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創業85 鉢をたたくとうねうね

 出発する前にダミー人形を開発すべきでした。


◇ーーーー◇


『この竹林に逃げ込んでいったわ。ここで飛び石を跳ぶようにジグザグに走ったの。たぶん仕掛けがあるはずだから気を付けて』


 ルーデンスはこの注意をするために、俺を待っていてくれた。ドライアドが逃げ込んだ竹林は一本一本が太くたくましい竹だった。観察しながら待っていると、アトさんたちも追いついた。


「急に走り出したからびっくりしたよ」


 ネルさんはあわててライムさんに乗せてもらって追いかけてきたらしい。


「いまルーさんが中を見に行ってくれています。戻ってくるのを待ちましょう。この地面にたぶん罠がしかけてあるらしいんです。ドライアドが飛び石みたいにジグザグに跳んで逃げていったらしくて。でも、さっきから観察しているんですけど普通の地面にしか見えないんです。何かが埋まっている痕跡はぱっと見わからないですね」


「ふーん。飛び石が安全な足場で、それ以外は落とし穴ってこと?なんだか、みんな同じこと考えるんだね」


 ネルさんは感心する。落とし穴のような罠を使う魔物なんて聞いたことがないらしい。


「落とし穴なら参考にさせてもらいたいですね。落とし穴に関しては負けたくないです。世界一の落とし穴使いを目指してますからね」


「ん~。野望だね~」


 ライムさんにもヌルヌル担当として協力してもらう計画なのだ。


「ふん、落とし穴に世界一も二もないのですよ。落とし穴なんて飛べれば引っかからないのです。私が解除してあげますよ。ふんぬっ」


 メリウスさんが岩を抱えて飛び上がる。上から岩を落として落とし穴を解除するつもりらしい。穴の位置がばれてしまえば落とし穴には引っかからない。


 あ、そっか。こういう解除方法もあるのか。落とし穴一本だと対策されちゃうんだな。う~ん。メリウスさんに気付かされるとは。でもな、飛ばれると対策しようがないんだよな。俺に他にできることないし。投石器の玉の種類を増やしてみようかな。


 メリウスさんがふよふよと飛んでいく。岩が重いせいか高さがでない。まあ、浮いてれば落ちないからね。メリウスさんが「ふんぬっ」と上から岩を落とす。


 ずしんと音がして地面に穴が……開かない。あれ?普通の地面だ。罠はなかったのか。


 次の瞬間、ブンッと音がしてメリウスさんが吹っ飛んだ。あれ?何が起きた?殴られたのか?


「アトさん、何が起きたか見えてました?僕、地面しか見てませんでした」


「あの竹がうねうね動いてメリウスを殴り飛ばしたのだ!すぐに助けるのだ!」


 なるほど。メリウスさんがよろよろと立ち上がって、もう一度吹っ飛んだ。あ、ホントだ。危なっ。吹っ飛んだ先で、次は空振りした。悪質な罠だな。あの太い竹は近づいた者を殴り飛ばすらしい。


「アトさん、ちょっと待って下さい」


「メリウスさーん。動かないでくださーい。立ち上がると、また殴られますよー!」


 あ、二発目で気絶したかのかな。ピクリとも動かない。まずいな。このままだと世界が焼ける。


「まずいですね。アトさんも近づかないで下さいよ。二次被害がでたら大変です。どうしようかな。ポーションあったかな。そっか、ポーションの投擲具があった方がいいな…」


 失神しているメリウスさんの方に回って、近くにぽいぽい石を投げてみる。ある程度の大きさの石が着地すると、そこを狙って太い竹の枝が空振りする。ゴルフスイングみたいだ。たぶん枝先に重みがあって、いい感じにスイングしている。しかも外へ弾き飛ばすのではなく、飛ばされる度に、だんだん内側にいくようになっている。逃げられないじゃん。危ない竹林だな。誰が考えたんだろう。


「う~ん。石が着地した、その真上を狙ってスイングしてます。どうやって相手の位置を把握してるんだろう。植物なのに。目や耳なんてないから…。たぶん地面の震動かな?地面ということは根っこだよな…」


 試しに地表を剥いでみると、10cmほど下で根が水平に広がっていた。この根の周りをたたいて震動を与えると…。


 ブンッと枝がスイングされる。


「あっぶな。わかってても危ないな、これ」


 つまり、地面を掘って、この根っこを切ってしまえば大丈夫かな?1m四方の地面をアイテムボックスに回収すると、スイングは止まった。


「なるほど。正解!よしっ」


 メリウスさんが倒れている所まで、地面を回収しながら近づいていく。1m掘った後の地面は普通に歩いても問題なかった。気を失っているメリウスさんを担いで、みなの元に戻る。


