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スキルが認識阻害(モザイク)って女神様、マニアック過ぎませんか?  作者: 道 バター
1章 異世界からの帰還編
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二つの選択

夜が明け、部屋に朝日が差す。

目を覚ましたが、まだ薄ぼんやりとした思考であってもショウの心の中では今日の夕方には帰れるのだという強い気持ちがあった。


5年間、夢にまでみた帰還に心を踊らせ、顔を洗い、髪をとかして、埃にまみれて大半を過ごしていたこの世界の日常の中で最後の日位はと身だしなみを整えて、久方ぶりに高校の制服に袖を通す。


5年も経てば、この格好は端から見ればさぞかしコスプレ感があるのだろうか、自分の中ではもはや高校生のコスプレをしているようだ。


そして、ショウが部屋から出ようと扉を開けると、一番に目に入ってきたのは昨日別れたナコであった。

だが、雰囲気が大分違っていた。


いつもは欠かさず口元を隠しているマフラーはなく、ぼやっと髪はとかされ、額をさらすように後で髪が結われている。格好もいつものパンツルックではなく、ワンピースのような服装だ。


今日の彼女は口元も目元もよく見える。

普段とは違い上品な印象さえ受ける。


ナコの代わり映えに動揺しているショウに、変身を果たした彼女が声を掛ける。


「おはよ、ショウ」


「ああ、おはよう、ナコ。見違えたね?」


「そう?…ショウも、いつもと雰囲気違う。」


「ああ、この世界に来たときに着ていた服だよ。」


「…そう」


「…。」


ショウは気まずい雰囲気になったことを今更ながら謝ろうと口を開いたがナコが先に言葉を発する。


「ねえ、ショウ?今日はずっと一緒に過ごしてくれる?」


ナコから提案される経験があまりないため、ショウは一瞬考えたがすぐに返事を返す。


「…ああ、良いよ」


「ショウ?腕だして」


「腕?」


ナコに言われるがままにショウが腕をナコのいる方向に水平に出すと真正面から彼女はそれを自分の両腕で抱き、胸元に引き寄せた。そして、上目づかいでショウに言った。


「恋人同士は腕を抱き合って歩くと聞いた」


ナコの突飛な行動といきなり襲いかかってきた柔らかい感触に呆気に取られつつ、絞り出すように声を出す。


「ち、違うよナコ、そんなふうにはしないよ。それにさずがにこれは歩きづらいだろう?」


「そう?でも、もうこれで良い」


「放して・・・」


「最後…」


ナコの小さな呟きに反応し、ショウは言い掛けた言葉を胸に飲み込んだ。そして、彼女の間違いを正すために、改めて、言葉を紡ぐ。


「…腕はこういう風に抱くんだよ」


そうして、ショウはナコを腕からは外してナコの隣に並び、ナコの腕に自分の腕を絡める。


「そうなんだ。…ねえ、ショウ?嬉しい?」


ナコから出たあまりにも素直な言葉に否定を重ねることは出来ず、白状する。


「ああ」


「そっかぁ」


そう言いながらナコは両頬をややつり上げた。


そして、二人は城下に出て、カフェで食事を済ませた後に、ナコの要望で神殿に来ていた。


神殿の正面から見て、一番奥には大きな窓と窓からの光を浴びた女神の石像があった。


草の冠を被り、利発そうな顔でローブを着ている成人した女性が右手の杖を天に掲げるように持っている。


彼女こそはこの星を統べる女神だと言われている。


ショウは「…メイは美化され過ぎだろう。」と思いながら、メイに改めて、今まで支えてくれた感謝とナコの今後の幸せ、ナコの両親の冥福をお願いしている。そこに先に祈りを終えたナコが声を掛けた。


