第十一話 野生のモンスターが飛び出してきた!
お久しぶりです。ポケモン30周年おめでとうございます。
一
「で?」
「……ん?」
「いや……どっち?」
「あぁ。そんなことか」
門から出て数分、目の前には分かれ道。他に何もない。あるのは、草原と、草の生えていない道だけ。そこに俺たちがぽつんと二人。
「いや、行き先どうするの。俺なーんも知らないんだけど?」
「……どうすれば、いいんだろうね」
「え? リョクが知らないならどうすんの」
「だって、記憶の欠片って言われても場所なんて知らないもん」
「もん、じゃないでしょおよ。とりあえず泊まれる街を探すとか、色々できるでしょ。俺としては異世界住人のリョクに任せるしかないんだから」
それを聞いてうつむくリョク。
「わ、わかんないっぴ」
「へ?」
「方向音痴でさ……王都内の地図は気合いで覚えたけどそれ以上はムリだった」
「魔法で地図出せないの? 出せるでしょ出してよ!」
無言で両腕をクロスして否定の事実を伝えてきたリョク。そのままXの字の谷間にニンマリした顔を乗っけてきたので、デコピンしてお返しした。
「あいてっ」
「もういいや、左行こう」
「え、なんで?」
なんでと言われても、なんとも言えない。ただ……
「なんか、記憶の欠片の気配? みたいなのを感じる気がして」
「分かるのかい?」
「まぁなんとなく」
「なるほどねぇ。そんな理屈のないスピリチュアルなこと君以外なら信用できないな」
やれやれといった口調で肩をすくめる彼女。やれやれなのは土地勘のないあなたに対してだよ。あと魔法も大概理屈の無いファンタジーだと、異世界初心者の俺は思う。
「どうする?」
「行くに決まってるじゃん、どうせアテもないんだし」
「無いことは想定してないんだけどね、リョク」
さっきまで俺を振り回して、問答無用で脳をいじらされて、一を聞くと百を返してくるような講釈好き。今みたいに楽観的なようで、俺が記憶喪失と知った時のように、少し不安定さも感じる。
そんなめんどくさい性格をした緑の眼のヒトといて、色々気付かされた。一つはこの人は無理してるんじゃないかと言うこと。ここ最近、とんでもない情報量で圧迫されて、俺自身感情の起伏が少なくなっている自覚がある。思えば、この世界で笑ったことは、あんまりない気がする。
この人は、そんな俺が笑顔になれるようと、色々な話をしてくれている気がする。もしかしたら、あえて道化になってくれているのかもしれない。
「ほら、言い出しっぺから先に行ってよ。タイチョー!」
「誰が隊長だよ二人しかいないのに、あと行き先の責任押し付けるな」
「ヘイヘーイ」
まぁ絆されつつあるのは事実。それと気づいたことの二つ目は。
「ふふ」
「あっ笑った。なんか私言ったかい?」
まだ言葉にするのはやめよう。確信もないし。
二
昨夜の会話を思い返す。
「……つまりだね、モンスターというのは我々が植物や動物全てひっくるめて生物というような大きすぎる括りであってもちろん君が今日出会った知的な種もいれば猛獣のような凶暴なモンスターもいるということなんだけれどそもそもモンスターと生物を分けるものは何かという問いはとても興味深いものg聞いてる?」
「聞いてますよぉ」
俺はそう言って空返事をした。正直、話全部は聞いていられないので要点だけ聞いていた。話の内容よりも、一息でここまで喋れることに感心した。
「昨日言っただろう?聞いてないとは言わせないよ」
その『猛獣』と鉢合わせた今になって、要点だけでも聞いておいて助かったと思う。
「聞いてはいたよ。たしか、町の外のモンスターの中には襲ってくる個体もいるんだよな」
「じゃあモンスターと普通の生物の違いは?」
「……はぇ?」
「細胞構造の違いと言ったでしょ。やっぱり聞いてないじゃん!」
察するに、その知識は俺にとっては要点ではなかったのだろう。リョクはため息をついて、
「まぁいい。とりあえずこいつらをなんとかしないとね」
そう言われて、辺りを見渡す。気がついたら三日月の弧の形をした陣形で迫ってきていた。青色の体をして、ぷにぷにした見た目をしている。
「十二体、こいつらは昨日話していたモンスターの『スライム』で合ってるか?」
「That's right! 真正面の一際デカイそいつが群れのリーダーだ」
スライム、体液には毒性がある種もあり、固体とも液体とも言えない不定形のモンスター。色によって分類されているがほぼ同色でも生態が異なることもある。基本的に単独行動をしていて……
「あれ?」
「何だ、ちゃんと聞いてるじゃん。君が疑問に思った通り、通常スライムは群れをなさない」
「リョクって心読めるの?」
「かもね。ところでこのモンスターが群れを作る理由、知らないけど推測はできる。もし新種なら興味が湧くけど、多分そうじゃないな」
リョクは押しが強い。基本喋りたいことを押し付ける感じだ。話すことが面白いから、たまにしか不快感は感じないけれども。
そう話してる間にも、スライム達が迫ってきている。約、五メートルぐらいだろうか。
「とにかくこういう時は逃げるに限る」
「危ないから?」
「それも無くはないけど、万が一絶滅危惧種とかがいたら殺すと罰金なんだよ」
クマを狩るべきか否かで活発な議論、もといレスバが起きていた元の世界と、この世界も大してかわらないらしい。相変わらずこういうどうでもいい記憶だけは残っている。
それはそれとして、俺はさっきから一体のスライムに目が釘付けになっていた。目が合う。明らかにアレだ。
「ごめん、その時は罰金払って」
「んえ? どゆこと?」
「多分あのスライムの中に欠片がある。取ろう」
俺がそのスライムを指差すと、隣からえぇぇぇぇぇ、とため息と抗議が合わさったような声が聞こえた。
「えー、別に良くない?」
「いや、もったいなくない? それに戦わない理由に罰金って言ってる時点で、勝てるんでしょ?」
「……ホント君は変わらないなぁ。いつも無茶苦茶で」
がっくり項垂れるリョク。体を起こし、前髪をさっとかき上げ、それから、一度彼女の緑の瞳が覆われて、また姿を表す。その目には、魔法陣みたいな文様が。
「任せなさい。今日は全部やってあげる!」




