表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/1074

創業84 そっか神々の仕業だ。そこに進化論なんてない。

 水中であまり動かないものといえばタニシですかね。サワガニかもしれません。食べるならちゃんと火を通してからですね。


◇ーーーー◇


「本当にいましたか。こんな幸運あるんですね」


「幸運ではありません。私の読み通りなのです。的確な戦略、指示の下に希少なドライアドを見つけることができたのです!」


 メリウスさんが胸を張る。ライムさんを蜂蜜でなだめながらとにかく走ってたらドライアドが見つかった。蜂蜜エンジンの追加は一つですんだので、確かに的確な指示ともいえなくもない。


 俺は道中ネルさんとドライアドの気持ちについて考えていた。ネルさんは人間がドライアドを乱獲したなんて知らなかった。そして乱獲された相手に心を許して話をするなんて、そうそうないと指摘された。そうだよなと思う。根粒菌、つまり根っこにごはん菌の提案については、難しい理屈を説明したいならまず聞く耳をもってもらう必要があること、シンプルにごはんに誘うと警戒されるだけだという。「まとめると女心は複雑なのだ」とのことです。


 でも肥料や窒素固定についてがんばって考えて具体的に根粒菌を思い付いたことは褒めてもらえた。ルーデンスもなるほどと納得していた。知識を披露して褒められる。実に充実した道中でした。


「全然、動きませんね。日向ぼっこですかね」


 ドライアドはせせらぎのほとりで水中を眺めている。メリウスさんが水辺の近くだというので、このせせらぎに沿って移動してきた。ルーデンスのセンサーに、知らない魔物が引っ掛かって忍び足で見に来たのだ。幸い相手はこちらに気付いていない。


 ドライアドの周りは少し開けていて、しっかり日が射している。せせらぎから水を吸い、太陽の光を全身に浴びて光合成をしているのだろうか。でも視線は水中なので魚を狙っているのだろう。そのわりには魚を追って目線が動かない。ザリガニを探しているのかな。目だけで追いかけて、ハシビロコウみたいに射程に入ったらバクッとやるとか?


 うーん。効率悪くない?植物型の魔物ってのんびりさんなのかな。でも見た目はヒト型なんだよな。姿はヒトっぽい樹だ。根が脚で幹が胴、ツタっぽい腕に、頭には葉っぱな髪が生えている。なんで樹がヒト型に進化したんだろう。どういう選択圧がかかると、樹が二足歩行用の身体になるんだ?腰痛になって樹なのに大きく育てないと思う。もしかしたら転生者に愛玩植物として品種改良されたのかな。


 それか神の怒りに触れて、人間が植物に変えられたとか?それで光合成を獲得できるなら、天罰になってない気がする。樹がヒト型になるのと、人間が樹になるのでは、樹をヒト型にする方が変化量は少ないと思う。人間を樹に変えるなら細胞の構造から変えないといけない。


 うん?ドライアドがスタスタ歩くなら筋肉がいるか。細胞壁や樹の外皮で身体を支え守るなら、動物のようには動けない。どのみち細胞レベルからの変化が必要になる。あ、外皮を外骨格にしてるのかな。昆虫やエビ、カニみたいに。それならアトさんは、鉄蟻からアリっぽいヒトになっているので事例がある。そっか神々の仕業だ。そこに進化論なんてない。


『じっと見て、何かわかったの?なるほどって顔したけど』


「神様が作った身体は人知を超えてると納得しました」


「変態!この変態は樹にも欲情しています!ヒト型ならなんでもいいのでふっ………」


 メリウスさんが声を上げる。慌てて口を塞ぐ。なんのために茂みに隠れていると思っているのか。


「天使様、いいかげんにして下さい。聞こえたらどうするんですか。気が付かれないように隠れているのがわからないんですか?どんだけ空気が読めないんですか」


 天罰パンチでボカボカしてくるので、組み伏せようとする。すると余計に騒ぐので、ライムさんに飲まれてもらった。


「落ち着いたら出してあげて下さい。酸素供給はしてあげてくださいね。この天使様に何かあると地上が半分焼失しますからね」


 ドライアドは気付いてないみたいだ。よかった。じっと水面をみている。


 ただ、メリウスさんが泣き出した。落とし穴で水攻めにあったのがトラウマなのか、溺れて少しパニックになったらしい。


「ルーさん。ドライアドをよろしくお願いします。僕とライムさんで天使様を沈めて参ります」


『すべてあなたが悪いのよ。胸に刻みなさい』


 はい。わかっております。


 ネルさんとアトさんを残して、この場を離れる。どうしようかな。また悪いタイミングでトラウマスイッチ押しちゃったな。


「メリウスさん。大変申し訳ありませんでした。落ち着いて下さい」


 ライムさんから解放して、誠心誠意とにかく謝る。メリウスさんは、ふ~ふ~いいながら天罰パンチだ。でも力は入っていない。


「二度と許しませんからね!二度目はありませんからね!ふ~」


 いや、もうこれが二度目です。


「大変申し訳ありません。深く反省しております。僕も、メリウスさんがこれほど取り乱すと思ってなかったです。すいませんでした」


「急に触るからです!天使の顔や身体に触れていいと思っているのですか!」


 なんだ。この天使はボディタッチにびっくりしたらしい。そんなの知らないよ。1万歳のおばあちゃん天使じゃないの?ずっと地上を覗き見していて、口を塞がれたぐらいでうろたえるってなんなの。1万年も何を見てきたのさ。


