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遭遇2 しまっちゃえれば楽なのに

 主人公は相手が困るまで、なんで?なんで?と聞いてくるタイプの人間です。なので神様から賜ったスキルも思いつくまま検証します。ですが、そんなに賢くはありません。


◇ーーーー◇


 落とし穴の底で小鬼が喚いている。


「これ、仲間呼んでるんだよな……どうしよ…」


 短剣を拾いに戻るのはやめたほうがいいと思う。話しかける前に小鬼は一体しかいないことを確認したつもりだが、これだけ騒いだのだから仲間が近くに来てるかもしれない。


 落とし穴の深さは2m半。小鬼の背丈の三倍はある。たぶん単独では出てこれない。


 覗きこむと棍棒を投げてきた。


「危なっ!」


 脳震盪で穴に落ちたらきっと殺される。穴の底には、当然石や土がある。投げてきたら危ない。

 穴の底に竹槍でも仕込めばよかった。


 この落とし穴は小鬼のために掘ったわけではない。小鬼と話している間に今夜のご飯がかかればいいなと思って掘った。


 竹槍は考えたが、なんか悪いことをする気がしたので止めた。


 周りに竹なんてなかったし。


 もし人間がかかったら大変だし。


 掘ってる時は「時短~ 時短~」と鼻歌混じりだった。


 コミュニケーションスキルで小鬼と話せると思ってたし、もし、話しが盛り上がって長くなったら大変だから、夕飯に困らないように先に罠を仕掛けよう、と気が付いた自分を自分で誉めていた。



 いまでこそ、そんな自分が情けない。


 だが結果として命が助かったので、やはり落とし穴を掘った自分を誉めてやらねばならないだろう。


 それより穴の下の小鬼をどうしようか。仲間が来たらアウトだ。早く黙らせないと。


「埋めるか……。イヤだな…。でも埋める以外にあるかな……」



 悩んだ末、アイテムボックスから岩を取り出す。


「とりあえず、静かにしてください!」

と岩を降らせた。




ー◇ーーーー


 転生の時に神様相当とは結構長く話し込んだ。


 賜るスキルのこと、魔物のこと、他の転生者のこと。


 神様相当は何でも話せる訳でも、知ってる訳でもないらしい。


 この世界は広いのに興味のあるところしか見てない。仕方ないかもしれないが、神様相当と自称するなら全知くらいは備えていてほしい。全能までは求めない。


 なんで、なんで、と聞いていたら神様相当もイライラしたらしい。器の大きさにも課題があるのではないだろうか。


 ナゼナゼ分析は五回は繰り返さないと本質に辿り着かないはずだ。それはナゼ、そう答えたのはナゼと繰り返せばいいだけなのに。



 その結果、ヘルプコールというアイテムをくれた。見た目は装飾のついた黒電話に見える。


「困ったときは電話しなさい。手が空いていれば答えます」と渡された。


 スマホのように検索できないのか

と呟くと、これでもかなりサービスしたらしい。むくれていた。


 内心は電話の方がありがたい。知識検索よりも、話しながら細かいニュアンスを確認できる。


 ヘルプコールを収納するためにアイテムボックスも貰った。容量の希望を問われ、一番大きい魔物が入るサイズでお願いした。


 自分は魔物を狩る仕事には就きたくない。だが運べる人材は重宝されるはずなので、運び屋として働けば大物の様子を見聞きする機会が増えると思う。


 戦力にはならなくて旅に連れてって貰えるかもしれない。危ない仕事だったらスキルを隠せばいい。


 こっちの世界に着いてからは、とりあえず小鬼に会いに行くことにした。定番だからだ。その前に、まずはアイテムボックスの容量を確かめるために川原にでた。とりあえず、水や土、岩をアイテムボックスに入れてみた。けっこう入ることはわかった。ただ何リットルや何キログラムなど、数字がでないので、容量はわからない。入っている品の名前も表示されない。入れたものを忘れたらどうするのか。


 こんなことをしていたので、小鬼に降らせる岩は十分だった。結果として8個目の岩が小鬼にヒットし静かになった。未知の魔物とのおしゃべりへと、はやる気を抑えて、アイテムボックスを検証した自分を誉めてやらねばならいだろう。


 水の確保は必要だったし、川原では砂利を拾っていたときに投石器について思い出した。とりあえず、ツルを探して、石を載せる部分を短剣で潰して作った。即席だが、クルクル回して投げてみるとなんだか様になった。


 これも自分の命を救ったわけだ。小鬼にはまともに当たらなかったが、落とし穴から目をそらせる目くらましにはなったのだ。



ーー◇ーーー


「さて、静かになった小鬼はどうするか」


 小鬼は穴の底でぐったりしている。たぶん血も流れているので、このまま放置すれば別の魔物を呼び寄せるかもしれない。


 当然、時間がたてば小鬼の仲間が探しに出るかもしれない。こいつが俺の顔を覚えて、仲間と合流して探されたら厄介だ。小鬼にどれほどの仲間意識があるのかわからないが、集団で暮らしているはずだ。


