第二十五話 対マン勝負! 技を駆使してバトれ
この物語は、
史上稀に見る高難度にして
伝説の「クソゲー」として知られる
剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』
を舞台にした、とある探索者たちの
迷宮をめぐる日常を描いた
冒険活劇である。
(二十五)
※この章は、アドベンチャーゲームブック方式となっております。指示に従ってパラグラフの番号を選択して読み進めていき、四人の探索者と影法師との対決をすべて勝利に導いてください。
【一】
シクヨロたち四人の探索者はいま、「技」の試練に挑戦すべく、それぞれが仲間たちの姿にそっくりな影法師と向き合っている。この部屋を脱出するためには、全員が目の前の影法師を倒さねばならない。
・マルタンが偽ヴェルチと戦う … 【四】へ
・ヴェルチが偽アイシアと戦う … 【六】へ
・アイシアが偽シクヨロと戦う … 【十】へ
・シクヨロが偽マルタンと戦う … 【十五】へ
・すべての戦いに勝利したとき … 【二十】へ
【二】
「あれれー? いったいどこへ行くのさ、シクヨロ」
後ろを振り向いたシクヨロは、この部屋の出口を探そうとして壁面を調べはじめた。しかし、石とも鉄ともつかぬ未知の材質でできたこの部屋の壁面には、アリの這い出る隙間も見当たらない。
(……ちくしょう、万事休すか)
「心配しなくても、猛毒魔法で即死させてあげるよ。ま、ちょっとは苦しむだろうけど」
つぎの瞬間、シクヨロの目に飛び込んできたのは、魔法の杖から放たれる光だった。 … 【十四】へ
【三】
ウサギを全力で仕留めるライオンのごとく、ヴェルチは渾身の力を込めて斧槍を振るった。その攻撃に立ち向かうことなど、いかなる戦士であろうともできるはずはない。……おそらく、通常であれば。
「なにっ?」
しかしなぜか、ヴェルチの斧槍は手応えなく空を切った。よく見ると、偽アイシアは意味もなくその場ですっ転んでいる。あまりのことに、ただただ呆れるヴェルチ。だがつぎの瞬間、偽アイシアはヴェルチの懐に飛び込んでいた。
「あー、ヴェルチさん! いま、私のことドジな駄エルフって思ったでしょ? おあいにくさまです♪」
それは実力なのか、たんなる偶然か。偽アイシアは余裕たっぷりに背中の太刀「断魂」を抜き、刀身をヴェルチの首筋に当てた。 … 【十四】へ
【四】
少年魔導師・マルタンの前には、魔獣騎士・ヴェルチの影法師が立ちはだかっている。偽物であることはもちろんマルタンもわかっているが、それにしてもヴェルチにそっくりだ。薔薇の紋章の入ったフルプレートの甲冑に真紅のマント、手には彼女の代名詞とも言える斧槍「アヴァランチ」を携えている。偽ヴェルチは、戦闘態勢をとりながら言った。
「さて、マルタン。キミの魔法の詠唱は、私の斧槍よりも速いかな?」
「それじゃ、試してみる? ヴェルチ」
・「火球魔法」を唱える … 【八】へ
・「核撃魔法」を唱える … 【十一】へ
・「高速魔法」を唱える … 【十八】へ
【五】
「かっ、かっ、かっかっかかかか……」
マルタンが斑山猫の姿に変身すると、偽ヴェルチの目の色が変わった。
