ゼロフォースの存在意義
言ってみれば卒業検定の様なものであった。とは言え、相手は中国No.3の実力を持つ東海艦隊の主力ではあるが。
やってやれない事は無いかもしれないが、目標艦であるイージスクラスミサイル駆逐艦リーゴンとエンパイには各300人近い乗員がいて、とてもではないが、ゼロフォースだけで制圧するというのは、数字的物理的には無理があった。十文字少佐はこう語っている。
「これから我々の実力を世間に示す事になる訳であるが、ほとんどの人間はその様な無茶がまかり通るなど思ってもいない。中国も味方である日本連邦軍でさえも。しかし、私から言わせればだからどうしたと言うのであるか?我々の血の滲むような訓練は、この作戦を見事に失敗する為に行って来た訳ではあるまい。スカッと2隻のイージスクラスミサイル駆逐艦位制圧出来なければ、はっきり言って、ゼロフォースと言う部隊の存在意義そのものが問われる。そうならない為にも、我々ゼロフォースは初陣からしっかり結果を出す必要がある。諸君らの力をもってすれば、問題無くやり遂げてくれるだろう。と私は思う。無論油断は禁物だが。気合いを入れてこの戦いに臨もう。」
やはりこの隊長は話が長い。しかし、間違った事は何一つ言っていない。それが兵士の胸にダイレクトに響いた。
だが、A班班長の沖矢はそれどころではなかったが。何故なら敵目標艦艇のリーゴンのデータを隅から隅まで頭に入れていたからである。今のハイテクノロジーな時代において、作戦前にデータを手に入れる位は朝飯前である。リーゴンはリステリア級のイージス艦であり、中国海軍にとっては第3世代のイージス艦で、主力となっているフィゴースティア級(第4世代)より型の古いイージスクラスミサイル駆逐艦であった。
ただ、最新鋭ではなくとも、充分に実積のあるイージス艦である事に違いは無い。沖矢はありとあらゆるデータから、どこにウィークポイントがあるのか?何処から突入すべき死角はどこなのか?等を細かく分析していた。データを制する者が戦争を制す。戦いにおいて、信頼して良いのは自分の目と耳と頭から得られる情報だけである。それは訓練期間中から学んでいる事であり、十文字隊長の教えでもあった。




