冒険は終わったがちょっと振り返る
2話からメインヒロインの黒髪女神とのイチャコラ(重要)があるので
そこまで我慢して読んで貰ってから判断頂くと助かります。
冒険は終わった。
女神からの召喚により突然異世界に転送させられ、女神の指示で魔物との死闘を繰り広げ、ついには異世界の平和を取り戻し、英雄になったクラスメイト達が現世に帰還した。
長編ロールプレイングゲームをクリアしたような達成感で現世に戻って来たかというと
…そうではない。
異世界で活躍したスキルを失う代わりに、女神よりこの世界で使用できるギフトを帰還時、全員に配られた。
今、クラスメイト達が貰ったギフトカードを仲良さげに見せ合いながら、異世界での冒険の偉業を称え合っている。
ゲーム以上の達成感があるのだろう。
ある者は知力や体力や精神力の大幅な向上、ある者は虚弱であった身体の体質改善、ある者は異世界に関する歴史書、ある者は女神の生写真の等々、一喜一憂している。
しかも、ギフトの影響か転送前の若さに戻っている。
もちろん、僕もギフトが書かれたカードを女神から渡された。
カードを見る。
…。
もう一度見る。
え?
…何度見ても変わらない、どういうことだなんだよ女神!!!
~~~~~
5年前、ホームルーム中にクラス30名及び教師1名丸ごと、異世界に召喚された。
そして、異世界の女神にスキル与えられ、魔物とその王を討伐する使命を受けた。
突然召喚され、命令されたって「はい!分かりました!!」と居酒屋の店員のようにさわやかに答える者は少ししかいなかった。
そして、クラスは三つに別れた。
1つは女神に従い、懸命に自身を鍛えるもの
1つは女神に従わず、怠惰に過ごすもの
残り1つは、そのどちらにもいい顔をして流れに乗ろうとするもの(最大派閥)
ただ幾度の魔物達との襲撃や戦いを乗り越え、魔王の討伐を旗印にクラスの皆の心は一つにまとまった。
いままさに、魔王に止めを刺す瞬間であった。
その場には3名の生徒がいた。
一人は剣を持ちマントをたなびかせた勇者然とした女子生徒
一人はミケランジェロの彫刻を思わせる驚異的な筋肉を持つ男子生徒
一人は片手に杖持ちローブを纏い目眼を掛けた女子生徒
彼・彼女らは手傷をおってはいたがその瞳は死んではいなかった。
「イサミ、止めは頼む。俺はアイツの注意を引く、…アイツを倒して、家に帰って、必ず妹に会うんだ!」
イサミと呼ばれた女性は魔王の注意を引くと宣言した不動茂呂の言葉を聞き、一つ頷くと、目を閉じ、彼と大洗美保に指示を飛ばす。
「分かった!悪いが次の一撃は気を集中しないと出せない。その間、茂呂、牽制を頼んだぞ。後、美保もバフを頼む」
『りょ』
淡い光が茂呂と勇木イサミを包んだ。
バフ魔法を唱え終えた美保は新たに魔法で魔王に対する向かい風を吹かせて、魔王の視界と行動を制限しようと躍起になっている。
イサミは気を整えた後、両目をカッと開き、美保が発生させた風を慣れた動作で追い風として利用し急速に魔王の側面に近づき、持っていた剣を両手持ちに構え直し、真上に掲げる。
すると剣が雷を纏い目映い光を放った。
魔王は身の危険を感じ、向かい風を利用してその場からの逃走を図るが風は止み、自身の背後には土で出来た強固な壁が出来上がっていることに気付いた。
逃走を諦め、まだ動くもう片方の腕に闘気を纏いイサミに叩きつける為に振りかぶったところを茂呂が捨て身の覚悟で身体の全部を使い、魔王の腕と肩を羽交い締めにし、動きを押さえる。
魔王が怯み、茂呂に視線をやった一瞬の隙を見逃さずイサミは魔王の首をめがけて剣を振り下ろした。
魔王は断末魔を上げ、音を発していたその頭は身体と泣き別れ、床に落ちる前に灰になって脆く崩れた。
一瞬の静寂の後、辺りを包んでいた灰色の靄は薄れていく、陽の光さえ遮っていた靄が消えたことによって、光が激しい戦闘で崩れた城の一部から入り徐々にその光を強くしていく。
イサミによって振り下ろされた剣は床を抉り刺さっていた。
イサミは警戒を緩めず、倒れている茂呂に話しかけた。