「かわゆいぃぃぃぃーーーーん! わたしのネコちゃぁぁぁぁーーーーん!」
偽ヴェルチは、持っていた斧槍を投げ捨て、斑山猫姿のマルタンに抱きつこうとして飛びかかってきた。マルタンはすばやく身を翻すと、壁を蹴って高く飛び上がる。そして、そのまま偽ヴェルチの背後に回り、首筋に牙を立てた。
がぶ
勝負は一瞬だった。その場に倒れこんだ偽ヴェルチに、元の少年の姿に戻ったマルタンが、口元を拭いながら言った。
「ふう……。できれば、魔法で勝負したかったけどね」
マルタンは勝利した! 【一】へ戻り、ほかの者の対決へ進め
【六】
元・王国魔獣騎士団『薔薇の牙』の魔獣騎士・ヴェルチは、和風ハーフエルフの剣士・アイシアの影法師と対峙している。そう言えば、この冒険の中でアイシアが剣の腕前を見せたことは、まだ一度もない。偽物のアイシアは、背中に差した太刀「断魂」をスラリと抜いた。
「ふふっ、ヴェルチさん。私にだったら、カンタンに勝てるとか思ってません?」
「カンタンとは思ってないよ。どんな相手でも、騎士は常に全力勝負さ」
・自慢の斧槍を、力の限り振り回す … 【三】へ
・甲冑を排除して「狂戦士」化する … 【十二】へ
・持ち物を探って、使えそうなアイテムを調べる … 【十七】へ
【七】
「えいっ!」
覚悟を決めたアイシアは、太刀を構えてそのまままっすぐ偽シクヨロに向かって斬りかかった。
「ぐあっ!」
すると偽シクヨロは、なんの抵抗をすることもなくあっさりと倒れた。三十年ものあいだ、スライムのような雑魚モンスターを狩りつづけてきたアイシアにとって、偽シクヨロはどのモンスターよりも弱かった。
「よくやったな……。お前の、勝ちだ。……ぐふっ」
「……えっ? もう終わり、ですか?」
正直、今後の冒険の先行きが逆に不安になってきたアイシアだった。
アイシアは勝利した! 【一】へ戻り、ほかの者の対決へ進め
【八】
マルタンは「火球魔法」の呪文の詠唱をはじめようと、魔法の杖「ジンジャー」を構えた。だがそのとき、目にも留まらぬ速さで偽ヴェルチが斧槍を水平に振るったのだ。あっけなく真っぷたつにされてしまうジンジャー。
「う、うそだろ?」
「やはり、私のほうが数段速かったな。マルタン」
呆然と立ちつくす少年に、斧槍の切っ先が振り下ろされた。 … 【十四】へ
【九】
「あっ!」
不意をついたシクヨロは、あさっての方向を指差しながら大声を上げた。正直、いくらなんでもこんな古典的な方法に引っかかるわけないと内心思いながらも、マルタンを見ると
「えっ? なになに?」
なぜか、めっちゃ引っかかってるマルタン。視線が横を向いたままのマルタンの手から、シクヨロはまんまと魔法の杖をひったくった。
「へへっ、チョロすぎだなマルタン」
ジンジャーを手に入れ、ご満悦のシクヨロ。だがマルタンは、そんな彼を見てもなぜか平然としている。
「あ、それ注意したほうがいいよ。ジンジャーはぼく以外が持つと」
「んあ?」
ピピピピピピピピピ……
シクヨロが手にしていたジンジャーが、なにやら奇妙な電子音を発した。そしてつぎの瞬間、凄まじい電撃がシクヨロを襲った。
ババババババチッッッッ!