「ふ~、ふ~。なんですか、その変態的な目は!」


 特に何もしていないのに変態とか言ってくる。


「ネルさんたちがいないので言わせてもらいますけど。その変態って呼び方やめてください。本当の変態は、こんなレベルじゃないです。僕が真の変態ならメリウスさんの貞操はとっくに失われてますよ。アトさんやライムさんにだって手をだしてるはずです。そうじゃないのはわかってますよね?僕はネルさんのキープくんなんですよ。そのネルさんの隣で変態変態って、ネルさんにも失礼じゃないですか?」


「ふ~。うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」


 もう、どうしちゃったんだ。この天使様は。ちょっと待つか…。


「………ぅぅぅ」


 今度は静かに泣き始めたのでライムさんに抱きしめてもらう。


「すいません。僕も言い過ぎました。でも変態ではない視点で、メリウスさんのことは大切に思っておりますし、感謝してるんです。僕だって精一杯、紳士ぶって接しているんですから、少しは尊重して下さい」


「改めて落とし穴の一件は申し訳ありませんでした。急に攻撃されて動転してました。トラウマ作っちゃったみたいで本当に申し訳ないです。水が怖くなると、一生苦労するかもしれません。この点は何かの形で償わせて下さい」


「別にトラウマなんかじゃありません!ちょっとだけ…ちょっとだけたじろいでしまうだけです。変態のせいでトラウマなんて、天使としてあり得ないのです」


 天使様は、高貴なのですね。


 なんか考えよう。トラウマ克服の方はお風呂か、プールか、海水浴くらいしか思いつかない。どれも変態扱いされそうだ。変態扱いの方は原因がよくわからない。本当の変態ではないことはわかってくれていると思うんだけど……。


 よし、時間に解決してもらおう。


 メリウスさんがふ~ふ~いってたのは落ち着いて、静かに泣いてたのもライムさんに抱きついている間は大丈夫だと思う。立ち直るまで、案外時間がかからなかった。


「トラウマだなんて思い違いしてすいません。それじゃ、戻りますか。ドライアドとは僕なんかより、天使のメリウスさんが話した方がいいと思うんです。一緒に行ってくれませんか?お願いします」


「……。仕方ないですね。変態が変態なことをしないように見張ってあげます」


ー◇ーーーー


「すいません。お待たせしました。ドライアドの様子はどうですか?」


 ルーデンスたちのもとに戻ると、まったく同じ姿勢のドライアドがいた。


「寝てるんですかね?」


『いや、あれ水面に映る自分を見ているのよ。表情を変えてはニマニマ、髪をいじってはニマニマしているわ』


「ルーさん。目がいいですね。よくわかりますね」


『近づいてみたのよ』


 ドライアドにはルーデンスは見えないらしい。幽霊っていろいろ便利だな。


「飽きもせずずっと自分をみているなんて、そのうち水仙にでもなっちゃうんじゃないですか」


『ん?どういうこと?』


「自分が好きすぎて水面に映る自分に見入ってたら、餓死して水仙の花になったという神話があるんです。美少年の話です」


『どんな神話よ。そんなバカなことありえないわ。それにドライアドは餓死することはないわ』


 しょうがないじゃん。こんな話でも神話として残ってるんだから。


「でも水面の自分に夢中なら、鏡をあげれば喜んでくれるんじゃないですか?鉄鏡はヒット商品ですからね」


『……そうね。さっきの根っこにごはん菌よりは話ができそうね。ただ、ずっと鏡を見て動かなくなるかもしれないけど……』


 あなたも、そうだったと思いますよ。言葉にはしませんけど。


『なによ、その目は。いいたいことがあるなら言いなさいよ。心臓つぶすわよ』


 いいたいこと言ったら心臓つぶすって、さすがルーデンスだな。


「なんでもないです。それではメリウスさんと二人でいってきます。天使様と僕で話しかければ、どうにかなると思うんです。これでもコミュニケーション能力には自信がついてきたんですよ。ライムさんとだって話せるようになったんですからね」


『メリウス。お願いね。この男が変なことを言い出さないように見張ってもらえる?私は周囲を警戒しているから』


 ルーデンスが心配そうにメリウスさんをみる。


「任せて下さい。変態を使いこなすは天使の務めですから!」


 メリウスさんが胸をたたく。ちょっと強がっている感があるので、ルーデンスの表情がくもる。


「ルーさん、大丈夫です。ちゃんと成功させて自信にしたいと思います」


『……。やっぱり私もついて行くわ。ドライアドとは話ができないけど、心配よ。アト、ライム。ネルをお願いね。周囲に変なものはいないけど、気は抜かないで』


 天使様と幽霊様と三人でドライアドに話しかけることにした。


「もしもーし。言葉わかりますかー?もしもーし」


「あんだぁ!人間だぁ!大変だぁ~!」


 声をかけると、ドライアドはすたこら走って逃げていってしまった。


「あれ?走るの速くないですか?」


「ホントですね。器用に走るのですね。私も初めて見ました」


 想定外だった。動きは遅いから、襲われても走れば逃げ切れると思ってた。走って逃げられることを考えてなかった。


『なにやってんのよ!追いかけるわよ!なんで、もしもしなのよ!やっぱりだめだったじゃない!』


 ルーデンスが急いで追いかける。メリウスさんも天使の翼を広げてルーデンスに続く。俺はよたよた走り出す。全力疾走するなら、準備体操しとけばよかったな。昨日の走り込みで身体がカチコチなのだ。朝の走り込みでほぐれたけど、ライムさんに運ばれて休んでいる間に固くなってしまった。


 ああ、今日はお休みだったのに…。走ります。走りますよ。メリウスさんを追いかける。天使様は飛んでいるので見失わない。がんばって走りました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