世の中そんなに甘く無い
沖矢俊才は、福浜州茂野村の出身で、一族は皆連邦軍に従事している。俊才自身は、連邦軍の幹部を養成する連邦軍士官大学に進学するはずだった。しかしどうにも学力に難があり、不合格となり毎日フラフラしていた。それを見かねた父であり連邦軍第8師団長である沖矢恭平少将が、[ストロンゲスト・オブ・ユナイテッド]への参加を薦めたのだ。
俊才としては、このチャンスを逃せば、もう恐らく出世の見込みのある待遇での入隊する機会はない。そう考えてのエントリーであった。家族は父母兄貴の4人家族で、兄貴は連邦軍の要である特殊作戦攻撃隊の分隊下士官(二等兵曹)を勤める連邦陸軍のエースであった。
落ちこぼれたくない俊才は、とにかくガムシャラに戦うまでだった。自分の剣術の腕には自信があった。勉強さえ出来れば自分の実力なら確実に立身出世出来る。しかし、彼が思う程世の中は甘くなかったのである。
確かに沖矢俊才は強い。しかしそれはアマチュアでの話である。精鋭揃いの連邦軍には俊才の様な人間は腐るほどいる。逆を返せばまだ彼は原石に過ぎない。磨き方が悪ければガラクタにしかならない。磨き方が良ければダイアモンドになるかと言う事は別にしても、俊才がプロでやって行くつもりなら今のままでは芽は出て来ない。
そしてこの様な大会が行われる様になった経過を考える必要もある。長引く中国との戦いは既に泥沼化している。連邦軍上層部は、この大会を掘り出し物の発掘位にしか思っていない。それを思案するのは容易な事である。連邦軍にしてみれば小さなアメだが、庶民からすれば大チャンス。
とは言え、この大会で選抜された16名には過酷な訓練が施されるのは間違いない。そんな上層部の思惑を考えるよりもまずは、この大会で勝ち抜く事を考えてなければならない。最低5回以上は勝たなければ、ベスト16には残れない。素人の下克上を掛けた熾烈なトーナメントがここに幕を開けるのである。