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「ーーーーー聞こえるか」
誰かに呼ばれてる? 誰だ?
柔らかくて陽だまりの様な空間に居るみたいだ。
もっとこの場所で休みたい。
「我の声が聞こえるなら目覚めよ」
「う、ん…」
「おい! 起きぬかっ、小童」
「ぇ……あ、おれ、か。ふあぁ~」
「ぐぬぬ、欠伸までっ。何と緊張感のない童じゃ」
やっぱ、俺を呼んでるのか。
早く起きなきゃ。でも寝心地が良過ぎる。
流石ホテルクオリティーの寝具。幼い頃、母さんに抱っこされながら日向ぼっこした時の感じだ。
こう、包まれてる安心感?
待て、さっきから呼びかけが命令形じゃないか。
偉い人だ。やべ、宰相さんが起こしに来たのかな。それはマズイ!
「ふぁい゛っ! すみません、今起きました! もう朝ですか? 」
ガバッとベッドから起き上がったつもりが、真っ白な白夜の世界が広がっていた。
厳密に言えば、白夜というより無色透明、いや色の概念が歪んだ様な空間だ。
「ここは。俺は、また飛ばされたのか? 」
「カカッ、何を言っておる。愉快な童よな」
誰!? 宙に浮いてるぞ?!
永遠の#20歳__はたち__#みたいな容姿して、何で古風な話し方なんだよ。
見た目と合致しないぞ。
そしてやっぱり顔が良い。ダメだ、雑誌でもなかなか拝めない美形ばっかりに会ったせいで目が死にそう。
日本人ツラい。……日本人のせいじゃないな、だって美少女JK居るわ。
浮世離れした顔立ちだったけど、純国産顔だった、矛盾してっけど。
俺か、俺のDNAが悪いのか。チクショウ。
「あ~、とりあえず帰って来い。
ほれ、我の話を聞きたまえ」
「すみません、どうぞ(超絶可愛いフランス人だ。吸い込まれそうなくっきり二重のアーモンドアイがスゴイ。
化粧してないよな? どうやったらこんな完成された顔面になるんだ? ) 」
「そんなまじまじと見るな、恥ずかしい奴め」
「や、すみません。あまりに整った顔立ちだったから、つい」
「んな゛っ!?!?
そ、そうか、正直者なのじゃな。まあ今回は許してやろう」
「ありがとうございます」
えー、マジ可愛い。お口チャックしたら、天使って言われても信じるわ。
髪色はプラチナで、人工的に染めた感じはない。まさか地毛?
異世界ってすげぇ。地毛がプラチナかよ。
瞳の透き通った碧色が相まって、神秘的な存在に感じる。
「う、うむ。話を始めるぞ。
我はアルテナ。この国で最も信仰されるアルテスの妹じゃ(何だか調子が狂うな、こやつ。悪い気はせんが) 」
「え~っと、すいません。信仰っていうと宗教か何かの宗主様ですか? 」
「・・・は? 」
「 (はい、しくった。この反応。この国の常識なんて知らねぇんだから、無理だろ)
#何分__なにぶん__#来たばかりなので、存じ上げず。あの、その」
「いや、そうだったな。
おぬしは時空を越えたんじゃった。気にするな。
我は童達からすると、神と呼ばれる者。アルテスはハルシファー王国で最も信者が多い、豊穣の神だ。
そして我は、美の神。人々に忘れさられた存在じゃ。力も全盛期の半分以下に衰えておる」
「カミサマ、え、神様?
神様ってあの神様? 」
「なんじゃ、おぬしの国では、まさか只人や石ころまで神と呼ぶと言うのか? 」
神って実在するのか。いや、異世界が在るんだ、神だっているよな。
八百万の神って言うくらいだし、案外会ってたのかも知れない。日本でも。
ーーーーないな。そんな有り難みのない神様はイヤだ。
「いいえ。そんな方がいったい何故?」
「アルテスが愛子を迎えられたと喜んでおってな。
しかも異物付きで」
愛子って、彼女の事か? で、俺が異物、ね。
神様に言われるとキツイ。泣きたい。
「はあ」
「だから見に来てやったのじゃ、光栄に思え童よ」
「はあ、ありがとうございます」
「少々記憶をのぞかせてもらったが、なかなか良い職に就いているではないか。向上心も高い。
だから弄った」
「弄る? 」
「うむ。本来のスキルは【アイテムBOX】だったかの~。まあレベルを上げたとて、せいぜい子供用のベッドがギリギリの容量かの。
それではつまらん。故にスキルを書き換えてやったのじゃ」
子供用のベッドで十分な気がするのは俺だけか。
にしても容姿とのギャップが凄まじいな。
これで普通の喋り方だったら、何お願いされてもイイヨって言っちまいそう。
「む、何か不愉快な事を考えておるな。
神の言葉ぞ。本来であれば平伏して聞くべきというのに」
「すいません」
「続けるぞ。
ここからが本題じゃ。弄ってやったは良かったが、我は人間共には認識されておらん。
よって、本来ステータスに在るべき属性と加護に縛りがついてしもうた」
ん?
