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起きたら死にかけだと誤解され、心配されました。以上。
「トキトゥ! 身体は大丈夫なのか?
苦しい所はないか、私が誰だか分かるか」
分かりますとも、オカン宰相様。
周りを見てくれ、爺さんもミレーさんも若干引いてるぞ。
「はい、ピンピンしてます。
寝坊してしまったみたいで、心配をおかけして申し訳ないです」
特に、目尻に涙を浮かべてホッとしてくれているミレーさん。
アルテナ神よりよっぽど女神じゃねぇか。
ーーズキン
「いてっ(何で急にでこが…) 」
「頭が痛むのか! ええい、医者はまだか!
侍医でなくとも構わん。どこからか借りて来い」
「落ち着けジーク坊。まずはワシが診る、どいておれ」
「(宰相閣下を間近でお見かけするのは、昨日が初めてだったけど、こんな方だったのね) レン様、お水をどうぞ」
もしかして、この痛みって印からきてるんじゃないか?
…つまりアレか。俺が悪口を言ったから忠告を。こえー、けど納得。
ミレーさんからグラスを受け取り、一気に水を流し込む。
「ふー、スッキリした。ありがとう、ミレーさん」
「良かったですわ。お食事は食べられそうですか?
難しい様でしたら果物だけでも」
「あ、うん。お腹空いてるからお願いします」
「ふふ、かしこまりました。
宰相閣下とドバース団長も何かお持ち致しましょうか」
「ああ、頼む。私は紅茶を」
「ワシは軽く食事がしたい」
「かしこまりました。お飲み物はすぐにご用意致しますので、お食事は少々お待ち下さいませ」
ミレーさんが部屋を出ると、険しい顔をした宰相さんと、疲れ顔の爺さんが俺をガン見してきた。
なんか悪いことしちゃったな。
騒動になった理由を聞くと、思ったより危険な状態だったらしい。
40分程前。俺を起こしに来たミレーさんが呼びかけても全く返答がない為、入室。
身体を揺らしてもピクリとも反応しない俺に不安を感じ、メイド長に侍医を呼んでもらう様に言ってくれたそうだ。
しかし、王宮内の侍医が捕まらず、慌てたメイド長がベイリー王子の執事に報告。その知らせを聞いたオカン宰相が王子を押し退けて、爺さんを引き摺って来たらしい。
爺さん、ごめん。あと宰相さんは俺の保護者か何かなんだろうか。
そして、魔術師団団長の爺さんがマナの流れやら(説明聞いてもさっぱり分からなかった)を調べた結果。
どうやら俺の精神が消えかかってたらしい。
ここで言う〈精神〉というのは、心の問題ではなく、存在を指すんだと。魂が抜けるがイメージに近いかな~。
まぁ、幽体離脱的な体験をしていた様だ。
かなり危険な事をしてくれたな、あの神様は!
あ、いてっ。いやこれは悪口じゃなくて、完全に神様のミスじゃ…。
「いっつ」
「ふむ、やはり頭が痛む様だな。
精神は安定しているが、その反動やも知れん」
「異世界人のトキトゥには、専属医師を1人つけた方が良さそうだ。聖女様はアルテス神の加護があるが、君は分からないからな。
ある意味、聖女様より脆弱な人間と言えよう」
面目ない。
アルテナ神の事を言うべきか迷ったが、本人も忘れ去られたって言ってたし、ひとまず黙っておこう。
宗教の問題は何処だって命取りだろうし。
ステータスについては、聞いてみても良いだろうか。
何を聞いて、何を隠すべきか分からないな。
誰か相談出来る人がいれば良いんだが。
宰相さんは心配してくれている。
しかし、全部話して大丈夫か? 宰相って政のお偉いさんだろ。
「ご迷惑をおかけします。
でも、本当に体調は大丈夫です」
「世話係もつける。
またいつ、同じ状態になるか分からんからな。
年寄りと若者、どちらが良い」
「えっと…、オススメの方で」
「トキトゥ、歳は」
「24です(昨日伝えたよな、俺)」
「本当に24なのか。
昨晩考えたんが、身体が細過ぎる。
それに顔も少し幼い。聖女様は17歳だそうだ。おおよそ、この国の認識の基準と合致する。
では、何故お前は若く見えるんだ?
