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第二十八話 もしかして、レベルアップの予感?



        この物語は、


     史上稀に見る高難度にして


   伝説の「クソゲー」として知られる


剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』


   を舞台にした、とある探索者たちの


     迷宮をめぐる日常を描いた


       冒険活劇である。



(二十八)



 シクヨロたち探索者パーティーは、ふたたび迷宮内を歩きはじめていた。だが、さきほどまでと大きく異なるのは、彼らがこの地下十三階層の地図(マップ)を手にしていることである。


「あの人、けっきょくなんだったんですかねえ」


 アイシアは、ノームの探索者・グルノォのことを思い出しながら言った。彼の姿は忽然(こつぜん)と消えてしまい、まるでそんな男などはじめからいなかったのでは、という気すらしていた。


「さあな。ヤツの正体も目的もわかんねえし、わかんねえもんは気にしてもしょうがねえだろうがよ」


 それに応えて、シクヨロが言った。彼にとっては、大きなやっかいごとに巻き込まれずにすんだことだけでも、万々歳といった感じである。


「もしかすると、この迷宮の中で(トラップ)にかかって死んだ、探索者の幽霊(ゴースト)かもね。それで、死んだあともそのことに気づかないまま、この地下最下層を何十年も何百年もずーっとさまよいつづけて……」


「こ、怖いこと言うなよ、マルタン! 私は幽霊とかお化けとか、そういう得体の知れないのがいちばん苦手なんだ」


 マルタンの言葉に、デカい図体をしたヴェルチが真顔で震え上がった。百戦錬磨の魔獣騎士(ビーストナイト)が、よりにもよって幽霊を恐れるとは意外である。


「……ちょ、ちょっと離してよ、ヴェルチ! 痛いって、もう」


 ヴェルチはマルタンの背後から抱きつき、豊満なバストの谷間で彼の頭をがっちりホールドした。


「怖いからやだ。私、しばらくこうしてるから」


「……ヴェルチさん、ホントに怖がってます?」


「え? あー、うんうん、怖い怖いコワイヨー」


 ヴェルチは満面の笑みを浮かべ、マルタンの頭に頬を擦りつけながら言った。




「……なるほどな。やっぱり、ここがループしてたってわけか」


 シクヨロが、グルノォから渡された地図(マップ)を見ながらつぶやいた。思っていた通り、転移地帯(ワープゾーン)の魔法が仕掛けられていたのである。このまま、なんのヒントもなく回廊を進みつづけていれば、彼らはおなじところを一生堂々巡りさせられていたことだろう。

 そしてシクヨロは、パーティーにとってさらなる朗報となるであろう一件を、その地図(マップ)の書き付けの中から見つけ出した。


「おい、ここんとこ見てくれよ。コイツはもしかして……」


「うん。これ、たぶん『レベルアップベース』じゃないかな」


 ヴェルチによる強固な両腕の戒めから体をくねらせ、やっとの思いで抜け出したマルタンは、シクヨロの指差した箇所を見て言った。


「レベルアップベース? なんですかそれ?」


 アイシアの疑問に、シクヨロとマルタンが返答した。


「ああ。レベルアップベースってのは、難関ダンジョンにかぎって、いくつか用意されてる施設でな。冒険中に得た経験値を計測して、その都度(つど)レベルアップの判定をしてくれるんだよ」


「この『ドラゴンファンタジスタ2』じゃ、通常だとレベルアップは迷宮の外にいったん出ないとできないからね。うまくいけば、ぼくらもここでレベルアップできるかも」


 レベルアップは、探索者のステータスを上昇させるとともに、迷宮を生き抜くための大きな助けとなる重要なポイントである。


「へえー。私、そんなに便利なものがあるとは知りませんでした。レベル……なんでしたっけ?」


「レベルアップベース、な」


「あ、そうでした。つまり、略して『レベベ』ですね!」


「いや、もうちょっと上手(うま)い略し方あるだろ」


「とにかく、そこに行ってみようじゃないか。シクヨロ、そこは近いのか?」


 ヴェルチに応えて、シクヨロが前方を指差しながら言った。


「おう、物陰に隠れてわかりにくいが、どうやらすぐそこを右に曲がったとこだ」




 シクヨロが指し示したあたりを丹念に調べると、薄暗い回廊の陰に、小さな部屋の入口となっている扉がたしかに見つかった。そこには、これもまたかなり小汚い字でこう書きなぐられていた。



