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第二十六話 道に迷って、どうすりゃいいのさ?



        この物語は、


     史上稀に見る高難度にして


   伝説の「クソゲー」として知られる


剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』


   を舞台にした、とある探索者たちの


     迷宮をめぐる日常を描いた


       冒険活劇である。



(二十六)



「さて、探索者諸君! 今回は、『技』の試練を無事クリアしたわけだが」


 シクヨロはタバコに火をつけながら、パーティーメンバーに話しかけた。彼らは小休止と態勢立て直しのため、周囲の安全を確認しつつ、試練の部屋を出た先のあたりにミニキャンプを張ることにしたのだった。


「みんな、ぶっちゃけどうだったよ?」


 先ほどクリアしたばかりの「技」の試練の感想を聞かれ、若干言葉に詰まるマルタンとヴェルチ。


「うーん、そうだなあ……。ぼくは、とくに苦労したとかじゃないけど……」


 マルタンはヴェルチの顔をチラッと見て、深いため息をついた。


「私も、まあそんなには。どうだった、と聞かれると……どうだったかなあ」


 ヴェルチはアイシアの顔をチラッと見て、微妙な表情になった。


 斑山猫(オセロット)に変身してネコ好きのヴェルチの弱点を突いたマルタンと、肉料理をエサにして食いしん坊のアイシアを攻略したヴェルチ。だが、どう考えても「技」をまったく駆使していないだけに、ふたりとも今回の試練のあり方になにか釈然としないものを感じていた。


「あのー、私、楽勝でした! やっぱりシクヨロさん、弱すぎでしたよ?」


 いちおう、シクヨロの影法師(ドッペルゲンガー)を唯一、正攻法で倒したアイシア。だが胸を張ってそう主張する彼女に、マルタンやヴェルチだけでなく、シクヨロまでもが「当然だろ駄エルフ」って感じの冷めた視線を送った。


「そういえば、シクヨロはいったいどうやってマルタンの影法師(ドッペルゲンガー)を倒したんだ?」


 そんな疑問を投げかけたヴェルチに、アイシアが言葉をつづけた。


「あ、それ私も気になりました。だってほら、本物のシクヨロさんはレベルがちょっとアレじゃないですか?」


「そうなんだよ。シクヨロのレベル、かなーりアレだからなあ」


「お前らなあ。人のことをアレアレって言うなよ」


 そんな三人の会話を聞きながら静かに考えていたマルタンが、そのときなにかを思いついたように叫んだ。


「あっ! もしかして、アレ使っただろ! もぉーっ、アレはやめてって言ったじゃん!」


「アレ?」


「マルタンさん、アレってなんですか?」


「ああ、それはな、ネ……」


「わあああああああああ!」


 シクヨロの言葉をさえぎるように、マルタンがあわてて大声を上げた。プライドの高いマルタンにとって、仲間たちに「ネズミ嫌い」という情けない弱点を知られることだけは、どうやら全力で回避したいようである。


「ネ?」


「ネ?」


「まあ、これは本人の名誉のために黙っとこうか。……よし。じゃ、そろそろ行くぞ」


 シクヨロは足元でタバコをもみ消しながら、自分の荷物を背負った。


「ネってなんですかね」


「ネコじゃないよなあ」


 まだちょっと気になっているアイシアとヴェルチから、ひとり離れて歩き出したマルタンは、両手で自分の耳を押さえながら言った。


「あーあーあー! なーんにも聞こえませーん!」




 シクヨロたち探索者パーティーは、第十三迷宮の最下層エリアである地下十三階の探索を続けていた。目下のところ、めざすは「心・技・体」のうちの最後の試練である「体」の試練なわけだったが……。


「おい、こりゃあちょっとおかしいぜ」


 最後尾を歩いていたシクヨロが、パーティーメンバーたちに声をかけた。


「どうしたんだ? シクヨロ」


 先頭のヴェルチが足を止め、振り返った。先ほどの「技」の試練の部屋から、かれこれ数十分は歩きつづけていた。


「なにかあったんですか?」


 おなじく反応したアイシアも、若干表情を堅くした。


「いや、じつはこの階層(フロア)の構造をずっとメモしながら歩いてたんだけどよ」


「なんだ、ちゃんと地図作成(マッピング)してたの? やるじゃんシクヨロ」


 迷宮探偵らしいシクヨロの働きに、マルタンがいつになく賞賛の声を上げた。


「だから、オレは頭脳労働担当だって言ったろ? まあそれはそうと」


 シクヨロは、手帳の書き込みを見せながら説明をはじめた。


「この第十三迷宮はよお、各階層(フロア)が縦十六✕横十六のブロックに分かれてる、正方形ダンジョンのはずなんだけどよ」


「うむ、確かにそうだったな」


 シクヨロの言葉に、うなずくヴェルチ。


「だが見てくれよ、これ。どうみても四角くねえぜ」


「ああ、ホントですね! これでは、どうやってもつじつまが合いません」


 手帳の書きつけを見ながら、アイシアが言った。これまでこの階層(フロア)を歩んできた彼らの軌跡は、なんとも言いようのないほどぐちゃぐちゃに蛇行しており、方眼紙状のページから飛び出さんばかりだった。


「ひょっとしてこれ、転移(ワープ)してるんじゃない? ほら、ここんとこ」


「マルタン、ワープってなんだい?」


 マルタンの言葉に、ヴェルチは興味を持って聞き返した。


「迷宮内のトラップのひとつで、探索者を惑わせる魔法の仕掛け(ギミック)さ。探索者に気づかれないように進行方向を変えたり、別の地点同士をくっつけたりして迷わせようとしてるんだ」


「ほう、そいつはかなり厄介(やっかい)だな」


「イジワルですねえ」


「となると、このまま歩いてても、つぎの試練には一生たどりつけそうもねえな。アイシア、古文書にはもうヒントは載ってないのか?」


「それが、さっきの『技』の試練についてはあんなに記述が多かったのに、『体』の試練のことはほんのこれっぽっちも書かれてないんですよ」


「なんだ、ずいぶん不親切な攻略本だな」


「だから、攻略本じゃないんだって」


「しかし、どうする? このままだと、(らち)が明かないぞ」


「わたし、なんだか小腹が空いてきちゃいました」


 前に進む気力を失ったシクヨロたちは、その場に立ち尽くしつつ、前後に果てしなくつづく回廊を見回していた。回廊の壁はきわめて単純な作りで、眺めているうちに自分たちの存在そのものがあやふやになっていくような奇妙な気持ちになった。それはまるで、同じ文字をずっと見つめ続けていると、その言葉の意味がわからなくなってくるという、あの現象(えーっと、たしかゲシュタルト崩壊、だったっけ?)を思い起こさせた。


「とりあえずマルタン、座標感知魔法を……」


 シクヨロが、そう言いかけたそのときだった。四人の前に、気がつくとなにやら怪しい人影が現れたのだ。


「だれだっ!」


 危険を察知し、いち早く斧槍(アヴァランチ)を構えたヴェルチ。だが彼女は直感で、目の前の人影がモンスターではないと気づいていた。


「ほーう、この階層で探索者とはめずらしい。……いや、ここでだれかと出会うのは、はじめてだったかもしれないな」


 その人影は、そう言って静かに笑った。




続く



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