第五話 見つけ出せ! 究極のレアアイテム
この物語は、
史上稀に見る高難度にして
伝説の「クソゲー」として知られる
剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』
を舞台にした、とある探索者たちの
迷宮をめぐる日常を描いた
冒険活劇である。
(五)
「やれやれ。五話目にして、ようやく本題に入ったか。長かったな」
「もう紅茶が冷めちゃったよ。で、キミの依頼内容って?」
「……あ、ごめんなさい、ちょっと待っててください……ねっと」
シクヨロとマルタンに背を向け、自分が持ってきた荷物の中をずっと探っていたアイシアは、ようやく一冊の本を取り出した。それは、なんともおそろしく時代がかった、ぶ厚い古文書だった。
「これ! ここ読んでください」
ボロボロのページを開き、アイシアが指差したところには、そもそもタテ書きかヨコ書きかすら見当もつかない、なんとも奇妙な文字がぎっしりと並んでいた。
「いや読めねえよ」
「読めませんか? 『古の都に集へる幾多数多の戦士どもが求めし魔導の技術と理力ここに在らんと——』」
「なんで読めるんだよ」
「私、王立魔法学術アカデミーの超古代文学部を首席で卒業してるんで」
「すげぇなアンタ! ステータスに『異常に高学歴』ってのも追加だな」
「入れときます」
「で、ようするになにが書いてあるのさ」
「あ、できればなるべくかいつまんでな」
「つまりですね。この古文書には、何千何万年もの昔に存在したとされる、超古代魔術の粋を結集した幻の「護符」の在処が示されているんです」
「護符って、魔法のお守りのことだね」
「はい。この古文書によると、『マカラカラムの護符』と呼ばれるそのアイテムを持ってさえいれば、だれでも、どんな魔法も使いほうだいとされていて」
「へぇー、そんなチートアイテムがあんのかよ! ほぼ無敵じゃねえか」
「そうです! これさえあれば、剣術と魔術の両方に秀でた『ウルトラスーパーハーフエルフ』として、私も晴れて探索者再デビュー! 迷宮で名をはせる有名探索者パーティーからも、勧誘の嵐ってわけですよ」
そう言って、鼻息荒く夢を語るアイシア。その姿に、疑いや不安の心は微塵も感じられない。
「いや、キミがさっき言ってた冒険中の失態はどうするのさ?」
そんなマルタンの言葉に、アイシアは立てた人差し指を左右に振りながら、自信たっぷりに答えた。
「ちっちっち。欠点を補うよりも、むしろ長所を伸ばして成長するタイプなんですよ、私は」
「うん、まあ、そういうのもアリっちゃアリか」
「でしょでしょ? さすが探偵さん、よくわかっていらっしゃる!」
「シクヨロな」
ふたりの会話を、マルタンはすっかり冷め切った紅茶をすすりながら聞いていた。
「まあいいや。ようは、その『マカラカラムの護符』を見つけるのが今回のキミの依頼ってわけね。で、そのアイテムは一体どこにあるんだって?」
アイシアはふたたび古文書をめくり、護符が秘められているとされる場所を探しあてた。
「えーっと。……あ、現在で言うところの『第十三迷宮』、ですね」
「はあ? 第十三迷宮ぅ?」
アイシアの答えを聞いて、驚きの声を上げたマルタンは、シクヨロの袖を引っ張って奥の部屋へと移動していった。
「お、おい、なんだよマルタン」
「なんだよじゃないよ。聞いてたの? 第十三迷宮なんてとんでもないよ!」
説明しよう。
この『ドラゴンファンタジスタ2』の世界には数多くの迷宮、いわゆるダンジョンが存在する。迷宮は、一般的な生活圏とは明確に区別され、探索者たちの冒険の舞台となっている。その形態も洞窟とはかぎらず、山や森、塔、城などさまざま。そして、探索者は自身のレベルに応じて、挑戦することができる迷宮が決められているのだ。レベルを超えた迷宮に入ることも不可能ではないが、むろん生命の保証はない。
なお第十三迷宮は、現在『ドラファン2』に存在する迷宮の中では最難関の部類に入り、生きて還ってくるだけでもかなりの運と実力が必要とされている。
以上、説明終わり。
「まあ、お前さんの言いたいこともわかるけどな。そんだけスゴいアイテムを手に入れたきゃ、それなりの迷宮に挑戦しなきゃなんねえってこったろ」
「そりゃそうだけど……。ていうかさ」
「なんだ?」
「シクヨロは、あの娘の話を信じてるの? そもそも、あの古文書の出処だって怪しくない? もし偽物だったらどうすんのさ」
「そうだなあ……。なあアイシアさんよ、その古文書なんだけど」
テーブルへと戻ってきたシクヨロは、アイシアの抱えている古文書を指差しながらたずねた。
「一体それ、どこで手に入れたんだ?」
「あ、これですか? この本は、私の家の納戸を大掃除してたら、偶然出てきたんですよ」
「そっか」
こんどはシクヨロがマルタンを奥に引っ張っていき、こう言った。
「モノホンだな」
「なんでだよ!」
マルタンは、シクヨロに激しく詰め寄る。
「何千何万年もまえの超古代魔術を記した古文書が、なんで一介のエルフの家の納戸にあるのさ? どう考えてもおかしいだろ?」
「いや、そういうのって意外と身近にあるもんなんだって。まあ少なくとも、あの娘の知識は大したもんだと思うぜ。あんなわけわからん古代文字、読めるヤツなんてそうはいないからな」
「そうかもしれないけど……。でも、第十三迷宮だよ。最難関のダンジョンじゃん」
考え込むマルタンに、シクヨロは笑いかけた。
「だけどよ、冒険の一発目がラスダンって、なんか斬新じゃね?」
「なに言ってんだか」
「なんだなんだ。こともあろうに、レベル四十七を誇る孤高の天才少年魔導師『マルタン・オセロット』様が怖気づいてんのかよ」
「ぼくはべつに怖くないよ」
マルタンは、あっさり言った。
「危ないのはシクヨロでしょ。ふつうに死ぬよ?」
「死ぬ?」
「死ぬね」
「そうか、死ぬか……」
シクヨロはきっかり三秒間考え込むと、ふたたびアイシアのもとに戻って話しかけた。
「あー、わざわざ来てもらって悪いんだけどさ、今回の依頼は——」
そう言いかけたとき、玄関の外側から扉を激しく蹴りつける音と、妙にカン高い声が聞こえてきた。
ドンドンドンドンッ!
「おいコラおっさん! 金返せコノヤロぉぉぉぉーーーー!」
続く