表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に飛ばされたBA(男)の受難  作者: 豆もち。
BA、聖女召喚の儀式に巻き込まれる
8/17

2



「鴇藤さんは、おいくつですか? 」

「24。社会人2年目」

「そうなんですね。すごく親しみやすい印象だったから、てっきりまだ、大学生だと思ってました。

……7歳差なら、可能性ある、よね」

「え~嬉しいな。ごめん、最後の方聞き取れなかったんだけど」

「あっいえ! 大したことないので大丈夫です! 」

「そう? 」

「はい、むしろ独り言みたいなもんです。

あとっ、名前で呼んでもらえますか? 」

「え~と(思い出せ、俺。何ヒナコだっけ、苗字出てこい) 」

「日向子です! 桜田 日向子と言います。日向子って呼んで下さい」



 鴇藤、桜田、ベルヘルム、ベイリーの4人は、ガゼボで長閑なティータイムを過ごしていた。

 同じ日本人であり、唯一心が許せる鴇藤が話し相手なおかげか、桜田は楽しそうに話している。

泣くか黙る姿しか見ていなかったベルヘルムは、自分の不甲斐なさを感じると共に、小さな嫉妬心を芽生えさせるのだった。



「(兄か近所のお兄さんみたいに思ってくれてるのかな? まあ、こんだけ可愛い子に懐かれたら嫌な気はしないな) じゃあ日向子ちゃんって呼ばせてもらうよ。俺の事も蓮で良いよ」

「本当ですかっ、れ、蓮さんっ」

「ん、なぁに? (ちょっと犬っぽい) 」

「よっ呼んだだけです。

あ、そうだ。お仕事は何されてたんですか? 」

「BAだよ。百貨店の美容部員みたいなもん」

「えっ!? すごいです! あんまり男性の方っていませんよね」

「そうだね、レアだと思う」



 桜田は、完全に2人の王子の存在を忘れ、会話に夢中になっていた。

自分の知る世界観、常識を共有する事で、一時的に現実逃避をしている様にも見える程。

鴇藤はその危うさを感じつつ、今はただ話を聞く事に徹した。



「どこで働いてたんです? 」

「渋谷の『Carina』って知ってる? そこ」

「知ってます!よく雑誌に載ってますよね。

私、リップ持ってます」

「へ~、嬉しいな。ありがとう」



 ふとベイリーは気になった。庇護下に置きたいと考えている青年の仕事について。

聖女が気分良く話している最中に割り込むのは、憚られたが、大した問題ではないだろうと、切り込む事にした。



「レン、BAというのは何だい?

どんな仕事をしていたのか、教えてくれないか? 」

「化粧品とかコスメティックは通じますか?

それらのアイテムを使って、肌の状態を良くしたり、顔をデザインしたりするんです」

「化粧ーーーああ、貴婦人が顔に粉や唇に赤い染料を塗る事か」



 ベイリーは舞踏会や晩餐会で見る厚塗りの女性達を想像した。



「たぶんそうです。それをメイクだとか、化粧と言ってます。

化粧品/コスメは、それに使う粉だったり、メイドさん達が使ってる植物オイルを指したりします」

「それはつまり、レンは侍女や髪結の仕事をしていたのか? 」



 ベルヘルムとベイリーは顔を顰めた。

 家名を持っているはずの鴇藤が、何故その様な仕事をしているのか考え、さぞ苦い人生だったのだろうと想像したからだ。

たしかに、上級侍女の中には貴族も多い。一種のステータスとも言えよう。

しかしそれは、あくまで女性の話だ。男性ではまず有り得ない。髪結は男もいるが、決まって平民だった。

つまり彼は没落した貴族なのではないか?


 暗い顔で黙ってしまった王子達に、鴇藤は不思議な気持ちだった。

こうして、誰も的外れな勘違いに気付く事なく、話は進んでいくのであった。



「ん~違う様な気もしますが、被るところはありますね」

「そ、そうか(やはり、そうなんだな。こんなに気丈に振る舞って…レンには出来る限り贅沢を!) 」

「それは大変な仕事だったな。ヒナコは何をしていたんだ? (認めたくはないんだろう。ここは話題を逸らしてやるべきだ) 」



 この憐れむ様な視線は何だ。オカン宰相といい、何故自分がこんな扱いを受けるのか。それから数日して、鴇藤は割と真剣に悩まされる事になる。



「高校生です」

「それは何だ? 」

「学生です。勉強する所に通ってます」



 ベルヘルムは質問を間違えたと後悔した。

同郷でありながら、ヒナコは学習機関に通える裕福な家に育ったという事だ。

鴇藤に酷な話を聞かせてしまった。そう勘違いしているからだ。



「そう…なのか。さぞ優秀だったんだろうな、ハハ」

「(兄上…) 」

「普通ですよ? よっぽど頭が悪いか、家庭の問題か、夢の為とかでない限り、みんな高校までは進学しますから」

「「そうなのかっ!(やはり彼は…いや、夢の為という可能性も) 」」

「まあ、大学はまちまちですけどね。大抵の人は4年制か専門学校に進みますね。

俺は文系の大学出ましたけど、専門でも良かったかな~と思ってます」

「「え゛っ?! 」」

「へぇ、そうなんですかー。私はまだ迷ってるんですよ」



 大学とは何なのか。青空教室の様なものか?

だが、聖女の口ぶりだと、高校の次が大学だと推測出来る。

つまり鴇藤は高等教育機関を卒業したという事か。それなら何故、侍女の真似事を?

卒業後に没落したとしても、働き口はいくらでもあるはずだ。

 もしや全て勘違いで、鴇藤という男は自らその道に進んだ酔狂な人間なのかも知れない。

そうであれば、この無害そうな男の認識を改めなければ。


 おおよそ合っている様で、最も大事な部分が誤解されているが、誰も正す者は居ない。



「そうなんだ。まあ、ゆっくり考えなよ(戻れない限り、虚しいだけだから) 」

「はい! そうだ今度私にメイクしてくれませんか?

私、少しならメイクポーチに入ってるので」

「いいよ。俺も確認しないと分からないけど、カバンの中身が無事だったら、ある程度揃ってるはずだから」

「やったぁ。そしたら一緒に取りに行きましょう。私、まだこの建物以外見れてないんです」

「ん~、ベイリー殿下良いですか? 」



 鴇藤は自分の身元引き受け人に尋ねる。

 ベルヘルムは当然反対するだろうが、鴇藤の謎が頭を占め、聞こえていない様だった。

その様子を面白そうに眺め、ベイリーは笑顔で許可を出した。

自分もついて行くからと言って。




 ティータイムはお開きになり、其の足で彼等は魔術団員が生活する魔術塔へ向かった。



「ずいぶん楽しそうですね、聖女様」

「だって、蓮さんと一緒ですから。貴方達の事は全く信用してませんけど、蓮さんは私と同じ誘拐された被害者ですもん」



 鋭い眼光で質問に答えた桜田に、ベイリーは苦笑するしかなかった。



「(今時のJKってこえ~、恨み節全開でドストレートだな) 」

 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