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その右手に愛を : ReConstructed  作者: 篠ノサウロ
第一章 勇者
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第十六話 一夜明けて



 人生初の、いや本当に初なのかは疑わしいけれども、寝袋で寝て起きた。


「んー」


 もそもそと寝袋を取り外す。今でも自分の状況が信じられない。まだ今日で異世界三日目だ。


「っしょ、おはよー」


「ん、おはよー」


 テントから這い出ると、リョクが椅子に座っていた。朝日が後ろから射し込んでいて、まぶしい。


「何してるんだ?」


「魔法の研究。もうちょっとで一般化出来そうな気がするんだけど」


「一般化かぁ」


 本来はモンスター一体毎に固有の魔法を、誰でも仕様可能にする工程、一般化。以前教わった。


 リョクが研究と呼んだ作業は、(ボックス)を置いて一生懸命にらめっこをすることだった。すくなくとも俺にはそうとしか見えなかった。


「……なんだか俺にはよくわかんねえや」


「まあ、そうだろうね」


「どんな魔法を一般化しようとしてるの?」


「昨日の炎放ってきたモンスター」


 言われてみると、箱の柄とサイズが昨日の物と同じな気がする。直線と円のみで構成された幾何学模様が描かれている。


「あのモンスターはかなり強い。有用な魔法になるはず」


「へぇ」


 つい間の抜けた返事をすると、彼女は少し不機嫌そうに箱に向き直った。


「……君に初めての攻撃魔法をプレゼントしようとしてるのに、ねえ」


「あ、ごめん」


 まあ、俺のためにやってくれていることに対して無関心なのは良くなかったかもしれない。別に俺が頼んだことではないが。そう心の中で反省していると、いきなり彼女はケラケラと笑い出した。


「ふふ、冗談。別に君が頼んだわけじゃないんだし」


「ああ、うん、そうだね」


 相変わらず、つかみどころのない人。感情的なようで、冷静で論理的にも見える。少し怖い。そう思っていると、リョクは両手を前に伸ばして首をぐるりと回し、背中をグイっとそらした。そのまま立ち上がり、俺の方に来る。


「きゅーけー!」


「えっと、お疲れさま、で、す」


 休憩、と称して、彼女は俺の座っていた組み立て式長椅子の横に座り、肩を寄せた。


「……えっと」


「なに?」


「その、心臓に悪いから、できればちょっと距離……」


「あははははは!」


 俺がそう言うと彼女は笑った。どういう笑いなのかよくわからなかった。


「ハハ、おーけーおーけー。じゃあもうちょっと控えるよ、控えることにしておくよ」


「……ありが、とう」


「ふふっ。あ、そうだ。そういえばちゃんと言っておかないと」


 ひとしきり笑った後に、ちらりと俺の方を見るリョク。その目の深さにどきりとさせられる。


「前の世界での関係、君は気にしなくていいからね」


「……つまり?」


「今の君が、私を好きになる義務はないってこと。いい?」


「う、うん」


 えっと、これは俺に気を遣ってくれているのかな。正直、俺にとっては会って三日の女性に対して恋人のように接するはしんどかったから助かる。


 けれどそう言った彼女の目は笑っていなかった。


「よーし、休憩終わり! 作業に戻ろー」


 椅子から勢いよく立ち上がるリョク、その勢いに持ってかれて、椅子が倒れそうになりかける。声色は、いつもの明るいリョクだ。


「そういえば、リョクの(ボックス)の一般化が、今の俺も使えるボックスなんだよな」


「そうそう。私の収入は基本このライセンス料だね」


「このボックスはリョクみたいな魔法の収納って可能なのか?」


「君達には不可能だね。そこまで対応してない」


「へぇ。なんで?」


「技術的には可能だけど、王国上層部から止めるように言われた。たしか政治的なパワーバランスがどーのこーの言ってたけど、興味ないからあんまり聞いてなかった」


 他者には興味ない話を押し付ける癖に、自分は他人の話を聞かないのは彼女らしい。


「なんか失礼なこと考えてない?」


「いやいやまさかぁ」


「ふーん」


キュウィィィィィイーン


「おっ」


「え?」


「行き詰まってたところを突破した。あとは……」


「なんか妙に機械音っぽくてファンタジー感がない……んえ?」


 いきなり服を引っ張られて転びかける。なんとか持ち直したら今度は座らされて、頭を撫でられた。


「今から君に魔法を授けよう。しばらく動かないで目を閉じてくれたまえ」


 何かの儀式的な様子で仰々しく言うリョク。言われるがままに目を瞑る。すると、何やらイメージが流れ込んできた。呆然と立ち尽くす俺の肩に手を置いて、彼女は囁いた。


「イメージが見えるだろう? それと同じことをするだけだ。ほら、真っ直ぐ左手を出して、そうピストルマークでいい。そしたら、『燦然たる業火の消し炭となれ』と言いながら左手で撃ち抜くんだ」


「中二病すぎる……」


「文句言わない。中二と対して年齢変わらないでしょ?」


「そう言う問題じゃ……」


 説得してどうにかなりそうには見えないので、本当に不本意であることを全力でアピールしつつ、しぶしぶ口を動かした。


「『燦然たる業火の消し炭となれ!』うわぁ……」


「……よし、目を開けて」


 目を開けた先には……

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