シクヨロは、ジンジャーを手に持ったまま黒焦げになった。
「あまいね。だから言ったでしょ? お・じ・さ・ん」 … 【十四】へ
【十】
和風ハーフエルフの剣士・アイシアの目の前には、これまで苦難をともにしてきたアラサー男・シクヨロが立っている。ダークスーツにヨレたネクタイ、革靴にフェドーラ帽で「迷宮探偵」を気取っているが、もちろんこれは影法師。偽物だ。
「さあ、アイシア。どっからでもかかってきな! オレはこう見えて、わりかし強えぞ」
偽シクヨロはボクシングのファイティングポーズをとり、シュシュっと拳を振るってみせた。
「……えーっと、いちおう、本気でやっていいんですよね?」
・背中の太刀「断魂」を抜き、馬鹿正直に斬りかかる … 【七】へ
・戦いを避け、なんとか話し合いで解決できないか試す … 【十六】へ
【十一】
マルタンは、「核撃魔法」の詠唱をはじめた。偽ヴェルチが、いかなる耐久力を持っていたとしても関係ない。目の前の敵を軽く消し炭にできる、上級魔導師のみが放つ最高レベルの呪文だ。マルタンが構えた魔法の杖に魔力が集まり、まばゆく光輝きはじめる。
「……あれ?」
だが、ジンジャーは突如としてその動きを停止した。動揺するマルタンは、やがてひとつの結論に至った。
「まさか……魔法力切れ?」
なんということだろう! これまでに結界魔法を使いすぎたマルタンは、核撃魔法を使うための魔法力が足りなくなっていることに気づいていなかった。マルタンの魔法失敗を悟った偽ヴェルチは、悠々と斧槍を振りかぶる。
「魔法力の管理を怠るとは、熟練魔導師のくせに抜かったなマルタン」
それが、マルタンがこの世で最期に聞いた台詞だった。 … 【十四】へ
【十二】
ヴェルチは「狂戦士の怒り」の使用を選択した。虎の半獣人としての野生の力を、最大限に発揮できる変身術だ。さきほども、三体もの上級魔神を、まとめて退治した驚異の必殺技である。
「ウオリャアアアアッ!」
ヴェルチが叫び声を上げると同時に、彼女の甲冑がすべて弾け飛んだ。四方八方に飛び散る甲冑を避けようとして、偽アイシアはとっさに愛剣「断魂」を振り回した。
「きゃっ!」
すると、ヴェルチの胸当てが太刀の刀身に当たり、驚いたことにそのまままっすぐ跳ね返ってきたのだ。
「ぐあっ!」
なんと、胸当ては狂戦士化したヴェルチの額にカウンターヒット。そのままヴェルチは、後ろにのけぞって倒れた。
「ヴェルチさん? ……えっと、あのお、私の勝ちでいいですか?」
すっぽんぽんのまま気絶したヴェルチに、偽アイシアは申し訳なさそうに言った。 … 【十四】へ
【十三】
「あーマルタン、悪いな。先にちょっと謝っとく」
そう言いながら、シクヨロは懐に手を入れた。
「は? なんのこと?」
訝しがる偽マルタンの目の前に、シクヨロはなにかをぶら下げて見せた。それは、あらかじめ迷宮の隅で捕まえていた一匹のネズミだった。
チュッ♪
尻尾を掴まれ、じたばたと暴れながら、そのネズミは小さい声で鳴いた。 … 【十九】へ
【十四】
残念ながら、この探索者は影法師に倒されてしまった! シクヨロたちの冒険は、ここで終わる。もし、まだ立ち上がる気力があるなら、もういちど【一】からやり直したまえ。
【十五】
迷宮探偵・シクヨロは、探偵社の相棒でもある十二歳の少年魔導師・マルタンの影法師と向かい合っている。シクヨロの、探索者(商売人)としてのレベルは三。一方、マルタンの魔導師レベルは四十七の熟練クラスであり、その差は歴然である。偽マルタンは、ため息まじりに言った。
「あのさあ、シクヨロ。ミスマッチにもほどがあるよ。武器も持たずに、どう考えてもぼくには勝てっこないでしょ。死ぬつもりなの?」
「そうかな、マルタン。勝負は下駄を履くまでわかんねえぜ?」
・そう言うが早いか、百八十度向きを変えてダッシュで逃げる … 【二】へ