「放置はまずいよな…。埋めるか。生き埋めは長く苦しむことになるか……。とどめを刺さないとな」


 生き埋めは申し訳ないが、とどめなんて刺したくない。手を出したくないから埋めてしまいたい。


 ため息をついて小鬼を見る。


「しまっちゃえれば楽なのに……」


 思い付いたので試してみる。落とし穴の縁の土を削って降りていき、小鬼の頭にそっと手を当てる。


「おおっ……しまえた。生き物もしまえるのか」


 アイテムボックスの中は時間が止まっていることを祈ろう。取り出した時にミイラになっていたら困る。元気に襲ってきても困るが。



「レッキーさんに聞いてみるか…」


 神様相当にレッキーとあだ名をつけた。彼は歴史をたくさん知っている。顔も姿も見たことはないが、爽やかなイケメンで西洋人っぽい気がする。




『ジリリーン。ジリリリーン・・・・』

おおっ黒電話っぽい。


 3コールで女性っぽい声がでた。受付があるのかな。用件を伝えると担当に繋いでくれるという。


「はい。もしもし?」


 おおっ神様たちも、「もしもし」なんだ。このもしもしは少し不機嫌。


 急な電話を詫びて聞きたいことを伝える。


「アイテムボックスの中は時間が止まってたりしますか?あと、入れたものは別々に収納されてるんでしょうか?その場合取り出すときにどうすればいいですかね?水みたいな液体を小まめに入れたとして、取り出すときには一緒になっているのか?分割して取り出せるのか?

決まった量取り出したい時にもどうしたらいいか?と思いまして………」


 質問を述べている間に、新しい疑問が沸いてくる。そのまま口に出していると、澄んだ声が質問を遮った。


「自分でどこまで試しましたか?」


「いや、まだ小鬼を入れて、別口で大量の水も入れた段階です。アイテムボックスの中で溺れてるかどうか、出して確認してません。溺れてたら大変ですが、元気だったらもっと大変なので……」



 レッキーさんはこちらの話が長くなる前に遮るように話し始める。


「事情はわかりました。まず、アイテムボックスの中は時間が止まっています。その方が便利だということになっています」


「次に、入れたものは別々に収容されます。そのため小鬼が中で溺れることはありません。似たような問題として空気も一緒に収容しないと中で窒息してしまいますが、そうはなりません」


「生き物の収容は不可能ではありませんが、控えてください。特にタイムマシン代わりには使わないでください。過去に遡ることはないはずなので、タイムパラドックスの問題はありませんが、時間を止めて寿命を伸ばすような使い方は困ります」


「入れたことを忘れてとり出されないと、この世界から本当に失われたことになります。モノはまだしも生き物は大切にしてください」


「また、液体はひとつにまとめられます。取り出す際はイメージした量が出てきます。コップ一杯とイメージすれば、それだけ取り出せます。蛇口をひねるように連続的に出すことも可能です。これは砂や土なども当てはまります」


 レッキーさんは頭がいい。答えが的確だ。


 嬉しくなってしまう。


「あのっ…。特別な水と普通の水が混ざると嫌です。例えばアルプスの天然水と水道水は分けたいです。同じ水でも含まれる成分が違います。料理や薬品開発、鍛冶錬金にも影響があるはずです」


「あと『命は大事に』ですが、水や土に含まれる菌や小さな虫も大事にしますか?それなら収容時に自動で分離してもらわないと」


「あと何を入れたか忘れないなんて不可能です。中身をリスト化できませんか?

忘れない努力を課すより、忘れる前提で仕組みを作らないと。それに……」


「はい…………わかりました」


 レッキーさんの機嫌が悪くなった。失敗したかな……謝らないと。


 深いため息の後に澄んだ不機嫌な声が響く。


「よく、わかりました」


「アイテムボックスは『全部出す』機能を設けます。こちらから定期的に強制して全部出してもいいですが、あなたを危険にさらしてしまいます。あなたが亡くなったときに全部出しましょう。周囲に迷惑をかけたくなければ、入れる物の必要最小限に抑えてください」


「あなたが雪山で倒れてたとして、その瞬間にアイテムボックスから水が溢れて大規模な雪崩を起こしたら、せっかくできた友人を巻き込むことになりますよ」


「特別な水は、そう認識しながら収容してください。砂や土、空気。液体でなくても特別だと思えば分けて収納されます。特別な樹木であっても、薪として収容されたら薪としてまとめ、高級木材ならそうまとめます」


 レッキーさんのイライラが伝わってくる。


「ばい菌や小さな虫は気にしなくていいです………水や虫ですか。こんなことを、こんなにしつこく、何度も問われたのは初めてですよ」


 おおっ神の怒りだ。

 でも、冷静な怒り方に好感を覚えてしまう。


「すいません……ありがとうございます………。でも、そんな小さな虫が新しい土地で大繁殖して生態系を壊したり、バイ菌も感染症を起こすんですよ。影響は小さくないんです。気を付けないと大変な目に遭います」


 いらん一言だった。


「よくわかりました」


「最初の質問には答えました。次の案件がおしているので今日は切ります」


 声は静かだが、受話器を叩きつけるようなガチャ切りだった。


 俺は、神様も受話器なのかと驚いていた。だって魔法とか作っちゃう神様だよ。


 そっか、なけなしの黒電話をくれたのに、スマホで検索とか言ったの失礼だったかもしれない。要反省だ。


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