5
「近づく……?」
すでに身体を預けているのに、これ以上どうやって?
私の疑問に創は言葉では答えてくれず、かわりに腰に回し添えられていた手がぎゅっとさらに私を引き寄せる。
背中にも腕を回され、文字通りもっと近づいた。
「そ、創っ」
「ごめん、嫌なら言って」
「嫌じゃないけど、でも……!」
嫌じゃないと言った瞬間、さらにぎゅうっと締め付けられる。背中に回された腕も、腰に回された腕も。
隙間のないほどに密着され、かろうじて創の肩に顔を出して逃げ場をつくった。自然と見上げた夜空には、小さな星がひとつ流れた。
「今日、検査ばっかりで疲れちゃって……彩に会いたくて仕方なかったんだ」
創は私に顔を埋め、大きく一息した。
「落ち着く……」とつぶやかれては、それ以上は抵抗できなかった。
私が創といることで落ち着くように、創も落ち着いてくれる。それは素直に嬉しく思う。
私もそっと、創の背中に手を伸ばした。
「私も創に会いたかったよ」
ぴくり、と創が反応した。
私に埋めていた顔を上げると、相変わらず紅く染まった頬で私を見た。
「それ、本当?」
「うん。会えて嬉しい」
「そんなに、かわいいことを言われると……」
「え?」
一度目を逸らした創は、意を決したようにまた私を見つめた。
真剣な眼差し。伝わる、これまでのものとは全然違う緊張。……覚えがある。
いつだっけ。創がこんなに真剣だったの、なんの話をした時だっけ。
いくら思い出そうとしても思考はすぐに霧散する。
ゆっくりと近づいてくる創の顔が、その瞳が。お互いに見つめる先はきっと唇で、だから伏せた目でその距離を確認して。
恥ずかしさから身をよじるけれど、私の腰には腕がしっかりと回されている。引いてしまったあごは、もうひとつの大きな手に優しく捕まった。
目線を上げれば、創も私に目線を合わせて、そして瞼が閉じられる。
触れるまであとわずかな唇に、私もそっと瞼を閉じた。
――熱く火照った頰に、そっと唇が触れた。
わ、と思う間にまた創に抱きすくめられる。
身悶えを誤魔化すようにぎゅうぎゅうと、私の頰に触れる創の耳は私よりも熱かった。
「こんなにドキドキしたら、心臓に悪い……」
創の一言に気の抜けた私は、ふふっと笑ってしまう。
「私もドキドキした」
「彩、嫌なら本当にちゃんと言ってね」
「うん。……嫌じゃないよ」
「……っ。あーもう、だめ。これ以上はだめ」
ぱっと創が腕を解放し、離れる。
真っ赤な頬。耳。きょとんと見ていると、眉根を寄せてまた創は私に抱きついた。
「もー……恥ずかしすぎて離れられない」
「私に隠れてるの?」
「そうだよ。それに、まだ離れたくない」
ぎゅうっとまた力を込められ、同じように身体をくっつけた。創から伝わる心音が大きい。
私はまた創の背中に手を回し、創の肩ごしに夜空を見上げた。
「流星群見るんじゃなかったの?」
「今は無理。顔上げられない」
「創のドキドキがすごいね」
「彩もすごいよ。伝わってくる」
「当たり前だよ。……こんなの、本当に好きになっちゃいそう」
「……」
「……」
揃う沈黙。
なのに、夜空を眺めていた私はなぜか気まずさを感じることはなくて。
「……付き合ってるうちは、いいんじゃないかな。本当に好きでも」
創のその言葉に、私の中に熱が広がった。
無意識に抑えていた気持ちが溢れ出てしまって、創と同じように恥ずかしさで離れることができない。――離れたくない。
ちかちかと瞬くひとつの星が大きく光り、その瞬間に藍色の空を駆け抜けていった。