遭遇13 おじさん見直したよ
町おこしに必要なのは、若者、ばか者、よそ者だといっても、そんな人間と町をつなぐ人間は苦労します。主人公はよそ者に該当します。若いかというと微妙、バカかというと微妙です。
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「そうだ、罠猟を教えてくれるっていってましたよね。僕、投石だけでは限界があって…」
俺は明るい話題に変える。テーブルを見ると、デールくんが、肉に一生懸命かぶりついていた。美味しいごはんのためなら前向きになれる。
「ああ、それもあったな。集落では、みなで囲い罠を使ってるんだ。それとは別に自分でいろいろ捕まえたいんだよな。それなら…」
ハーグさんは腰を上げて何かとりにいった。
囲い罠は、周囲を柵で囲って餌で中におびき寄せる大型の罠だ。動物が柵の中で食べていると、仕掛けが作動して入り口が閉じる。複数の動物を一度に捕まえられる。大がかりになるため集落として運用しているという。
子供たちが食べる様子を眺めて待っていると、ハーグさんがトラバサミを二つ持ってきてくれた。
「前はもう少しあったんだが、壊れてしまってな。まだ動くのはこの二つだ。こいつはやる」
閉じたトラバサミを無造作に渡される。両腕がずしりと沈む。
トラバサミはギザギザの刃を広げて設置する。動物が真ん中を踏み抜くと、刃が閉じて足に食い込む仕掛けだ。
「人がひっかかると大変だから、目印を決めている。罠を設置したらその周囲に人の目の高さにこれを固定しておいてくれ。忘れたら大変なことになるぞ」
ハーグさんは恐い顔をして赤とオレンジの布を渡す。色はどちらでもいいらしい。自分で好きに使い分けろという。
俺は勝手に仕掛けた落とし穴を思い出した。粗く隠しただけだから人間にとってはバレバレで、落ちる人はいないと思っていた。だが、あるはずの目印がなければ警戒しない。気が付かずに落ちる可能性もある。
自分のしたことに青ざめる。
どうしよう。すぐに撤去しないと。
その前に確認したいことがあった。心を落ち着けて、
「あの、鉄線ってありますか。足をくくって吊り上げる。くくり罠を作るといいと思うんです」
くくり罠は、ワイヤーで足を吊り上げて動けなくするタイプの罠だ。トラバサミのように罠を動物が踏み抜くと、刃でなくワイヤーが引かれて足に巻き付く。
「こんな感じで逆さになるんです」
ジェスチャーを交えて説明した。
「…鉄線って、鉄の線材、鉄のひもってことか?」
ハーグさんが確認する。
そうです。動物が逃げないようワイヤーの強度が必要なんです。ロープだと太くなってしまい隠しにくいんです。
「鉄って、細いひもにできるのか。知らなかった。中央にいけばあるかもしれないが……少なくともここらにはない。それで服を作れば鎧になるな」
この世界で鉄線はオーバーテクノロジーなのかもしれない。ハーグさんは、いろいろ発想が膨らんだようだ。
科学技術に関しては、どこまで話してもいいのかわからない。鉄線を作るには伸線加工技術が必要だ。熱した鉄をダイスの細い穴を通して引っ張って伸ばす。何度もダイスを通して細く長く加工する。さっきの様子だと鉄の線材はまだないか、あっても普及してないようだ。伸線加工は原理自体は複雑ではないので、人力でも作れないことはないのだ。
魔法でどうにか…なってなかったか。
プラスチックやフィルムは難しくても、金属関連なら魔法を使えば作れると思ったのだ。誰もやってないならチャンスかもしれない。
子供たちも食べ終わり、ごちそうさまをいってくれる。この一言のために明日も頑張ろうと思った。ルーデンスにも届いているだろう。俺は拾っただけ、仕留めたの彼女だ。
デールくんは、テーブルの片付けはそこそこで、すぐに竹けんの練習を始めた。夢中になってくれた。
それをカーラちゃんがとりあげる。
「お姉ちゃんの番だよ」
「ええ。おれがもらったんだ。おれのだよ」
もー。取り合ってくれるなんて、なんとも嬉しいじゃないか。
「すぐに、二つ目を作ってやるから」
そういうと先ほどの端材たちに手を付ける。今度はカーラちゃんが作り方をみている。製作も二回目なので10分もかからず完成した。これは能力補正がかかってるかもしれない。
「おじさん。上手なんだね。見直したよ」
カーラちゃんに褒められ、だいぶ嬉しい。
「うん?見直すって、何かしたっけ」
俺はいいところしか見せてないはずだ。
「なんか、今日は一日、たき火にあたりながらお空としゃべってたでしょ。とっても恐かったんだよね」
「………………………。」
絶句する。レッキーさんとやり合ってときか。ルーデンスを困らせたときか。
気が付かなかった。
『黒電話のときよ。私とのときではないわ』
ルーデンスは気が付いていたらしい。
「本当は、お鍋がないと困るだろうからって持っていったの。でも渡せなくて。ごめんなさい」
いいかっこしたかったのに…。
未来の職人に尊敬されたかったのに…。
いつから気を遣われてたんだろう…。
ハーグさんが目をそらす。奥さんのニーナさんは笑いをこらえている。いいかっこしようとしてたのもバレてたのか。
消沈したのが表情に出ていたのか、カーラちゃんは慰めてくれる。
「こんどは私が何か作ってあげるよ。狩りでたくさん取ってきて欲しいし、お肉も食べたいし、職人になるための練習になる」
『あの石を身に付けるものをお願いしなさい。ポケットに入れてるけど、落としたら大変よ』
小さくうなずいてルーデンスの案を採用する。自分はダメージが大きく、平静を装うので精一杯だ。
「あ、あ、ありがとう」
一息つこう。
「この石を首にかけて身に付けておきたいんだ。首飾りにできないかな」
表情に気をつけながら、あの赤い石を取り出してみせる。
「うーん。そんなに難しくないと思う。この石って借りてもいい?石受けの大きさを合わせるのにほしいんだけど」
どうなんだろう。一週間くらいなら大丈夫かな?
