イレギュラー
上海攻略戦における銃撃戦はその最たる例であるだろう。ゼロフォースが連邦軍第56歩兵大隊に配属されてから、初めての援護射撃を命じられ後方待機していた所に、中国陸軍の歩兵中隊50人が乱入してきて、本格的な銃撃戦となったのだ。
本来ならその場から後退して本隊に合流すべきであったが、ゼロフォース16名は、十文字隊長の命令を無視して、中国陸軍歩兵中隊と交戦した。幸いにも本隊から応援が入り、死者無く敵兵を全員射殺出来たが、十文字隊長は怒り心頭であった。その日の夜。十文字隊長はゼロフォース兵士を全員集めた。所謂御説教である。
「イレギュラーだったとは言え、初日からこんな事では先が危ういな。いくらゼロフォースとは言え、自分の力を過信しすぎるな。ここは戦場だ。上官の命令は絶対だ。良いな?特に沖矢と浦野。」
「はい。しかしあの状況で、あの判断は間違っていないかと思っています。」
「自分も同じ意見です。」
「私が何を命じたか分からなかったのか?とは言わせないぞ?」
「命令は分かっていました。それでもあのまま交戦せずに本隊に合流・待避出来る様な状況ではありませんでした。本隊から援護要請を出したのも我々です。その判断がなければ今我々は生き残ってはいないかと思います。」
現場の隊員も、沖矢と浦野両班長の意見を支持していた。この頃から、十文字隊長とゼロフォース各兵士との間に少しずつすれ違いの様なものが生まれ始めていた。そのすれ違いが後にゼロフォースの運命を左右する事になるとは誰も思っていなかった。
結局、この作戦のゼロフォースの対応は、現場判断とされ、特におとがめは無かった。戦場とは結局現場判断するしかないのが現実なのである。勿論指揮官の判断が最優先されるのは言うまでもない。今回の様なイレギュラーな場合でも、ゼロフォースは臨機応変に対応して、部隊の柔軟性を示した形となった。
どちらが良くて、どちらが悪いと言う二元論的な話ではなく、生きるか死ぬかその結果論こそだけが戦場では大切なのである。敵兵を全滅させ、味方の損害は0。もし、十文字隊長の命令を鵜呑みにしていたら、こうした結果にはならなかったかもしれない。




