09 この世界の魔法
一度でいいから魔法を使ってみたいです……!
辺りを包み込む眩しい光に目をつぶった私の耳にあの優しい声が聞こえました。
「もう目を開けても大丈夫ですよ。お疲れ様です。
お加減は悪くありませんか?」
言われてみれば気持ち悪いかもしれないです……。
しかし私はこれでも一応乙女、人前でリバースする事だけは避けたいです……。
「やはり、酔ってしまわれましたか……。では、気分が良くなるまで少し休みましょう。」
「はい、ありがとうございます。そうして頂けるととても助かります。」
私達は優しい木漏れ日の差し込む森の中でしばし休憩を取ることにしました。
それにしても転移魔法とはどのような機構で成り立っているのでしょう。
クラークの三法則の中に「十分に発達した科学技術は魔術と見分けがつかない。」という言葉があります。
昔の人がテレビやスマホを見たならばきっと、人智を超えた魔法の力が働いていると思った事でしょう。
今の私が置かれている状況は、それと同じなのではないでしょうか。
という事は…… この世界って実は超高度文明を築き上げているのでは……?
使用者にほとんど負荷をかけずに亜光速で移動する技術……。どうすればそんな事が……。
そんな事を考えていると余計に頭がクラクラしてきました。
「あまりお加減が良くならないようですね……。初めての転移魔法だったのに長距離を移動してしまい申し訳ありません。」
「あ、マルクスさんが悪いわけじゃないんです!私、その転移魔法がどういうシステムになっているのか知りたくて、それで色々考えてたら頭が痛くなってきちゃって……。」
「なるほど、確かに魔法を初めて見たのであれば、興味が湧くのも無理はありませんね。
実は、この世界で魔法を使うには三つの要素が必要になってくるのです。」
「三つ…… ですか?…… あっ!」
そういえば、セカコイをプレーしていた時に、魔法を使うための条件について聞いたことがありましたね。
確か、魔法を使うために必要な三つの要素とは
・術者自身の適正
・霊脈の有無
・精霊の存在
の事で、このうちのどれか一つが欠けても魔法を使う事は出来ません。
このセカコイの世界には「火、水、風、土、闇、光、無」の七属性があるのですが、術者はこの属性の中で自身に適正のある魔法しか使う事が出来ないのです。
普通の人は一つの属性しか扱う事が出来ないのですが、王子、騎士、宮廷魔術師のような特別な存在になると三~四属性の魔法をいとも簡単に扱うことが出来るのだとか……。
ちなみにカノンの最推しジーク様は、火、風、闇属性魔法を操っておりました。
次に霊脈ですが、これは精霊の力を借りるために必要な地脈のことを指します。
この国の方々はそれぞれの属性に応じた精霊から、その力を借りて魔法を使う事が出来ますが、精霊の力は霊脈を通して術者の体へ流れ込んでいくのです。
つまり霊脈が無ければ、精霊との接点を持つことが出来ず力を借りられない…… という事なのです。
王都「アルフェッカ」のような場所であれば全属性の霊脈が流れていますが、辺境の土地に行くほど霊脈が少なくなっていき、魔法を使えない人が増え、結果的に貧しい村が多くなっているのだとか。
でも、この国に来たばかりの私がこんな事を知っていると、なんかちょっと怪しまれそうですよね……。
ここは全力で知らない振りをしてマルクスさんの説明を聞くことにしましょう!!
「…… という事なのです。どうです?魔法って面白いでしょう?」
「確かに面白いです!私も魔法、使ってみたいです!」
「ふむ、そうですね……。ここにはあまり霊脈がないのですが……。無属性魔法なら使えるかもしれません、やってみますか?」
「いいんですか?じゃあ是非お願いします!」
やった〜〜!!私にも魔法が使える日が来るとは……!!
実際に使ってみれば、どんな超技術が使われているのか分かるかもしれませんし!
「では、ここに落ちている木の枝を浮遊させてみましょう。」
「浮遊ですか?」
「ええ。この枝に意識を集中させ、心の中で『浮かべ!』と唱えてみてください。」
私は言われた通りに、意識を集中させ心の中で叫びました。
(浮かべ!!)
…… 私はその時の光景を一生忘れることはないでしょう。
「嘘……。本当に出来ちゃった……。」
「驚きました……。ユウリさん、貴女は……。」
どうして浮かんでいるのか、メカニズムは全然分かりませんでしたが、今は目の前に広がるこの光景が嬉しくてたまりません。
「やった〜〜!!浮かんでる!!すごい!どうして!?」
「本当に素晴らしいです。貴女はもしかして本当に……。」
マルクスさんが驚きを隠せない、といった表情でこちらを見ています。
え、この浮遊魔法って実はそうとう高等な魔法だったりするのでしょうか?
「いえ、浮遊魔法自体は初級魔法ですね。しかし、たった一度で成功させてしまうとは恐れ入りました。」
「ちょっと!また人の心を読まないでください!恥ずかしいんですが!!」
「ユウリさんは素直な方なので顔に全て出てしまうのですね、可愛らしいです。」
なんと……。私より可愛い猫ちゃんに可愛いと言われてしまいました…… なんだか嬉しいやら恥ずかしいやら。
そんな時、動物のようなものがこちらに近づいてくる足音が聞こえてきました。
「やっと来ましたね。ユウリさん、そろそろ動けますか?」
「はい、大丈夫です。」
「そろそろ私の友人がここを通りかかるので、彼と一緒に近くの村へ向かいましょう。」
マルクスさんのご友人?
アメリカンショートヘアや、スコティッシュフォールドだと嬉しいですね〜。
そんな事を考えているうちに足音はどんどん大きくなってゆきます。
そしてついに私たちの前を通り抜ける、というところで
「レオンハルト、久しいな。」
大きな声でマルクスさんが声を掛けました。
すると、足音が止まり一人の男性が馬から降りてきました。
「その声は……マルクスか。本当に久しぶりだな。」
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