「ライムさん、このポーションを口移しで飲ませてあげて下さい。それでメリウスさんは起きると思います。けがも治るはずです」


 天使様は白目をむいて鼻血をだらだら流していた。


「ん~!これ、おいし~ね~!」


 ライムさんはポーションを気に入ったらしい。一応、時間が止まっていたので新鮮なできたてです。


「全部は飲んじゃダメですよ。数がないので、これでメリウスさんが回復しなかったら大変なんです」


 ルーデンスを待たずに落とし穴を解除しようとしたのがよくなかったか。ライムさんがメリウスさんの口の中に手を突っ込んでチューブポンプの要領でメリウスさんの体内にポーションを送り込んでいく。チューブを作って脈動させるのだ。


「……。はっ…。」


 しばらくして意識を取り戻した。


「わ、わたしは…。変態!私に触ってないでしょうね!」


 胸元を押さえてキッと睨む。


「第一声がそれですか…。ライムさんにポーション飲ませてもらったんです。感謝して下さいよ。あの竹に殴られて吹っ飛んで気を失ってたんですから」


「わ、わたしとしたことが……」


 天使様はあうあういっている。


「でもメリウスさんのおかげで仕組みがわかりました。仕組みがわかれば対処できます。これで安全にドライアドを追いかけられます」


 次はルーデンスを待とうと思う。あの竹林がどれだけ続くのかもわからないし。他の罠があったら怖い。


 待ちながら竹林を眺めていると、小さめのイノシシがやってきた。竹林に近づいて6回殴られて飛ばされて、竹林の根元までくると7回目は針だらけの枝で殴られて落命した。


「なにあれ。見ました?めちゃくちゃ凶悪ですね、この竹林。殴り飛ばして手元に寄せて、最後は針で貫いてとどめを刺す。よくできてますね」


『そうね。これは踊りサボテンの亜種ね。こんなの初めて見たわ』


 ルーデンスが帰ってきた。竹林に見えたのはサボテンが林立したものだったらしい。サボテン林の中にはドライアドの集落があるそうだ。サボテン林を城壁代わりにして、中で暮らしているらしい。


 本来の踊りサボテンは鉢をたたくと、うねうねするサボテンなのだそうだ。フラワーロックみたいだな。音に反応してうねうね動く花の玩具だ。小さな頃、友達の家にあったのをみた。


『踊りサボテンはこんなに暴力的ではないはずなの。こんな使い方があるのね』


 観賞用の踊りサボテンは高くても20cmほどだそうだ。目の前のサボテン林は10mくらいあると思う。しかも、針付きと針なしの枝を距離に応じて使い分けている。実に知的だ。


「根が地面の下に広がっていて、それがセンサーになっているみたいなんです。根っこのセンサーで獲物の位置を捉えて、枝を振り抜く。これ、よく考えられてますよ」


『感心してないで、どうするのよ?このままじゃ近づけないわ。ドライアドも林の奥に逃げ込んでしまったし…』


「大丈夫です。根っこを剥がせばセンサーは作動しません。安全に近づけるはずです」


 ルーデンスにやってみせる。地面を丸ごと掘り起こしてしまえばサボテンパンチはこないのだ。


「ね?メリウスさんがノックアウトされたんですけど、すぐこうやって助けたんです。すごくないですか?機転と対応力の勝利ですね」


『メリウス、大丈夫だったの?傷は残ってない?この男に試しに歩けと命じられたの?』


 メリウスさんの顔に傷が残ってないか確かめる。一応、お腹とかも確かめている。


「ルーさん、僕はそこまで酷い人間じゃないですよ…。むしろメリウスさんが率先して罠を暴こうとして自滅しただけで……」


「メリウスちゃん、ごめんなさい。私が落とし穴だって言ったから…。」


 ネルさんが謝りだした。うーん。メリウスさんの不用心だと思うけどな…。


 まぁ、それも俺の機転のおかげで無力化できたわけなのだ。


「うん?何かおいしい匂いがせぬか?ものすごくおいしそうなのだ」


「本当ですね。なんでしょう?久しぶりのごちそうって感じがします」


 あたりにおいしい匂いが漂いだした。あ、あれだ。エッチな気分にもなってきた。


『まずいわ。すぐ離れるわよ!』


 ルーデンスのかけ声で、全員がそそくさと走って逃げ出した。危ない、危ない。がんばって紳士ぶってるのに化けの皮が剥がれそうだった。


『みんな大丈夫?たぶんドライアドの幻惑攻撃よ』


 大人組はもじもじして応えない。始祖様たちはお腹が空いたといいだした。


「どうします?たぶん、おいしい匂いで動物を集めてサボテンの餌にしてますよね。匂いが問題なら、僕は防護スーツがあります。あのサボテン林の根っこ剥がして無力化しましょうか」


