竜神のお願い
「少しの間だけ眠っていたから体が冷えないように温めておいたわ」
母性ある優しい声で喋りかけてくる。心の底から、なぜだか竜のような生物に包まれ体を委ねてみたいと思えた。
眠っていたときに温めていてくれたときの感触だろうか。体にはモフモフに包まれていた感触が残っていた。
「あ、ありがとう……」
異種生物に子供を温めるように抱擁されていたと思うと恥ずかしくなった。そのため、小さい声でお礼を言ったことに少し心残りがあった。
「ううん、お礼を言うのはワタシの方よ」
「えっ……?」
その竜っぽいのが言うことにすぐに理解ができなかった。
ここは神社だが……まさか自分を捧げ物と思われている? それとも人間を子供みたいに愛す時間を過ごせたことのお礼だろうか、気を失っている間に僕は何かしでかしたのかな。考えれば考えるほど思考が混乱していた。
大きな身体の下で思考停止し目を回しそうになっていると、竜っぽい生物が続けてしゃべってくる。
「ワタシが何者か、まだ言ってなかったわね。ワタシは竜神なの」
「りゅ、竜神?」
「そう、以前ここにニンゲンが住んでいたときに祀られた存在だったの」
「そう、だったんだ……」
集落で祀られた竜神と名乗られたことに驚き口が開いたままになってしまう。
「でも、ニンゲンが山から下りてしまいここに祀る者がほんのわずかになってしまい……」
竜神は寂しそうな声でしゃべっていた。
ここは消滅集落になってたな。神社まわりが綺麗だったのはそういったひとたちが手入れしてくれていたのだろう。
「ワタシの種族は繁殖期に他の種族から子種などを貰って繁栄しているの。集落がない今は協力してくれるニンゲンを範囲を広げ探し始めることにしたの」
「ニンゲンの中でわずかにワタシの呼びかけに反応できる者が適応力を持っていて、その者をここまで寄せ付けることができる、そうして辿り着いてきてくれたのがアナタだったのよ」
自分がここに辿り着けたのは神に呼び寄せられたためかなとはうっすら考えもしていたが、本当にそうだったことに開いた口が塞がらなかった。
竜神と黙ったまま見つめ合い、静寂な時間は実際は短かったとしてもそれが長く感じられた。
一人と一体の間に静寂が流れる中、竜神が口を開いた。
「アナタにお願いがあるの」
「お、お願い?」
「その……ワタシが子供を産むことにアナタの体を貸してほしいの」