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第十五話 ヤッベえダンジョン、第十三迷宮!



        この物語は、


     史上稀に見る高難度にして


   伝説の「クソゲー」として知られる


剣と魔法のRPG『ドラゴンファンタジスタ2』


   を舞台にした、とある探索者たちの


     迷宮をめぐる日常を描いた


       冒険活劇である。



(十五)



 シクヨロたちは、真っ暗闇の中を真っ逆さまに落ちていった。

 果てしなくつづくような、あっという間のような時が流れた。



「———————————————————————————」



 彼らはひたすら、声にもならない叫び声を上げつづけていた。




 そして、落下は突然に終わった。ようやく地面に着いたのだ。


 はじめにヴェルチが、つづいてアイシア、シクヨロが。そして最後にマルタンが、折り重なるようにして迷宮の底に叩き伏せられた。



「おい、みんな大丈夫か?」


 着地からしばらくたって、ようやくシクヨロがメンバーに声をかけた。


「……ああ、どうやらケガはしていない」


「私も、平気です」


 その声に、ヴェルチとアイシアが答えた。ふたりとも、とくにダメージもなく元気なようだ。シクヨロは、マルタンが自分のわき腹のあたりに頭を突っ込んでいるのに気づいた。


「しっかりしろ、マルタン!」


 マルタンは、目を閉じたままだった。シクヨロは、彼に目立った外傷がないことと、かすかに息があることを確認した。


「……マルタンさん、大丈夫ですか?」


「ああ。どうやら、気を失っているだけみたいだ。じきに目を覚ますだろ」


 安堵の表情を浮かべる、アイシアとヴェルチ。彼らはゆっくりと体勢を整え、あたりに散らばった荷物を片付けはじめた。


「私たちは、どうやら落とし穴の(トラップ)にかかったらしいな」


 ヴェルチは、天井を見上げながら言った。彼らの頭上には、漆黒の闇がまっすぐ上に伸びていた。迷宮の中は、封じ込められた魔力によってうっすらではあるが壁面が発光しており、ここが自然の洞窟などではなく、あくまで人工物であることを物語っていた。


「ていうか、迷宮に入って最初の一歩目で落とし穴とか、ゲームとしてアリかよ? 最難関の第十三迷宮っつっても、少々おイタが過ぎんだろ」


「うむ。私も、これまでにいろんな迷宮を探索したことがあるが、いくらなんでも迷宮の入り口に(トラップ)なんて、聞いたことないぞ。どう考えても、こんなの回避のしようがない」


「これが『伝説のクソゲー』の洗礼ってヤツか」


「さすが、『ドラゴンファンタジスタ2』だな」


「それにしても、あんなに長い時間ずーっと落ちつづけて、私たちよく無事で済みましたよね。打ち所が奇跡的に良かったんでしょうか?」


「……ぼくがとっさに、みんなに浮遊魔法をかけたんだよ」


「あっ、マルタンさん。よかった、気がついたんですね!」


 首筋を抑えながら、不機嫌そうに起き上がるマルタン。


「さすがに、落下しながら四人同時の浮遊魔法はやったことなかったから、ちょっと効果が出るのが遅れちゃったけどさ。ま、ノーダメでだれも死ななかったから結果オーライでしょ」


「おまえさん、魔法の杖(ジンジャー)に乗って浮かんでたんじゃなかったのか?」


「あのねぇ。魔女のホウキじゃあるまいし、ぼくはべつに空を飛んでるわけじゃないの! 下に地面がなかったら、ふつうに落ちるよ」


「だが助かったよ、マルタン。お礼に、私が抱っこしてスリスリしてやろう」


「やめて」


 マルタンは、ヴェルチの申し出を真顔で断った。




 シクヨロたち探索者メンバーは、冒険を再開させるために小さなキャンプを張った。とはいっても、テントを組み立てたり焚き火を起こしたりするわけではない。探索者たちは、失った体力を回復したり強化魔法バフを使用したり、今後の作戦を立てるなどの目的のため、しばしば迷宮の中でミニキャンプを張るのである。

 初手から陥穽ピット(トラップ)にひっかかるというアクシデントに見舞われた彼らは、周囲を注意深く調べ、モンスターの気配や次なる(トラップ)がないことを確認。そしてしばらくの間、休息をとることにした。


「それにしても、めんどくせえ迷宮ダンジョンだな、ここは。こんなとこに、マカラカラカラ……なんだっけ」


「『マカラカラムの護符タリスマン』、です」


「そうそれ。ホントにあんのかよ?」


 タバコをくわえながら疑問を呈したシクヨロに、アイシアが即座に反応する。


「間違いありません! この古文書の記述が確かならば、とんでもない魔力を秘めたマカラカラムの護符タリスマンは、ぜったい! この迷宮に! ありまぁす!」


 いぶかしげなシクヨロに対し、自分ちの納戸から見つかったという古文書を掲げながら力説するアイシア。この和風ハーフエルフの、妙に説得力がありそうでなさそうな主張を、パーティーメンバーたちはとりあえず黙って受け入れることにした。


「でも、迷宮探偵の最初の仕事にしては、やっぱりちょっとハードなんじゃないか?」


 ヴェルチはこのパーティーの、探索者としての経験値の少なさを指摘した。


「いえ、迷宮の最深部から魔法のお守りを奪還してくるというのは、RPGのシナリオとしては古典中の古典なんです。『ウィザードリィ』しかり、『ローグ』しかり」


「ま、これができて一人前、みたいなとこあるよね」


「そうなんです! がんばってマカラカラムの護符タリスマンを持ち帰って、みんなで幸せになりましょうよぉ」


「幸せ、ねえ……」


 アイシアのその言葉に、シクヨロはなんともいえない表情を浮かべながら、ゆっくりと煙を吐き出した。




「ところで、ここはどこなんでしょう? 私たち、一体どのあたりまで落とされたんですかねえ」


「うーん。まあ、この落っこち方からすると、一階や二階層下くらいじゃすまねえよな。いくらなんでも、最下層の地下十階ってことはねえだろうが。なあマルタン、魔法で現在位置、わかるか?」


 マルタンはうなずいて目を閉じ、ジンジャーをかまえながら迷宮内の座標を感知する呪文をつぶやきはじめた。


「……そんな、まさか……」


「どうしたんだ? マルタン」


 呪文を唱え終わったマルタンが、急に目を開けた。その様子に、ヴェルチが心配そうに声をかける。


「座標は、迷宮入り口から一歩進んだところ。だけど——」


「だけど?」


「——ここは、地下十三階だって」




続く



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