「でも、そんなことしたらドライアドたちが困りますよね。森の獣を食べたり、魔物を追い払ってるサボテンがダメになったら大変です。僕たち襲撃者だと認定されちゃいます。どうしようかな。ちょっと早いけど、ごはん食べながら考えますか」


 大人組もうんうんとうなずいた。そうですね。ちょっと休憩しましょう。お茶でも飲んで落ち着きましょう。


 サボテン林から少し離れた場所にスペースを作って家を出す。ネルさんが率先して料理を作る。今日はニジマスのトマト煮だ。まとめてもらってきた野菜の中にトマトが入っていたらしい。


「好きだから作れるように練習したんだ。食堂のトマト煮のようにはいかないんだけどね」


 料理は任せて、俺は防護スーツを試してみる。相変わらずケラケラ笑われるけど、役に立つのだ。スーツの中に給気すると膨らみ、給気を止めるとしぼむ。この動きも面白いらしい。俺には笑いのツボがわからない。


 一応、防護スーツの検証はルーデンスについてきてもらった。幻惑されたら呼吸を止めてでも、動きを止めてくれるそうだ。息の根を止められそうで怖い。


「ルーさん。これです。ここに根っこ生えてるの見えますか?これをたたくと……」


 ブンッ


「……こんな感じでサボテンパンチが飛んでくると。危ないですよね」


 地面を掘って断面の根をみせる。


「これ、うまく使えば、なにか装置を作れそうですよね。破砕機とか、投石機とか。硬い物を砕くか、重い物を投げるのによくないですか?」


『危なすぎるわよ。根がどこに生えるかわからないんでしょ?』


 確かに…。でも家畜や水車に代わる動力源になると思うんだけどな。エネルギー源は光と水と動物か…。


「何回ぐらいサボテンパンチできるんですかね。1日1万回くらいできらた安定動力源なんですけど…」


 地面に掘った穴に隠れるように、根っこの周りをトントンたたいて、何度サボテンパンチが繰り返せるのか試してみる。ちなみに防護スーツの中はおいしい匂いはしない。ルーデンスにも効いていないようだ。


「98、99、100。101、102、103……」


 面倒になってきた…。


「うーん。たくさんできることはわかりました…」


『なんだかスイングが弱くなってきていない?さすがに疲れてきたんじゃないかしら?』


「100回で疲れ始めるなら、1000回はできないですよね。そうすると、どんな使い方があるのかな…。思いつかないから、今度考えますか。せっかくだからサボテンを何本かもらって帰りましょう。危ないけど、丁寧に運用したら、使えると思うんです。サボテンパンチの方向を変えられたら、プレス機にいいんですけどね」


『プレス機自体を粉砕しそうよ。大丈夫かしら』


「うーん、ありえますね。枝の先に結んでブランコみたいにして、湖に人間を放り投げるとか。ネルさんも空を飛んでみたいって言ってたじゃないですか。湖に着水するならけがしないですし」


『あなたで試しなさいよ』


 …却下だな。


「センサーになってる根っこは周囲を鉄板で囲って、むやみに広がらないようにしらいいんじゃないですかね。それなら、特定の場所をスイングするサボテンになります」


『はいはい。わかったから、作業を進めなさい。そのアイデアはお昼を食べながら聞きます。さっさとしなさい』


 ルーデンスに促されてサボテンの根元に向かう。地面をこつこつ掘っていくのだ。……面倒だな。


 せっかく根っこが届いているんだから根っこごと回収しよう。でもこの根は、どのサボテンにつながっているんだろう。いいサボテンを選びたいよな。まあいいか。面倒だし。センサーの根っこをもって、「回収」と唱える。


「んぎゃっ。あだだ~」


 サボテン林がごっそりなくなった。サボテンに登って、様子を見ていたドライアドが地面に落ちて腰を打ったらしい。痛がっている。


「見つがった!大変だぁ~!」


 ドライアドは走って逃げようとして、安全な飛び石ポイントがわからなくなったらしい。あわあわいって、おろおろしている。林がごっそりなくなって風景が変わったからか。


 あ、殴り飛ばされた。いたそ~。


「やばくないですかね?あの位置、動いたら針付きのサボテンパンチじゃないですかね」


『助けなさい!早く!』


 おっしゃる通りです。このままだと話をする前に相手が昇天しちゃう。


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