を探すべく、湖周辺を草をかき分けて進もうとした直後、あることに気がつく。


「……ちょ、待って、餌は? ねぇ餌はどうすんの」


 答えるものは誰もいない。





「詰んだ……」


 釣り糸の先には鉤状の金属の針のみ。これで釣れるのはせいぜい空き缶か地球だろ。湖畔に佇むは勇者候補の少年、その左手に握る聖剣(つりざお)がどこか神聖に見えてくる。


「……えいっ」


ぽとん


 静寂の中に水の音が響く。ウキがぷかぷか浮いている。釣り竿の影が細長く伸びている。手渡されていたコンパスをちらりと見て、今は午後3時程だろうか、と影の方向から推測した。






『ウゴクナ』


 体がびくりと震える。明らかにヒトのものではない異質な声、ここ1週間関わりを避けてきた存在、モンスターの魔法言語。


『どちらさまで?』


『……驚かぬのか、傲慢なヒューマンらしさで溢れてる』


 どちら様か聞いただけだろ、俺は何か間違えたのか?


『いいか、愚かなヒューマンよ、よく聞け』


『愚かな覚えはないんだけどね』


『ここには23名の精鋭を用意した。ヒューマンごときが()()()()へ立ち入れると思うな、大人しくついてこい。人間の声で仲間を呼んだとしても無駄だぞ。防音のできる古代結界を張り巡らせた』


 アノバショ、あの場所? どの場所だよ知らねえよ。リョクなら知ってるのか?


『……心当たりかないな、一体何の話だ?』


『しらばっくれるな。とにかく、死にたくなければ手を挙げて大人しくついてこい、幸い貴様は魔力量がなぜか少ないからな、ただの雑魚だ』


 初対面でここまで言われる必要があるだろうかと、一周回って死の恐怖を忘れて心の中で悪態をついた。ただまぁ、死にたくはないので左手を上げる。


『……片腕がない、貴様、まさか』


『どうでもいい、連れて行け』


『はっ』


 先ほどまで語りかけていたモンスターとは別の声がした、振り返っていないからわからないが、本当に複数人いるらしい。その瞬間、何かヌメっとしたものが左腕に張り付いた。


『……ファ、え、ちょっとナニコレ?』


『大人しくしてろ殺すぞ』


 そう言われては黙るしかない。


 しばらくして、謎の液体で全身が覆われ、俺は視界を奪われたままどこかへ運ばれた。





『着いたぞ』


『……』


 周囲を見渡す。一面岩と松明、洞窟である。リョク、ごめん。俺たぶん死んだ。


『松明に沿ってまっすぐ進め』


『は、はい』


 会話では特に何も触れられていないが、首に冷たい何かが当てられている。多分金属だ。どういった金属なのか、心なしか鋭利な気がするが、考えたくない。


 というわけで選択肢はないので大人しく進む。心なしか頸動脈に食い込んでいるような気がしてきた。本当に生きた心地がしない。


『あの……』


『左だ』


『あっはい』


 分かれ道にたどり着くとすぐに行き先が指示された。随分と暴力的なカーナビゲーションシステムである。


『……止まれ、そしてそのまま待機しろ、動いたら殺す』


『はぁ』


 言われた通りに立ち止まると、慎重に交代するような音が聞こえた。結局顔も見ないままだったな、そう思った瞬間に床が抜けた。


「は? え、はぁぁあああ!?」


 答えるものは、誰もいない。

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