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その右手に愛を : ReConstructed  作者: 篠ノサウロ
第一章 勇者
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第二十三話 夜の火と朝の日



ブオオオン


 前方に見えるのはリョクの後頭部、というかヘルメット。俺が今しがみついているのはリョクのお腹。かき鳴らされるはエンジン音。道交法、人がいなけりゃ意味がない。そうだ、2人乗りバイク旅へGO!


「いやおかしくね?」


「ん?」


「さっきまで死ぬ寸前だったよな俺ら」


「そうだね」


「なんでバイク2人乗りしてんの?」


 エンジン音で何も聞こえないがリョクが鼻で笑った気がした。いや、俺だって経緯を忘れている訳ではないのだが。


 異世界には似つかわしくないエンジン音が荒野に響いた。





 さてどうやって脱出するんだ、そう考えていると、リョクの右手におもむろに斧が現れた。


「壁を……、はいずどーん!」


「えええええ?!」


「ほら、リュウも手伝って、あのミュラーにもらったでしょ剣」


「王家から賜った剣の使い方としておかしい……」


「うるせえ! 死にたくなきゃ壁壊せ! ほら、(ボックス)!」


「……うおおおおおおおお!」


 数分後、壁破壊終了。


「とりあえず、CO(一酸化炭素)中毒にはならないかな?」


「いやそんなんより火の手が……」


「まあそれはとりあえず私が何とかするとして、下見て下」


「ほえ?」


 見ると、モンスターの集団。昨日見た者たちもいる。よく見ると彼らの中にはなにか武器のようなものを持っている者もいる。


「なにあれ?」


「ゲーム的に言えば着地狩り。降り立った瞬間に捕縛されるかな?」


 そう言った次の瞬間、なにか物体が飛んできて、リョクがそれを透明なボックスで捕獲する。覗くと、ガラスの瓶に半透明な液体が入っている。


 火炎瓶、そのワードが頭をよぎって肝を冷やした。


「なんで俺らこんな嫌われてんだ……」


「とりまこれを抜け出すしかないね。ということで、リュウ、あれを見てみろ!」


 リョクがおもむろに後ろを振りかえる。少し遅れて俺もそっちを見る。


「なにあれ?」


「バイク。頑張れば空も飛べるはず」


「ここって剣と魔法の世界では?」


「剣や魔法より近代文明の方が私たちには都合がいい、でしょ?」


「答えになってないって。なんでバイクがあるの!?」


「私の夏休みの工作ってことで。んじゃ乗るよ、ほいヘルメット」


 (ボックス)と呟いてから、ヘルメットを投げてきた。あわてて受け取り、バイクのある方へ足を踏み出す。炎の輝きで前がよく見えないし、顔がとにかく熱い。左手で前を多いながら、指の切れ目から最低限の視界を確保して進む。


「レディーファースト、運転は私ね」


「逆になんで俺が運転できると思ってんだ」


「それもそうだ、んじゃいっくよーん!」


 響き渡るエンジン音、寝起きでまだぼんやりしている俺の脳は、まだ重大な疑惑を抱くことはなかった。


 今回の旅、最初からバイク移動で良くね?





「いや、バイク乗るところまではまだ良いのよ」


「うん」


「なんで空跳ぶんだよ」


「いやいや、空も飛べるって言ったじゃん」


「飛んでねえよ、エンジンで滞空時間延ばしてジャンプしただけだよ!」


「おんなじおんなじ、気にすんなって」


「………」


 草原を疾走する中、喧嘩する俺とリョク。風の音がうるさくて、かなり大声で言い合った。そしてそんな中でも、しっかりリョクの体にしがみついている俺が、どうにも滑稽だった。


 夜空をふと見上げる、見ると、無数の赤、青の光が瞬いていた。


「キレイだな」


「ん? どったの?」


 ふと前方の背中を見る。彼女がいれば三原色が揃うな、と思った。


「……この辺かな、一旦停めるよ」


 そう言われてから数秒で、バイクは止まった。


「乗り心地は?」


「最悪、モンスターに追われながらなんて」


「ふーん、椅子の改善が必要かな?」


「俺らの状況の方だよ……」


 そうだ、まず色々と整理しないといけない。


「なんで焼かれたんだ? またあの暗殺者か?」


「あたしも最初はそう思った」


「最初? 違うのか?」


「うん。だって、暗殺なら暗いところで殺さないと」


「真面目に言ってる」


「真面目と不真面目半分こ?」


 そう言いながら、どこからか取り出したクッキーを割って差し出してくるリョク。無言で受け取った。


「話は戻るけど、暗殺のために燃やすだけならあんな人数はいらないよね。しかも失敗してなお追いかけてくるのは非合理的だ。もしかすると、もしかするとだけど、彼らが人間(ヒューマン)である我々を迫害したのかもね」


 言われてふと、思いだす。明らかに彼らは俺たちのバイクを追跡してきた。矢が何本か横切って焦ったが、命中しそうなヤツはリョクが全部守ってくれた。


「……まぁ確かに? でもただの野次馬って可能性は」


「そうだといいんだけど」


 リョクがバイクの後輪のホイールをチラッと見た。不自然な切り傷がついている。


「……とにかく、街の宿に泊まるのはなしだ。野営を繰り返す」


「だな、俺も賛成。けど今日はどうする?」


「時間は22時ぐらいかな、月でなんとなくわかる。だとすると一回休みたいな」


「追手が来たらどうする?」


「この世に生まれ落ちたことを後悔させてやるよ」


 フハハハハハと、狂気の笑みを浮かべるリョク。おそらく対処法があるのだろうな、と頼もしさを覚えた。





 夢を見た、現代日本の記憶だ。失っていない、失いたかった記憶。小学校の、あの四年間。独りの記憶。


 目を開く。上体を起こす。


「迫害、か」


 確証はないその言葉で、嫌なものを思い出した。目尻に付着した液体を手で拭い、テントから漏れ出す光を見つけ、外へ出た。


 眩しい、そう思ったがそれ以外の感動で、言葉が出なかった。草原に橙色の光源が、世界を光で染め上げ、まばらにある木々が長い影を作る。それらの影の半分ほどの長さの影の持ち主に、俺は近づいた。


「起きてたんだ」


「うん、リュウも早いね」


 朝日を眺める彼女の横顔が、輝いて見えた。

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