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第十八話 戦闘後のお約束・スゴいのあった?



        この物語は、


     史上稀に見る高難度にして


   伝説の「クソゲー」として知られる


剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』


   を舞台にした、とある探索者たちの


     迷宮をめぐる日常を描いた


       冒険活劇である。



(十八)



「それにしても、すさまじい強さですね、ヴェルチさん! 私、感動しちゃいました!」


「へへ、よせやいアイシア。照れるじゃないか」


 アイシアの賞賛の声を、素直に受け止めるヴェルチ。彼女は「狂戦士(バーサーカー)」化のために排除(パージ)した甲冑(アーマー)やマントを、ふたたび身につけはじめた。同時に吹き飛んだ衣服も、とくに傷んだ様子はない。よくよく見ると、どうやらあらかじめすぐに着脱できるような仕組みになっていたようだ。ちなみに、ヴェルチは「履かない」主義らしい。


「どうやら、キミはしょっちゅう脱衣してるようだね。人前で裸になるの、恥ずかしくない?」


「脱衣じゃなくて、装甲排除(アーマーパージ)だからな。ていうかマルタン、人を露出狂みたいに言うんじゃない」


「まあまあ。おかげで助かったぜ。なんせ、上級魔神(グレーターデーモン)は強敵だからよ」


 ふたりの言い合いを、シクヨロがなだめた、どうも、このふたりは性格的にあまり相性がよくないらしい(マルタンが斑山猫(オセロット)化していない状態のときはとくに)。


「そうですよ。獣人化してあんなに強くなれるんなら、もう四六時中(ふだんから)ずっとあのままでいていただいてもいいくらいです」


「そういうわけにはいかないだろ。私的には、あれでけっこう体力も消耗するしな」


「あ、そうなんですか?」


「それによ、獣人化中は攻撃力と機動力に全振りしてるから、武器や魔法も使えなくなっちまうし。先制攻撃で相手を倒しきれないと、わりとあっさりやられることもあるんだからな。なあ、ヴェルチ」


「まあ、そういうこともある……かな」


 シクヨロの言葉に、目をそらすようにして答えるヴェルチ。どうやら、以前シクヨロに命を助けられたというのは、そのあたりが関係しているのかもしれない。


「それにしてもさ」


 ふたたび魔法の杖・ジンジャーに足をかけてふわふわと浮遊しながら、マルタンが言った。


「この、モンスターの死体がずっと残るのって、キモいよね」


「こういうとこ、妙にリアルなんだよな『ドラファン2』は」


 三体の上級魔神(グレーターデーモン)の、凄惨な亡骸(むくろ)を見下ろしながら、シクヨロがつぶやいた。モンスターとはいえ、人間型をしているのが余計に生々しく、とにかく不気味だった。




「……で、だれがやるんだ?」


「やるって、なにをですか?」


「そりゃもちろん、『死体漁り』に決まってるだろ」


「ええっ! なんでそんなことを?」


 シクヨロの思いがけない言葉に、驚くアイシア。だが、つづけてヴェルチが言った。


「いや、そうしないと、金もアイテムも手に入らないじゃないか。そんなの、戦闘(バトル)が終わったあとの常識だろう?」


「はあ、そうだったんですか……。そういうのって、どこからともなく自然と入手できてるものと、いままで漠然(ばくぜん)と思ってました」


 どうやら、アイシアがいままで参加した探索者パーティーでは、そういった役回りが彼女に任せられることは皆無だったようだ。まあアイシアの性格的に、無理もないことだろうが。


「そういうわけだ。私はさっきの戦闘(バトル)でちゃんと働いたんだから、あとは頼んだぞ」


「あ、ぼくはやだよ。キモいから」


「私もイヤです。キモいですから」


 そしてパーティーメンバーの視線が、一点に集まる。


「おまえら……。オレだってキモいのに」


 シクヨロはため息をつきながら、キモい役割を引き受けることに渋々同意した。


「ま、戦闘(バトル)で役に立たないんだから、こういうので貢献しないとね。探偵なんだし」


「つーかこんなの、探偵が一番やんねー仕事だろ」


「シクヨロさん、気をつけてくださいね。ひょっとしてまだ生きてて、ヴァーって襲いかかってくるかもしれませんよ?」


「うう……この真っ青な血の臭いがエグいんだよ。ヴェルチ、つぎはもうちょっとソフトに()ってくれよな」


「馬鹿言うな。そんな余裕、あるわけないだろう」


 シクヨロは、荷物の中から剥ぎ取り用の大きな(ナタ)を取り出し、モンスターの死体を気味悪そうに突っついてみた。


「ところで、上級魔神(グレーターデーモン)って服も防具も着てないし、荷物を持ち歩いてるようにも見えないんですけど、いったいどこを探るんですか?」


「ああ、それはね」


 アイシアの問いに、マルタンが答えた。


上級魔神(グレーターデーモン)はその体内に、胃袋とは別に財宝(おたから)保存用の袋を持っててね。口から飲み込んだり吐いたりして、自由に出し入れできるんだって。つまり生きてる限りは、絶対に盗られたりなくしたりしない、もっとも安全な隠し場所がお腹の中なんだ。つくづく、不思議なモンスターだよね」


「へー、そんなのぜんぜん知りませんでした。……えっ、ということは?」


「つまり、こういうこった……よぉっ!」


 覚悟を決め、シクヨロは上級魔神(グレーターデーモン)の死体の腹部に、(ナタ)を突き下ろした。そしてそのまま刃を立て、ぎこちなく()(さば)いていく。あれだけの料理の腕を持ちながら、モンスターの亡骸の処理は苦手なようだ。


「うぇ〜、……キんモチわりぃ〜」


 青い鮮血で染まるモンスターの腹部に腕を突っ込んで、アイテムを探るシクヨロ。泣き言をつぶやきながらも、彼はいくらかの金貨や宝石などを発見した。


「まずまずだな。さすが迷宮最下層の上級魔神(グレーターデーモン)だけあって、持ってる財宝(おたから)も価値が高い」


「うん。どうやらこれで、今回の冒険(クエスト)が最悪赤字ってことは避けられそうだけど」


「あ、私もちょっと見てもいいですか?」


 上級魔神(グレーターデーモン)財宝(おたから)を品定めしているシクヨロとマルタンのそばで、アイシアが興味深げに手を伸ばした。


「あれ? なんですかねえ、これ。……もしかして、鍵?」


 数々の宝石や装飾品の中から、アイシアが拾い上げたのは一本の鍵だった。


「どうやら鍵だね。ずいぶん凝った装飾に、変わった紋章(エンブレム)が入ってるけど、これはかなり古いものみたいだよ」


 マルタンの言葉に、なにかを思いついたアイシア。彼女は、荷物の中から例の古文書を取り出すと、あわててページをめくりはじめた。


「なんだ? どうかしたのか、アイシア」


 やがて、古文書の中からなにかを探し当てたアイシアは、その箇所を指差しながら血相を変えてこう言った。


「大変です、シクヨロさん! これ、『マカラカラムの護符(タリスマン)』が隠された部屋の扉を開ける鍵ですよ!」




続く



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