もしかして良い話じゃない?
「縛りっていうのは何でしょうか。それは困る事態になりますか? 」
「知らん。ーーが、教会には目をつけられたろう。
まあ、励むが良い。おぬしが我に届く程の強い念が送れたならば、一度は天下ってやろう」
「それってヤバイんじゃ(異教徒迫害なんて事にならねえだろうな) 」
「さあの。我が気にしてやる道理などなかろう。
童がどうなろうが、国が滅びようが問題ない」
当たり前の事を言ってるんだろうけど、理不尽だ。
神様の力でちょちょいと地球に戻してくれねえかな。
「無理じゃぞ」
「へ」
「我にその力はない。
というか、してはいけない。己で解決してみせよ」
「え、ちょ、心読めたんですか」
「最後に、アルテスから頼まれた事を済ませるか。
ほれ、少し頭を上げよ。髪を上げて額を見せるのじゃ」
「 (無視された) こうですか」
言われた通り、天井を見上げる勢いで頭を上げ、前髪を手で押さえた。あ、天井ねえや。
どこまであるんだ、この空間。
すると上から両肩に手を置かれ、グッと距離が縮まった。
ん~、神様が宙に浮いたままだから、下にいる俺に手を伸ばすと、当然体勢は、神様の上半身より下半身の方が上にいくわけで、服の裾が捲れて裏太ももが見えるというか、……胸が、あの。
谷間が降ってきそうな迫力で、眼前に広がるというか。
これ考えてる事、全部筒抜けなんだよな。天罰下ったらどうしよう。
最近ご無沙汰だったから、免疫が。お許し下さい、神様。
「ふんっ、案ずるな。生まれたばかりの赤子に見られて腹を立てる程、我の心は狭くない。
良いからじっとしていろ」
「へあっ、はい! 」
な、何でどんどん近付いて来るんだ!
胸がっ、当たりそうで、えーっ?!
『アルテスの願いの元 アルテナが授けよう 我が愛子の名はーーシュローー 導く者なり』
ーーちゅ
「えっ?? い、ま、なに……をっ」
「額に印をつけただけじゃ」
「印?」
「まあ神力を持つ者にしか見えぬから安心せい」
「印って、何の印ですか」
「神の寵愛を承けた愛子の証じゃよ。不本意だがな。
今より、おぬしの真名はシュロ。神に連なる者に出逢ったら、そう名乗ると良い。
運が良ければ助けになろう」
お守りみたいなもんか?
「全く違う。我の話を聞いておったのか?
もう良い、終いじゃ。戻ると良い。下界の者が騒いでおる。ではな、シュロ」
「待って下さい! まだ聞きたい事が、てか小鳥って」
「お前の名に因んだだけじゃ、鴇は鳥じゃろ。
ほれ戻れ」
ーーつん
眉間をつんと押されると、視界が一気にブラックアウトした。
「ーーまっ、レン様っ! 」
「トキトゥ! 起きろ、トキトゥ!
おい、侍医長はまだかっ」
「申し訳ありませんっ。只今ベルヘルム殿下の指示で、聖女様の対応に侍医長だけでなく、全員が出払っておりまして、急ぎ使いをやっております! 」
「何だとっ?!
目を覚ませ、トキトゥ! 」
「ダメじゃ、どんどん精神が感じられなくなっておる!
どういう事だ、ヒナコ様はご無事なのに、何故この男だけ」
「ウイリアム殿、どうにかならないのか」
「無理を言うな。今の私はほとんど魔術が使えん。光魔法を使える者に心当たりはないのか?ジーク坊」
「魔術師と同等の魔法を使える者は、皆遠征に出ている。貴殿も知っているだろう」
「弱ったの。このままではーー」
「そんなっ! 宰相閣下、ドバース団長!
どうかレン様をお救い下さいませっ! どうかっ」
ナニコレ、どうなってんだ。この状況。
目ぇ、開けづれぇー。
俺、死にかけてんの? ピンピンしてますけど!
「…………ぁの~、おはようございます」
「「「トキトゥっ(レン様) 」」」
「はい、すみません。
あっ、もしかしておそようございます? 」
「「「ハァ~~~」」」
何か、すいません。