「無事?」
「なんとか」
「美保は?敵の気配はある?」
『無事、気配はない』
「そっか…」
美保の言葉を聞き、引き締めていた緊張の糸が切れたかのように尻から膝をつく、イサミ。
「終わったか…」
そして彼女は微笑みながら気を失った。
その後、イサミ達を魔王との戦場に向かわせるために敵兵の妨害を防いでいた他の生徒達も敵兵の撤退に合わせてイサミ達の所に集まり、互いの無事を確かめ合った。
彼・彼女らは道中に護衛できていた女神を信奉し、今回イサミ達を召喚した王国の兵士達に連れられ、王国に凱旋を果たした。
人々は英雄を称え、町は喝采と市民達によるフラワーシャワーで満たされた。
城内に入った生徒らは催事用の装備をした兵士達の人垣で迎えられ、案内された謁見の間では王と王妃とその王子・王女、大臣・宰相・将軍・貴族達全員が立ち上がったまま、英雄達を迎えた。
その後、王の手によって英雄達一人一人に勲章が授与された。
そして、王より召喚時に設置された城の地下の魔法陣が光を放ち始めたとの話を聞いた。
話を終えた面々が次の話題に移ろうとしたとき、辺りを目映い光が包んだ後、高貴な花の香りが辺りに広がった。光が弱くなると同時に光の中心だった場所にある人物が立っていた。
生徒達を召喚した張本人の女神であった。
彼女は黒い瞳に黒髪の長い髪を後ろで括っている。頭の上には月桂冠を被り、背は低く見た目は幼く見えるが上品さと高貴さを漂わせるドレスを着、右手に杖を持ち、他をひれ伏せさせる程の近寄り難さを放っていた。
最初に彼女は頭を下げ、生徒達に謝辞を述べた。
「この度は皆様のお力で魔なるものの王を退治頂き、誠にありがとうございました。そして、誠に大儀でありました」
女神は顔を上げ、さらに続ける。
「お約束通り、あなた様方を元の世界にお返しいたします。また何かとお疲れのようですので、本日はゆっくりとお休み頂き、明日の夕方お帰り頂ければと存じます。その際、お迎えにきますので、こちらでお知り合いになった方々とのお別れもお済ませ下さい」
最後に二コっと微笑み、女神は言いたいことだけ言って、花の香りは残しつつ消えた。
辺りは一時騒然としたが、生徒達が女神の存在を説明し、皆、落ち着きを取り戻した。
その後、王宮主催の凱旋パーティーが盛大に開催された。各国からも魔王軍討伐時に世話になった面々などがいた為、再会と別れを惜しんだ挨拶を交わし、皆々が短い間ながらも濃くて深い話に花を咲かせていた。
なお、本日は国民にも酒と食事が振る舞われるとのことだ。
気っ風と気前が良い国だ。
ちなみに、顔のカッコいいクラスメイトなんかは貴族の娘達に囲まれてデレデレしたり、闇に消えたりしている…そんな様子を端から悔しそうに眺めている陰気な男がいた。
名は茂在翔。
英雄の一人のはずなのに彼の周りには誰も人がいない。
いや…、正確には一人いる。
ナコ=クライン。
ぼやっとした雰囲気と髪に、つぶらな瞳、口元は食事をするとき以外はマフラーのような布を巻いて隠している。そして、口数はとても少ない。ショウの3歳下の少女だ。
彼女はこちらの世界の人間で孤児であった。
彼女の両親は魔物によって殺されていた。
彼女は両親に守られるように床下の香辛料を保管する小さな倉庫に窮屈に押し込められていた。
倉庫内で発見されたとき、彼女は声を漏らさないように両手を重ね口元を押さえ、堅く目を瞑り、身体を小さくしうずくまっていた。
保護した当初、ナコは精神的にも、肉体的にもだいぶ弱っていたが、現在はショウに小言を言う余裕がある位には回復している。
ちなみに、ナコはショウが見つけた。
ショウの力と言うよりは、スキルの力が大きいのだろう。
ショウのスキルは認識阻害というもので、主に、相手の注意を一時的に逸らすために使う。そのため、斥候・偵察をよく任されていた。
そして、スキルにはもう一つの特徴があった。それは相手が隠したいことがある場合に、そのことを【モザイク】という形で認識出来るというものであった。また、モザイクを認識出来た場合、その情報をショウが集中して凝視することで覗き見が出来るという力もあった。
