第十八話 始まりの村
一
「まぁ、とはいってもやることはそこそこあるんだけどね」
「例えば?」
「昨日捕らえた暗殺者を尋問しないと」
確かに捕まえていたけど、捕らえたというよりは箱に突っ込んだって表現の方が適切なような気はする。
「犯罪者に気を遣う必要ないじゃない」
「まぁそれはそうかも」
そんなことを話しながら門の前に着いた、そのとたんに、何故だかとてつもなく既視感を感じた。
「……リョク、なんて読むの、これ」
「ハーディ第二五要塞、的な感じ」
「要塞? この普通の中世ヨーロッパ的村が?」
「昔の名前を引きずってるだけだよ。今は軍事施設としての役割はそんなにない」
門をくぐって入ると、王都程ではないけれど、活気のある市場が続く。飛び交うのが声ではなく魔法言語である、と言うことを除けば、元の世界とさほど変わらない。
俺たちとすれ違うモンスターたちは、不審な目で見てくる。なぜ人間がここにいるのか、まだ周知されてないか、あるいは知っていても受け入れられないかのどちらかだろうとリョクは言った。ぼんやりと感じる疎外感が少し苦しい。
にぎやかな市を抜けて、広場に到着。とたんに脳に電流が走ったような感じがした。
「……ぁああああ! アレだ!」
「うわぁ、いきなりなんだい!?」
「ここ、俺が最初に来たところだ」
「……あぁ!確かに衛兵がそんなこと言ってた気がする」
そう、何も分からず何となく寄った集落に人が誰もいなくて焦ったのを覚えている。そしていきなり気を失って気がついたら牢の中で……
「なんだ、住民は普通にいるんだな」
「そりゃもちろん。種族的には王都の影響が強いから獣人が多いかな。逆になんでいないと思うのさ」
「いや、俺が落ちたばっかの時はいなかったから」
「あのねぇ、空から正体不明の落下物が落ちてきたら避難指示が出るに決まってるだろう。ましてやこんな情勢不安の時に」
「まぁ、確かにそれもそうか」
納得した。その時の俺は呑気にバカな理由を考えていた気がするけど、何だっけ。ところであそこのモンスターは……
「何でみんなゴーグルみたいなのをかけてるんだ?」
「あぁ、花粉症だね」
二
とりあえず、役所に着いた俺たちは、何か欠片を回収してないか聞いてみた。
「あぁ、通信魔法で連絡されてたあれですね。てことはあなたが勇者候補ですか!」
「はい、そういうことらしいですね」
「いやぁ凄いもの見ちゃったなぁ、あっ、案内しますね。裏の倉庫なんですけど」
興奮した様子で、ウサギの耳をつけた人型のモンスターが応対してくれた。いや、本当に耳なのか?
そんな余計なことを話しながら歩いていたら、答えてくれた。
「あぁ、触覚ですよ。だからあなた方の言う『オト』は聞こえないです」
「不思議だよね、全く違った役割なのに同じような形に進化するなんて」
「……なんか上から目線じゃありません?サカイさん?」
「科学者というのは概して自分のことを棚にあげてあれこれ論じるものさ」
「それ、多方面に失礼……というか知り合いなの?」
「あぁ、元被験体だ。今はここの村長をやってる」
せめて被験者って呼んでくださーい、という会話を聴きながら、目的地に着いた。
金色に輝く宝石のような欠片が目の前にあった。いや、占いに使う水晶玉ぐらいのサイズ感があるものを欠片と呼ぶのかは知らないが。
「これが?」
「そうです、これがいきなり村の中央に落ちてきて怖かったんですよ。結界で守る方が早かったので大丈夫でしたけど、あれ一回使うだけでどれぐらい仕事が増えるのか理解してますか?」
言葉の節々に不満が滲む村長さん
「……なんかごめんなさい」
「まぁ別にあなたが悪いわけじゃないのでいいですよ」
「女性のいいですよ、はたいてい良くない時だからね。気をつけなよリュウ」
まるで他人事のように言っているが、あんたも女性だろ、リョク。
まぁ平凡な日常を送っている中、そこそこでかい謎の物体と人間が降ってくるのは怖いが、俺に不満を抱かれても困る。
「とにかく、私は横で眺めてるのであとはよろしくやっててくださいね」
「言い方にだいぶ語弊が……そんなに面白いものでもないですよ?」
「噂には聞きましたよ、なんか神々しい光に包まれて波動が放出されることで、凝っている所に効くとか……」
「断言は出来ないですけどデマですよそれ」
なんか今日はモンスターの健康事情について色々聞く気がする、と思いながら欠片に近づく。リョクもついてきた。
「でっか」
「でっかいねぇ。これは記憶も多そうだね。体積で変わるのかは知らないけど」
「うん、それじゃ始めるか」
そういってそっと左手で触れる。神々しいというよりは、怪しい光が放たれた気がした。
三
本屋にいた。パラパラとページをめぐる音だけがする。たしか数学書を買うついでに推理小説の棚に寄ったんだっけ。
立ち読みしていた文庫本を元に戻すと、『骨の館』というタイトルが目についた。何となく手に取ってみる。
よく見たら、□□からオススメされた作家の名前が背表紙に書いてあった。最新のミステリー短編集らしい。
立ち読みで終わらせるには勿体ないので、持ち帰って読むことにして、本棚の横を通りすぎる。そのままエスカレーターに乗って、支払いのために一階へ上がった。
自動レジに並ぶと、偶然のはずなのに、後ろから狙いすましたかのようにオススメした張本人が並んできた。
「よぉ」
「やぁ」
「そっちは?」
「なんなおもろそうなタイトルの新書と、文房具を少々。そっちは……珍しいな」
「せっかく勧められた本だからね」
「すげぇな。俺は他人からお薦めされた本なんかほとんど読まないね」
そんなことを少し話しただけで、すぐに番が回ってきた。自動レジは回転率がいいのが素晴らしい。便利な時代になった。不便な時代を知ってるかと言われると困るけど。
「それじゃ」
「ほんじゃ」
一言で会って、一言で別れる。それが俺たちの関係性だ。気楽でいい。




