にっぽん転生むかしばなし〜桃太郎、現代知識で無双する〜
むかしむかし、ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんが川へ洗濯に行きました。
お婆さんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきたので、家へ持って帰りました。
お爺さんと二人でその桃を切ろうとすると、なんと中から大きな赤ん坊が出てきたのです。
赤ん坊は「え、何だここは! 俺は確かトラックに轢かれて……って巨大な桃!? もしかして、桃太郎に転生したのか?」などと訳の分からないことをブツブツと言っていました。
お爺さんとお婆さんが呆気にとられていると、視線に気付いた赤ん坊は「まずいっ!」と舌打ちしたあと、オンギャアオンギャアとわざとらしく泣き始めました。
なんかヤベえのが出てきたと思ったお爺さんとお婆さんでしたが、子供がいなかったのでその赤ん坊を育てることにしました。
桃から生まれたので、桃太郎と名付けられたその赤ん坊はあっという間に大きくなり、立派な男の子になりました。
桃太郎は村の誰も知らない知識を何故かたくさん持っており、川の氾濫を治めたり、道路や街灯、上下水道を整備して、村の生活を爆発的に発展させました。
やたら工事の手際の良い若者を百人ほど、どこからか桃太郎が移住させてきたので、労働力に困ることもありませんでした。
「前世ではゼネコン勤務だったから、このくらい造作もない」と桃太郎は言いましたが、お爺さんとお婆さんは意味が分かりませんでした。
桃太郎のお陰で村はたいそう豊かになり、桃太郎と村の噂は国中に広がりました。
ある日、桃太郎が近くの殿様に呼ばれて村を留守にしていた時のことです。
有名になった村の財産を狙って、鬼たちが村を襲ってきたのです。
幸い死人は出ませんでしたが、村人達の財産や食糧は根こそぎ鬼たちに奪われてしまいました。
殿様の所から帰った桃太郎は、村の惨状を見るなり「くそっ! 鬼達が活発に活動を始めるのはまだ先のはず。まさか……俺が歴史を改変した影響が出ているというのか?」と膝をついて悔しそうに地面を叩きました。
村人たちは「ああ、またいつもの病気が始まったんだな……」と温かい目で見守ってくれました。
だから桃太郎が「俺、鬼退治に行くよ」と言い出しても、どうせすぐ帰ってくるだろうとオヤツのきび団子だけを持たせて見送りました。
桃太郎は「え、これだけ!? 鎧とか刀とかは……別にいいか。武器なら例のヤツがある」と、やけに達観した様子で木の筒のような物を大量にリアカーに積んで出掛けて行きました。
旅の途中、桃太郎は犬と出会いましたが素通りしました。
前世で犬を飼っていた桃太郎は、犬を鬼との戦いに連れて行きたくなかったのです。
猿は、桃太郎がリアカーに積んでいる木の筒のような物が気になって触ったところ、バンッ! という大きな音と光に驚いて逃げていきました。
その近くでキジは、小さな穴から血を流して死んでいました。
それ以外もそれなりに色々ありましたが、道路は整備していたので、桃太郎は特に苦もなく鬼ヶ島に到着しました。
鬼ヶ島に上陸した桃太郎の前に、数十人の鬼たちが立ちはだかります。
「貴様が桃太郎か! 人間ごときが鬼ヶ島に来るなど、わざわざワシ達に食われにきたのか?」
「いや、お前たちを退治にきた」
「ハッハッハ! 面白い冗談だ。貴様一人で何ができる?」
「一人? 何を勘違いしている? ここに桃太郎は百人いるぞ」
「は?」
桃太郎が片手を挙げると、鬼達を取り囲むように百人の桃太郎が姿を現しました。
「こいつらは俺より先に鬼ヶ島に向かわせておいた別働隊だ。まったく気付かないとは鬼ヶ島の警備はザルだと言わざるを得ないな」
桃太郎達は皆、一様に火縄銃を構えています。
「な、なななななんだこれは!? お前とまったく同じ顔の桃太郎が百人だと!?」
「俺は現代にいる頃から疑問に思っていた。なぜ川に大きな桃が流れてきたのか。それはどこから来たのか、と」
「げ、現代? 桃? 何の話だ?」
「まぁ聞け。俺は確かめる為に、婆さんが俺を拾った川を登っていった。そして川の源流、山の奥深くでついに発見したのさ。俺が生まれたのと同じ大きな桃がなる巨大な木を」
「な、なんだって!?」
「俺はきたるべき鬼の進行に備えて、木になった全ての桃を開き、百人の桃太郎部隊を作ることにした。武器は今の設備じゃ火縄銃が精一杯だったが、これだけ人数がいれば十分だ。何故かって?」
桃太郎はニヤリと笑って手を振り下ろし、桃太郎たちに発射の合図をしました。
「三段撃ちが使える」
「や、やめろおおおおお!!!」
鬼の悲鳴を掻き消すように、桃太郎たちの火縄銃から銃声が鳴り響きます。
三人一組になった桃太郎たちは弾込めをスムーズに行い、途切れさせることなく鬼たちへ銃を撃ち続けたのです。
鬼たちは反撃すら許されず、一方的に蹂躙されました。
やがて、動くものが見えなくなってから、
「やめ!」
桃太郎の号令で全ての桃太郎が銃撃を止めます。
全ての鬼を倒したことを確認した後、桃太郎は腰を下ろして、お婆さんのきび団子を頬張りました。
「む。本物の黍を使ってるから癖はあるが、美味い。昔、同僚に土産で貰ったきび団子は餅米を使っていたからな」
こうして、鬼から村の財産と食糧を取り戻した桃太郎は、百人の桃太郎たちと村に帰り、お爺さんお婆さんと幸せに暮らしたり、日本を統一したりしましたとさ。
めでたしめでたし。
読んで下さり、ありがとうございます!
少しでも「面白い」と思って頂けましたら、「ブックマークに追加」と「評価(★★★★★)」を頂けると嬉しいです。
皆さんの応援が何よりのモチベーションになります。
なにとぞ、よろしくお願いいたします。