「ショウ、ありがとう」


「なにが?」


「私を救ってくれて」


「ナコ」


「?」


ショウは笑顔を引っ込め真剣な顔でナコに語った。


「僕がこの世界に来て一番嬉しかったのは君を助けられたことだよ、お礼を言うのは僕の方だ。ナコ、本当に生きていてくれてありがとう」


ショウの言葉を聞き、ナコはショウに顔を見せないようにうつむき言葉を発する。


「ショウ…、お願いがある」


「何だい?」


「ショウ、腕をだして」


「また?」


「だして」


「ああ」


ナコはショウの手を掴み、自身の顔に近づける。


「ナコ?」


「ショウ、じっとしていて、お願い」


「…。」


ナコはショウの薬指に口づけた。そして、ショウの腕を抱き、今にも泣きだそうな顔でショウの顔を見る。


「ナコ…」


「ショウ、私と一緒にいて、もう離れないで、お願い」


「…。」


「ここに居たくないなら、私もあなたの世界に連れて行って」


「…。」


「ショウ」


「ナコ、僕と一緒に来るとこの世界には戻れないけど」


「いい」


「僕の世界に来ると言葉が通じなくなるかもしないけど」


「いい」


「僕の世界に来ると君の好物が食べられなくなるけど」


「がまんする」


「…そうか」


「うん」


「そうかではないでしょ、茂在翔」


そして、いつからいたのだのろうかメイが現れて会話に加わった。


「そうですよね、女神様」


ショウはメイがどこかで聞いているという心持ちでいたため、平然と返事をしたが、ナコは声がした後方に振り返り、メイの姿を確認した。


「!?、女神様?」


「そうですよ、ナコ=クライン」


「女神様、ナコを僕の世界に連れて行くことはできるのでしょうか?」


現れてからしているアルカイックスマイルを崩さず、ショウの質問に平然と女神が答える。


「もちろん、出来ませんよ、茂在翔。貴方は私の力でこの世界での魂の器を用意し、この世界に顕在化しています。あなたの世界にはまだ貴方の肉体がありますので、魂を移すことは可能ですが、ナコ=クラインの魂の器はあなたの世界にはありません。あなたの星は私の管轄ではないので、あなたの星でナコ=クラインの魂の器を作ることは私には出来ません」


「そうなのですね」


「理解が早くて助かります、茂在翔」


「ショウ、離れちゃヤダ」


そう言ってナコはショウを放さないよう強く抱きしめる。


「ナコ」


「茂在翔。貴方は昨晩決断しましたよね。あなたの世界に帰ると、私の願いも断って」


「…。」


「あなたの世界の管理者も貴方の帰還を待っています。貴方に選択肢はもうありません。貴方はナコ=クラインを残してこの世界を去ります。」


女神の言葉を聞き、ナコが激昂する。


「だまれ!!!」


「やめろ!!ナコ、僕が全て悪いんだから」


「ショウ」


ナコが興奮していることを知りながら、メイは更に油を注ぐ。


「茂在翔。一つ提案があります。貴方が望めばナコ=クラインの頭の中にある貴方に関する全ての記憶を書き換えることが可能です」


「!?」


「やめろ、ショウを騙すな!!!」


「ナコ=クライン、少し静かにお願いします」


メイはナコに対して、左手の人差し指を唇に垂直に当てながら静かにするように声を掛けた。するとナコは白く淡い光に包まれた。


「うっ、や、め、ろ、…ショ…ウ…」


ナコは淡い光に包まれ、最後の力を引き絞りショウの服を掴むが、糸の切れた人形のようにその場で意識を失った。床に倒れ込みそうなる彼女を慌ててショウは抱き上げる。


「ナコ!?何をしたんだメイ!」


「大丈夫ですよ、茂在君。彼女は寝ているだけです」


ショウはナコを近くにあったイスに座らせる。


「そうか…」


「で、どうしますか?」


ショウは顔を俯け、頭を抱える。


「…ナコは僕の記憶がない方が幸せなのかな?」


「…質問に質問で返すのでどうかと思いますよ、茂在君。そうですね…、彼女も私の可愛い子供のようなものです。思い悩み自ら魂を散らすことは私にとっても惜しいことです。今考えられる方法は二つです。彼女の記憶を書き換え、貴方の存在を消す、つまりは彼女にとっての絶望を与えること。もう一つは貴方がいつかこの世界に戻るという希望を与えること」


ショウは顔を上げ、メイの顔を見る。


「えっ!?」


「まあ、結局は両方共、彼女を騙す方法です」


「…。」


「どうしますか?優しい優しい茂在君。」


「…。」


眠ったナコをショウは背負い、彼女に買い与えた家に入る。

そして、寝室にある備え付けのベットに彼女を寝かしつけ、シーツを掛けてあげた。

最後に彼女の手を握り、「君に会えて、良かったよ。達者でいてくれ」とナコの頭を撫でながら優しい声で別れを告げた。


ショウは気づかなかったがナコの手の中にはショウの服のボタンが握られていた。


面白いと思って頂けたら、嬉しいです。


道 バターを宜しくお願いします。


他にも作品をアップしています。


作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑

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