ただ、スキルを授かった際はモザイクってマニアックじゃない?と自分の名字のことは棚上げにし、ショウは一晩悩んだこともあった。ただ、このスキルは使いようによっては便利であった。
ナコに関しても、彼女の魔物から隠れたいという思いを感知して、男女の遺体の下にモザイクが掛かってることをショウが見つけた。
ショウがナコを救出し、彼女の体力が回復して以来、ナコはショウに引っ付いて行動するようになった。
ナコは両親の死、魔物からの殺意、暗くて狭く強烈な香辛料と血のにおいが漂っている空間に押し込められるという恐怖の檻から救い出し、優しい言葉を掛けてくれたショウを最初は特別な存在だと思っていた。
しかし、一緒に行動し、ショウを観察すればする程、ショウにナコが勝手に貼っていた理想像は崩れていった。
ショウは人前でしゃべるのが苦手で、他人から頼みごとをされると断りきれず、綺麗な異性がいれば鼻の下をのばしている。
一言で言えば、頼りない男であった。
ただ、観察を続ける中でショウの何事にも懸命に取り組む姿は見習うべきところがあるとも思った。ショウを知れば知るほど、ナコを探し出す際もたぶん懸命に行動してくれていたのだと容易に想像が出来るようになった。
ナコはショウの治せそうな欠点である部分を指摘すべく、口を開いた。
「ショウ、スケベ」
「いや、待てよ。僕は何もしていないよ。なぜそんなこと言うのさ」
「視線、分かる、スケベ」
「あまりその単語を連呼しないでくれるかな。白い目で周りから見られるよ」
「分かった」
ナコがショウをじぃ~~と聞こえそうな程の視線で見ている。
「視線での非難もやめてくれる。明日で最後なんだからさ、どうせならナコとは明るくお別れをしたい」
その言葉を聞いたナコが目を一瞬見開いた後、ショウに尋ねた。
「ショウ、明日、帰る?」
「ああ」
ショウの言葉を聞き、ショウの服の裾を掴み、頭を少し下げ、表情を隠しながらも感情を隠さないで小さく、短くナコが言う。
「いや」
「…。」
「だめ」
「…。」
「一緒に、いて」
ショウとナコはいつも共にあった。
斥候・偵察もコンビでこなし、スキルはないもののナコの偵察能力はスバ抜けて高かった。
共通の敵である魔王がいなくなった状況では、この国と他の国とが争う可能性もゼロではないのであろう。
ショウはナコが一人でも、この国で偵察として重宝され、十分な生活も出来る位の生計も立てられるはずだと思っている。
ただ、そんな考えとは裏腹にショウの本心はナコと同じ気持ちだった。
だが、ショウにはどうしても気になることがあった。
ショウ達を召還した女神は、スキルを与える際にこのように言った。
「貴方達に与えたスキルは魔物と戦うために私からお貸しできる力の一部です。貴方達が倒すべき相手がいなくなればその力は失われます」
この世界に来るまでは人と話すのも苦手な普通の高校生が借り物の力とはいえ人に自慢が出来る力を持っていた。
ショウにとってスキルを失うことは普通、いや、普通に劣る人間に戻ることを意味する。
今まで行ってきた偵察任務に関しても、着実に力を付けているナコにはスキルなしでは敵わなくなると思われ、対等な関係は気づけないのだろう。
それを思うと、遠くない未来、自分はナコのお荷物になると想像が出来た。
ショウにも小さいながらプライドがある。ナコの負担にはなりたくないという意地があった。
ショウはナコに答えを返すと共にその利発そうな頭を撫でた。
「ナコ、君は一人でも生きていけるよ。僕なんかいなくても」
ナコはショウの言葉を聞くと共に彼女にしては大きな声で叫び、どこかに走り出した。
「ショウのバカ!!」
その言葉をそのままに受け取り、彼女が走り去る背中を見ながら、ショウは呟いた。
「…そうだね。僕はバカだ」
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