  探索者様歓迎! レベベはこちら



「ほらー、レベベで合ってるじゃないですか」


 シクヨロは、そう言って口を尖らせるアイシアには無反応のまま、だまってその扉を開けた。




 その部屋は、彼らが想像していたよりもかなり狭く、天井も低かった。身長が高いシクヨロやヴェルチにとっては、すこし身をかがめなければ入れないほどだった。そしてその部屋は、ひとことで言えば「汚部屋」であった。


「なんだこりゃ? (きったね)えな。マジで、ここがレベルアップベースなのか?」


 さまざまな本やガラクタ、食い散らかした料理や酒瓶の(たぐい)で、その部屋の中は荒れ放題に荒れていた。難関ダンジョンであるこの第十三迷宮の中に、まさかこれほど生活感にあふれた部屋があるとは、パーティーのだれひとり夢にも思っていなかった。


「……みなさん、見てください! あれ、ベッドじゃないですか?」

 

 アイシアが指し示したところには、一台のベッドが置かれていた。だが、問題はその大きさである。そのベッドもまたかなり小さく、まるで女の子がお気に入りの着せ替え人形をねんねさせるためのサイズほどしかなかった。


「なにこれ。ホントにベッドかな」


「いや、よく見るとなにかいるぞ」


 ベッドには分厚い布団が掛けられていたが、ゆっくりと上下しているのがわかる。


 Zzz…… Zzz…… Zzz……


「ひょっとして、だれか寝てるんじゃないですかね」


 Zzz…… Zzz…… Zzz……


 それは、まぎれもなく人間の寝息である。好奇心を抑えられないアイシアは、小さなベッドの脇に近づくと、布団の端をそおっとめくり上げた。


「お、おい」


 あまりにも無遠慮なアイシアの行動に、思わず声が出たシクヨロ。だが、そのベッドで寝ている人物に、だれよりも興味があったことも事実だった。


「このちっちゃい人……もしかして、妖精さんですか?」


「ああ、そうみたいだな。寝てるとこははじめて見たが」


 小さなベッドの中で気持ちよく寝息を立てていたのは、これまた小さい少女の姿をした妖精(フェアリー)だった。剣と魔法のファンタジーRPGである『ドラゴンファンタジスタ2』でさえ、精霊の一種である妖精(フェアリー)の姿を見られる機会は、それほど多いとは言えない。


(おはようございまーす。妖精さーん、朝ですよー)


 アイシアは妖精の耳元に顔を近づけ、まるで寝起きドッキリの突撃リポーターのごとく息をひそめるような口ぶりで、妖精に声をかけた。その反応を、シクヨロたちは固唾を()んで見守った。


「……ん、んう〜ん……」


「あ、起きましたよ?」


 妖精は目を開けると、ゆっくりと体を起こして大きく伸びをした。


「ふぁ〜あ。……んあ、アンタたち、いったいだれ?」


 アイシアやシクヨロたちに気づいた妖精が、眠たい目をこすりながらたずねた。


「いや、おまえこそだれだよ」


「シクヨロっ! ……あ、ぼくたち、探索者なんですけど」


 乱暴な口調のシクヨロをとがめつつ、マルタンが妖精に一応敬意を払って返事をした。すると妖精は、自分の任務を思い出したかのように、ベッドから飛び起きた。


「えっ! なんだもーやだ、マジ?」


 妖精は独り言をつぶやきながら、手鏡を使って大あわてで自分の姿を確認すると、シクヨロたちの方に振り返った。


「(……こほん)ようこそ、探索者のみなさん。私はレベリル。この第十三迷宮のレベルアップベース、略してレベベの専属妖精(フェアリー)よ」


 その妖精は、背中に生えた羽を広げながら、得意げに名乗った。


「……あのー、やっぱり、レベベでいいんですよね。ねえ?」




続く


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