とりあえず渡そうとすると。
『ダメよ!ちゃんと身に付けていなさい。代わりの何かを渡しなさい。同じ大きさの石とかないの?』
慌ててアイテムボックスから石をとりだす。投石用に川原で砂利をたくさん拾ってある。何個か出して、しまって似た石を探していると。
『ちょっと、それ見せていいの!?』
ルーデンスにとめられた。
そっか、人前ではアイテムボックスを控えないと。いまは空中から石を取り出しているようにみえたはずだ。
急いで手をポケットに突っ込む。ポケットの中で石をとりだしから並べていく。これなら普通だ。20個も並べて、適当に似た石を選んだ。
「これを参考に作ってくれないかな。この赤いのは貴重なんだ」
カーラちゃんは代わりの石より、たくさん並んだ石たちとポケットを見比べている。
「すごいね!どうやったの。私にも教えて!」
うーん。誤魔化せてなかった。ポケットの大きさと石の量があってなかった。
「タネも仕掛けもないからね。簡単には教えられないよ。それに手品のタネは秘密を守る子にしか教えられません」
これなら、うまく誤魔化せたと思う。
「わかった。秘密は守る。首飾りできたら教えてよ。絶対だよ」
はい。それまでに本物の手品を身に付けます。教えられるくらいには練習しときます。
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ハーグ視点
カイを見送り、子供らを寝かしつけた後、夫婦二人だけでテーブルについた。
「なあ、あいつ信用できると思うか」
妻ニーナに問いかける。カイが集落に現れて、まだ三日だ。成り行きで家に上げたが、子供たちに会わせたり、信用していいのか不安だった。今日の昼、カイを夕食に呼んだと報告すると、ニーナにかなりに怒られた。
ニーナは俺より六つ下だが、自分よりもしっかりしている。この家がもっているのは彼女のお陰だ。自分は世話役の仕事が忙しく、なかなか家に帰れないが、文句をいわず支えてくれている。人をみる目もある。
「信用できるかは、わからないわ。でも悪い人ではなさそうね」
ニーナの印象は悪くないようだ。
「子供たちも懐いてたもんな」
一番下のデールは作ってもらったオモチャに夢中になった。寝かしつけるときも、まだ練習すると言って聞かず苦労した。下から二番目のカーラもカイが獲ってくる獲物で、革職人になるための練習をするんだと張り切っている。
「あれは子供たちに懐いたのよ。彼が」
「そうなのか?よく面倒見てくれていたようにみえたが」
「関心を引こうと頑張ってたわね。本人はいろいろ失敗して落ち込んだみたいだけど」
ニーナはよく見ている。やはりカイに会ってもらってよかった。
「それで信用できると思うか。いまトラブルを持ち込まれると、集落としては余裕がないんだ。だが働き手は一人でもほしい」
「本人は悪い人ではなさそうだし、自分からもめ事を起こすタイプではないと思うけど、ちょっと危なっかしいわね」
「そうか…。そうだよな」
いまこの集落は人手が足りない。見回りや用水路の維持、畑を荒らす害獣の対策など、やるべきことはたくさんある。だが、どの家も自分たちが食べていくことで精一杯だ。
「あいつ、変な才能ありそうじゃないか?さっきのオモチャも、いとも簡単に作った。狩りの腕も悪くないようだ。彼がいてくれたら集落はだいぶ助かると思うんだ。炊事とか、生活力はなさそうだが、そこは周りが補ってやればいい」
この世界では、ふっと天才が現れて社会を変えてしまうことが度々ある。この国ができたのもその一つだ。初代国王が魔物を討伐して財をなし、新しい社会制度を持ち込んで国をつくった。この国の歴史で、みなが知っていることだ。
もしかしたらカイはそんな天才の一人なのかもしれない。頼りないが、へんな力はあるようだ。窮地にあるこの集落を変えてくれるかもしれない。
こんなこと、本当にあるとは思ってない。言葉にもできない。だが、一度浮かんだ願望を消し去ることもできない。
そうあってほしいと思うくらいに、自分は追い込まれてはいるのだ。いまは何とか食べていける。だがこのままでは、続かないこともわかっている。次、何か危機がおきれば、集落はバラバラになる。
「わかったわ。私にできることなら。…集落のために、あなたはよくやってる。彼に期待する気持ちはわかるもの。でも過信しないで、彼一人が加わったところで、集落の問題を解決できるわけではないわ。あなたがしっかりしないと」
ニーナは賢い。彼女がいるから何とか踏み留まっていられるのだと思う。よそ者にすがってしまう自分を戒める。
「ありがとう…頼りにしている…」
「私もよ」




