メモリアルヌードル
結婚式の二次会の景品はカップ焼きそばだった。
恒例のビンゴ大会、何等だったか最後の包みを僕が引き当てた。
そして、このカップ焼きそばがここにある。
そういえばいつの間にか買わなくなった。
最後に買ったのはいつだろう、学生の時だったろうか、思い出せない。
午後11時25分
まだ寝るには早い気がしたし、少々おなかもすいていた。
友達の結婚式には思いのほか知っている顔が少なかった。
いや、少なくはなかった、ただみんな妻帯だったから、ちょっと遠い気がしただけだ。
つまり仲間内で独身者の出席者は僕だけだった。
まあ、わかってはいたが、何ともさみしいものだ。みんな冗談とも本気とも取れない言い方で僕に結婚をすすめた。
あまり話すこともなくなった、そしてビンゴ大会の最後の包みが当たって一言
「残り物には福があるっていいますよね。うれしいです。」
お湯が沸いた。
カップ焼きそばにお湯を入れる。
お湯がわくまでにとつけたFMからはシカゴの『素直になれなくて』が流れていた。
彼女はシカゴが好きだった。
僕の車には、たぶんどこかにまだシカゴのCDがねむっているはず。
そういえば
スタンドで給油をした時の景品がカップ焼きそばだった。
部屋に戻ると彼女はカップ焼きそばを作りたいと言い出した。
お湯を沸かして、三分後
「ねえ、このあとはどうするの」
「お湯を切るのさ、危ないからかしてみな」
カップ焼きそばのお湯を切ると、濁ったお湯が流れ出した
「あれ、もしかしてソースも入れてしまったのかい?」
「えっだって全部入れてお湯を入れるものだと思ったわ」
彼女は驚いた表情で僕を見つめた。
僕は笑いながら、彼女を抱きしめ、そしてキスをした。
夏の昼下がり
ソースの香り
そして今
BGMにシカゴが流れる部屋
しおれた生花のコサージュ
カップ焼きそばのソースの香り
「僕は間違えるわけがないんだな」
お湯を切り、ソースをまぶした
「会ってみるか」
二次会の席で、彼女がこの街に帰ってきたことをきいた。
やり直すとかやり直さないとか
それはその時でいい
もうとっくの昔に消去したテレフォンナンバー
そして消えることのないメモリー
最後の番号を押す
あとは電話の主が誰か、それだけだ
ワンコール、ツーコール、
午前十二時
電話に出たのは魔法が解けてこの街に帰ってきたシンデレラだった。