何か身体に影響が出ているのではないか? 」
は? まさか若返ってるのか?
つかあの女子高生17歳か。改めて聞くと大人っぽい子だな。
「鏡ってありますか」
「それならワシが持ってる、これで良いか」
「ありがとうございます(何で手鏡持ち歩いてるんだ、爺さん!) 」
「よいよい。しかし昨日とは別人の様な言葉使いじゃな」
「うっ、その節はどうもすみません。急だったので頭に血が上ってしまって(急でなくてもムリだけど) 」
「それもそうか、まあ楽にしたらいい。
ワシもこの歳になると、お前くらいの歳は皆、孫に見える」
あれ、ひょっとしてこの爺さんもオカン属性なのか?
いや、婆ちゃん属性? あと聖女至上主義も付け加えとこう。昨日、気持ち悪かったもんな。ぶっ飛んでた。
「はあ、どうもーーーーん? 別にそのまんまだ」
「何がだ」
「あ、いや。宰相様があんまり言うから若返ったのかと思ったんですけど、変わりませんでした」
「ではやはり、栄養が足りていないんだな。
さぞ大変だっただろう。安心しなさい、殿下が面倒を見るんだ。きっと身長も伸びる」
オカン通り越して失礼だぞ、おっさん。
身体は平気より細マッチョだって言ってんだろうが!
むしろタッパあるんだよ、もやしじゃねぇっ。
身長は176cmだから、日本人ではぼちぼち良い方だ。
顔の造りは年相応。違う事と言えば、仕事上肌の手入れに気を付ける事ぐらい。
「いや、成長期過ぎてます。
それに細くありません。普通です。
食べる物にも、寝るとこにも困った事ありません」
「信じられん。聖女様と同い年だと言われても誰も疑わないはずだ」
「平均か平均より良いくらいなんです!
心配しないで下さい!
あと、これ返します! 団長さん」
「ホッホ。その辺にしてやれ、ジーク坊。あまりしつこいと嫌われるぞ。
ところで、見ていて思ったんだがな。
トキトゥの肌が、まるで子供の様なんじゃ。
若い娘と同じ様に滑らかな肌を持っている」
「まあ、本業だったんで」
「ふむ。普通、男は肌など気を使わん。
それが原因ではないか? 」
「たしかに。言われてみればトキトゥの肌は娘の様だ」
「娘って、別に女装趣味はないですからね。勘違いしないで下さいよ」
変な誤解を受けたらどうしよう。
宰相さんは興味深そうにマジマジと見てくるし、爺さんは何やら考え込んでいる。
「トキトゥ、ちとワシの頼み事を聞いてくれないか」
「頼みですか? 内容によりますけど」
「んん、実は孫の嫁が肌荒れを気にして引き篭もってしまったんだ。
以前は美人だと名も通っておったが、去年から急に荒れる様になったらしい。
いくつか軟膏も用意してやったんだが、どれも効果がなかった」
俺に皮膚科医の真似事は出来ねぇから、症状と原因によるな。
化粧品で対処出来る範囲なら良いんだが。
でも待てよ? ミレーさんの話じゃ、スキンケアアイテムないよな、この国。
ーーーそうだ! スキルに【成分鑑定/生成】があったはず。それで何とか出来ないか?
俺も習慣付いてたケアを昨日出来なかったせいで、違和感あるし。
せめて化粧水は欲しい。クリームは植物オイルで代用出来るとしても、オイルだけじゃ男にはキツイ。
「治せるか分かりませんけど……アドバイスは出来るかも知れません」
「おお! それでも良い、すまないなトキトゥ」
「いえいえ。あ、期待はしないで下さいよ」
「う、うむ。分かっておる」
その後、朝食を食べながら午後からの予定を聞いた。
どうやら王宮を案内してもらった後、女子高生聖女に会えるらしい。