第二十四話 次は何処へ
一
「前門の暗殺者、後門の善良な一般市民たちか。俺たち、きつくね?」
「それだけじゃないぞ、裏門から逃げようと人間の国へ行くとなっても、迫害は免れないだろうからね。なんせ戸籍の無いモンスターの国から来た男女だ。不審者でしかない」
そういったリョクはケラケラと笑った。俺もつられて笑った。笑い事じゃないのだが、笑うしかない。記憶喪失の人間なので自信持って断言できないが、異世界転生ってもう少しライトなノベルの世界の話じゃあなかったか?
「勇者の証明が必要だ」
ハムサンドをほおばりながら少し真面目な顔になって、リョクはそう言った。
「私たちは勇者というより、不審者の人間二人として見られている節がある。勇者だと示せば、その評価が全てひっくり返るはずさ」
「そう簡単にいくものか? 肩書ひとつで」
「……やっぱり、君は勇者と言うのをわかっていないね。やれやれ」
「なんだよ勿体ぶって、むっちゃ気になるじゃん」
「うっわめっちゃ不満そう、そんな顔されると絶対教えたく無くなっちゃうなぁ?」
「性悪……」
この女の性格は置いておいて、俺は一つの紙を箱から取り出した。
「……なにその紙?」
「方向音痴共への救世主」
「おぉ!」
地図だ、昨日の散歩中に欠片の回収がてら買ってきた。一つは国全体の地図で、もう一つはこの近辺のもの。
「いやぁ、最高だね。私すっかり忘れてた、ありがとありがと」
「どう、いたしまして」
うん? なんか顔が暑い。朝日のせいか?
「さてじゃあ今日は……あ?」
「ん?」
「地図ってさ」
「うん」
「現在地がわからないと使えないんだよね」
頭の火照りが一瞬で引いた。村を急いで出てからジグザグに曲がって草原を駆け抜けたため、「ここはどこ?」状態である。「私は誰?」に対する解が一応与えられているのがまだ救いか。
「あー、現世のg○ogelマップよ、GPSシステムよ、カムバァック!」
嘆く少女の声が草原に響き渡った。
二
「なにしてんの?」
「測量」
「ほんとに何してんの」
時計と太陽、目印の山との距離から、現在地を算出しようとしているリョク。めちゃめちゃ真剣だが、戦闘の時にその真剣さをはっきして欲しい。
俺の方はというと、相変わらず剣の練習だ。とはいえ参考にするものがまるでない。苦肉の策で映画とかゲームの知識を引き出そうとしたが、どうやら元の世界での俺は流行りのFPSに軽く触れていただけなようで、剣を振り回すシーンなど海馬体には一切ない。
「ふん、ふっ、とりゃ」
素人でもわかるほど、全く扱えていない。振っているのではなく、剣に振り回されているという方が正確だ。というか片手でというのがそもそも無理があると言い訳させてほしい。剣とは、要は鋭利な鉄塊だ。持てているだけで褒めて欲しい。
「……一応なんとなくは分かったかな?」
「わかる訳ねぇよ剣の振り方なんて」
「いやそっちじゃなくて」
「あ、ごめん」
つい流れでリョクに愚痴ってしまったが、全く気にしている様子はなく、ニコニコでこちらに向かってきた。どうやら測量があらかた終わったようだ。
「これを見てくれ」
「ん? あぁ、地図か」
「そうそう、多分現在地がこの辺だから左に行けば目的の、勇者の、ほこ、らに、うぅ」
リョクの声が途切れ途切れになる。そのまま頭を抱えてしゃがみこんでしまった。よく見ると耳が朱に染まっている。
「えっと、どうかした?」
「……距離近すぎ、心臓ヤバイんだけど……」
「え? よく聞こえなかっグボァあ!」
「難聴系主人公ってマジでいるんだ、このノンデリ」
リョクにビンタされて大地とキスをする直前に、フラッシュバックしたものがあった。
『あー、なんで変に隠しちゃったんだろ私』
昨日の晩のリョクが言っていた。俺が元の世界での関係を問い詰めたときに。
リョクは、記憶喪失の俺に、恋人であることを要求してこなかった。三年も待っておきながら、俺の気持ちに整理がつくまで、あるいは記憶が戻るまでさらに長い時間を待ってくれている。そのことに、今更地面に顔面をうずめながら気がついた。
「なんか、色々とごめん」
「ふーんだ」
俺が彼女を恋愛的に好きなのかはまだわからない。一つだけわかったことは、拗ねているリョクがかわいいということ。




