04 召喚の儀
百合ではないはずなのに、2人の友情を描こうとすればするほどそれっぽくなってしまうのなんでだろう。
「聖女様、よくぞいらっしゃいました。私どもは貴女様をお待ちしておりました。」
そう言うが早いか、その声の主は私達の元へ急ぎ足でやって来ました。
(カトリックの司祭様みたいな格好……。この人は一体……。)
怪訝そうな顔をしている私と、怯えて震えているカノンを見た男性は、自分達が怪しまれている事を悟り慌てて説明を始めました。
「このような方法でお呼び立てしてしまい申し訳ございません、聖女様。
私はこのトロッケンベルグ大聖堂で司教をしておりますギュンターと申します。
今回聖女様をお呼び立て致しましたのは他でもありません。
この国を聖女様に救って頂きたいためにございます。」
うーん。状況が飲み込めたような、飲み込めないような?
私達の座っている床には大きな魔法陣の様なものが描かれており、その紋様は薄く光っていました。
RPGなんかではよく見た事があるのですが、これが所謂「召喚」というものなのでしょうか。
という事は私達は彼らに召喚されたということでしょうか。
正直なところ、私は頭が固いタイプの理系なのでこういう超常現象みたいな事象を扱うのは苦手なのです。
現時点では、心の中で必死に
(これは夢だ…… いつか覚める…… これは夢だ……)
と唱えているためなんとか自我を保てていますが、もしこれが現実だったら……?
いやいや、待ってくださいよ!
こんな非現実を現実だと認めてしまったら全世界でパラダイムシフト勃発ですよ、どんなオーパーツを使ったらこんなことになるんですか!!
眼前に広がる光景と、司教様の仰った「トロッケンベルグ大聖堂」という言葉に動揺を隠せず、思考回路がショート寸前の私。
しかし、そんなギリギリな状態の私をふわりと優しく包み込んでくれるものがありました。
「大丈夫…?大丈夫なわけないよね……。私もね、まだ信じられないよ。だってトロッケンベルグ大聖堂ってセカコイに出てくる建物の名前なんだよ? それに聖女様って……。
ゲームの世界に入り込んだなんて…… そんなの……。」
そう言って私を抱き寄せてくれた手は小刻みに震えていました。
自分だってこれからどうなるか分からなくて、怖くて仕方ないのに…… それでも私を混乱させないため落ち着かせようとしてくれている……。
ありがとう、カノン……。
カノンと抱きしめ合っていると、少しずつ気分が落ち着いてきました。
カノンの方も手の震えはだいぶ収まったようで、私達は互いに笑顔を見せられる程度には心に余裕を取り戻していました。
これからどうすればよいかはまだ分からない…… けれどカノンがそばにいてくれるなら、私はこの不条理な現象にも立ち向かえる。
そう決意した矢先、またあの司教様の声が聞こえてきました。
「お二人とも、私の話を聞いたあとひどく狼狽されておりましたので、まあ無理もない話ですが。気分が落ち着かれるまで席を外しておりました。
しかしまあ、大分お顔の気色も良くなられたようで安心致しました。」
「はあ、ありがとうございます。」
人は自分に好意を向ける人間を攻撃しにくい、という事を聞いたことがあったので、私はとりあえずお礼を言うことにしました。
「いえいえ。礼には及びませんよ。
して……」
この後の司教様の言葉が私達の人生を大きく変えてゆくことに私達はまだ気づいていませんでした。
「聖女様はお二人のうちのどちらですかな?」
世界三大貴腐ワインが飲みたいと思っていたら、大聖堂の名前が決まりました。