・マルタンの気をそらし、彼が手にしている魔法の杖を分捕る … 【九】へ
・懐を探り、なにか使えそうなアイテムがあるか調べてみる … 【十三】へ
【十六】
「あのー、影法師さん。私、提案があるんですけど」
アイシアは、偽シクヨロに向かって話しかけた。
「なんだよ」
「ここで命がけで戦っても、お互いのためにならないと思うんですよね。ここはひとつ、引き分けってことにしませんか?」
「ああん? 引き分けだと?」
「はい。私をこの部屋から無事に出してくれれば、こっちも危害を加えませんから。ウィンウィンで行きましょうよ」
「ウィンウィンか。んー、まあ悪くねえな」
アイシアの提案を、偽シクヨロはあっさりと呑んだ。
「よかった! じゃあ」
アイシアは太刀を背中にしまい、右手を差し出した。偽シクヨロは、微笑みながらその手を握り返す。しかし偽シクヨロは、アイシアの手を握ったままひねり上げ、彼女をその場に押さえつけた。
「きゃっ、痛い! なにするんですか!」
「残念だけどよぉ、オレも仕事なんだよ」
そう言うと、偽シクヨロは懐から一本のナイフを取り出し、アイシアの眼前にかざして見せた。
「ウソ……。丸腰だって言ってたのに」 … 【十四】へ
【十七】
ヴェルチは腰に下げた荷物入れの中から、なにかの包みを取りだした。
「ほうら、アイシア。美味しいお肉だよー」
それは、さきほどのガーゴイルが作った肉料理だった。ヴェルチは、食べずにとっておいたその肉を、偽アイシアの眼前に放り投げた。
「うー、がるるる!」
肉を目にした偽アイシアは、四つんばいになって駆け寄ってきた。そしてしばらく、くんくんと丹念に匂いを嗅いで安全を確認すると、その肉をムシャムシャ食べだした。
「ハフハフハフハフハフハフ」
「おお、腹減ってたか。よーしよしよしよし」
ヴェルチはそう言いながら、おいしそうに肉を頬張る偽アイシアの頭をなでた。
「くぅーん♥」
「アイシア……。なんかやばいぞ、キミの影法師」
ヴェルチは勝利した! 【一】へ戻り、ほかの者の対決へ進め
【十八】
比較的、初歩の魔法である「高速魔法」の呪文を唱えたマルタン。一時的ではあるが、身体能力で大きなアドバンテージを持つ偽ヴェルチにも、十分対抗できる素早さを手に入れたのである。偽ヴェルチは、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「マルタン、まさかスピードアップだけで私に勝てると思うなよ?」
だが、マルタンにはもうひとつの作戦があった。
「これ、あんまりやりたくないんだけど……」
そう言いながら、マルタンはつぎの瞬間、斑山猫の姿へと変身したのだった。 … 【五】へ
【十九】
「うわああああああああ! ネズミいやああああああああ!」
ネズミを見た偽マルタンが、大声で泣き叫んだ。いつもはクールで生意気な熟練魔導師のはずだが、明らかに錯乱している。
「ほおれ、お友達だぞマルタン」
シクヨロはそう言って、ネズミを偽マルタンに向かって放り投げた。ネズミは、偽マルタンの顔にダイレクトに張りついた。
「ひゅーーーー」
ネズミの抱擁を顔面に受けた偽マルタンは、その場で直立不動のまま気を失った。シクヨロは、そんな彼を憐れむように言った。
「マルタン。おまえは赤ん坊のころ、寝ているときにネズミに耳を噛られて、それ以来ネズミが大の苦手なんだったよな。まあ、オレを恨むなよ」
シクヨロは勝利した! 【一】へ戻り、ほかの者の対決へ進め
【二十】
シクヨロたち四人の探索者たちは、見事に「技」の試練を乗り越えた。倒れた影法師らの姿はいつの間にか消え去り、同時にこの部屋を四つに隔てていた壁が再び元に戻って、彼らはお互いの無事を確認することができた。
「おい、そこのお前。ちゃんと解いたか? ズルしてないだろうな」
「シクヨロさん、だれに向かって言ってるんですか?」
続く




