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第二十四話 敵はまさかの…? 鏡の奥に映る影



        この物語は、


     史上稀に見る高難度にして


   伝説の「クソゲー」として知られる


剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』


   を舞台にした、とある探索者たちの


     迷宮をめぐる日常を描いた


       冒険活劇である。



(二十四)



「な、それマジかよアイシア!」


「攻略法って、どういうこと?」


 アイシアの思いがけないひと言に、驚きの声を上げるシクヨロとマルタン。


「じつは、この古文書なんですけどね。さっき気がついたんですけど、ほら、このちょっとだけ分厚くなってるページ」


 そう言いながら、アイシアは手にした古文書のページをめくり、その部分をつまんで見せた。


「よく見るとこれ『袋とじ』になってるんですよ!」


「ホントだー!」


「やっぱりこの古文書、攻略本なんじゃねえのか?」


「で、その中にはいったいなにが書いてあるんだ?」


 さらに、ヴェルチも首を突っ込んできた。


「あ、ちょっと待って。いま結界を張るから」


 マルタンは、彷徨う(ワンダリング)魔物(モンスター)とのエンカウントを避けるため、再び結界魔法を張った。


「よし、これで三十分は大丈夫っと」


「それで? その袋とじの中身はなんだったんだよ」


 待ちきれないとばかりに詰め寄るシクヨロ。


「あ、はい。つぎの『技』の試練の具体的な内容なんです。これ、わりとわかりやすい文章で書かれてたんで、私にもバッチリ解読できました!」


「やったね、アイシア! 試練の中身があらかじめわかっていれば、対策も立てられるじゃん。それで、どんな内容なの?」


「それがですねー」


 こうして、シクヨロたち探索者パーティーの緊急作戦会議がはじまった——




(この間、およそ三十分)




 ——作戦タイム終了。


「……というわけで、みなさん大丈夫ですか?」


「うむ、私は問題ない」


「えー? ちょっとぉ、ホントにそれで行けんのー?」


「オレもオッケーだ。自信がある」


シクヨロ(おじさん)が一番心配なんだけど」


「任せとけって」


「それじゃ、行くぞ」


 最後までぶつぶつ言っているマルタンを尻目に、先頭のヴェルチが扉を開けた。




 彼らが部屋の中に入ると同時に明かりが灯り、その室内を隅々まで照らし出した。

 それは、角のない真円形の部屋だった。そして、ちょうど東西南北にあたる四方の壁面それぞれに、等身大ほどの鏡が置かれていた。これは、アイシアが解読した古文書の内容と一致していた。


「あっ、扉が……」


 部屋の中を見回していたアイシアが振り向くと、不思議なことに彼らが入ってきた扉が跡形もなく消えていた。


「どうやら、試練をクリアしないとここから出られねえってことだろうな」


「そうですね。……じゃあみなさん、先ほどの作戦のとおりにお願いします」


 アイシアの声に、マルタンやヴェルチが応える。


「うん」


「ああ、わかった」


 彼らは、各々が鏡の前に立った。するとどこかでカーン、という鐘のような音が鳴ったように感じた。


「来るぜ、みんな」


 シクヨロたちは、目の前の鏡に映った自分の姿を見つめていた。その表情が一瞬曇ったように見えた次の瞬間、まさにその自分自身が、鏡の奥の方からゆっくりとこちら側に歩いてきたのである。


「来たぞ!」


「ホントだ! これが……」


 鏡の中から現れたのは、彼らとまったく同じ姿形、同じ装備の探索者たちであった。


(うう……)


 アイシアは、自分と同じ顔をした人物が目の前に現れるという、とんでもなく不気味な状況に対して、走って逃げ出したいような恐怖心を抱いた。

 そして、地響きのような音がしたかと思うと、薄暗い天井から十字に仕切られた鋼鉄製の分厚い壁がゆっくりと降りてきたのだ。その壁が、円形のこの部屋にある四枚の鏡と四人の探索者を、四分の一ずつに区切ろうとしていることは明白だった。


「よし、いまだ! 動けっ!」


 壁が部屋の中に降りきろうとする直前、シクヨロが掛け声をかけた。すると彼らはそれぞれ、鏡に向かって右側へと移動したのである。これが、シクヨロたちの考え出した「技」の試練の攻略法であった——




影法師(ドッペルゲンガー)?」


「はい。部屋の中に、探索者の人数と同じ枚数の鏡があるんですよ。その中から、自分自身の影法師(ドッペルゲンガー)が出てきて、襲いかかってくるんだそうです」


 アイシアは、古文書の袋とじを解読した「技」の試練の内容を語りはじめた。


「その影法師(ドッペルゲンガー)は、見た目も思考回路もまったく同じ。攻撃力や防御力、使う武器や魔法の力も同等って書かれてます」


「つまり、早い話が同キャラ対戦ってわけだね」


「そいつらと私たちは、まったく同じ能力なのか? それじゃ、勝てる見込みは五分五分っていうわけか」


「あ、あくまで『技』の試練なので、同じなのは攻撃力や防御力のパラメーターだけみたいですね。体力とかは皆無なので、先に一撃入れたら勝ちってことで」


「まあ、向こうは間違いなく、私たちを殺しにかかってくるだろうがな」


 いくら歴戦の勇士といえど、これまでに自分自身と戦ったことなどあるはずもない。魔獣騎士ビーストナイトのヴェルチにとっても、この対決はかなりむずかしい勝負のように思えた。


「……なあ、アイシア」


 アイシアの話をだまって聞きながら、考えを巡らせていたシクヨロだったが、突如なにかを思いついたように言った。


影法師(ドッペルゲンガー)とは、それぞれが一対一で戦うことになるんだよな?」


「はい、そうですね」


「だったら、オレにいい考えがある。影法師(ドッペルゲンガー)が出てきたときにだな……」




 いま、「技」の試練の部屋は、鋼鉄の壁によって四つに区切られている。シクヨロら探索者たちは、それぞれが偽物である一体の影法師(ドッペルゲンガー)と向き合っているが、それは当初出現した自分自身と同じ影法師(ドッペルゲンガー)ではない。壁によって閉ざされる瞬間に、探索者だけがひとつ右にずれたため、


 シクヨロ(本物) 対 マルタン(偽物)

 マルタン(本物) 対 ヴェルチ(偽物)

 ヴェルチ(本物) 対 アイシア(偽物)

 アイシア(本物) 対 シクヨロ(偽物)


となっていた。


「よし、予定通りだな」


 この組み合わせを決めた当人であるシクヨロが、壁の向こうにいるマルタン、ヴェルチ、アイシアに声をかける。


「さぁてと。お前ら、みんな負けんなよ!」


「そっちこそ」


「ま、ちょろいな」


「が、がんばります!」


 こうして、ふたつ目となる「技」の試練がはじまった。




続く



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