4・雪かき妖精 前編
いらっしゃいませ
『はがねのようせい』4話
「雪かき妖精 前編」です。
どうぞ
ざくっ!ぼふっ!ずずずずず。
妖精が雪を運んでいる。
~~~~~~~~~~~~~~~
再び雪がチラついてきた午後。
スコップを買って家に帰ってきた私は、駐車場の雪かきを始めようと玄関で準備している。
だって。
朝、高く積もった雪を見て、私はなんだか、雪かき!って思ったんだかしょうがない!
そして、スコップ!と思ってホームセンターに向かったんだ。
妖精、ハーさんと一緒に。
が。
今になって気が付いた。
長靴!
バカかしらん。
あんだけ運動靴びちょびちょにして歩いてきたのに。
何でそこに気が付かない!
「ハーさん!」
家にいるのは分かるぞ!
「ホームセンターで何で言ってくれないのよ!」と文句を言おうと思ったのだ。
だけどトイレにでも行っているのか、出てこない。
……長げーな。大か。
ジッと運動靴を見る。
あ。そうだ!靴下方式だ!
ホームセンターのトイレでぬれた靴下を履き替えた時の方法!
運動靴をコンビニ袋で包んでしまえばいいんだ。
まだいっぱいあるじゃない!コンビニ袋!
コンビニ袋無くす、とか言ってるけどコンビニ袋いいじゃない!
そうすればこれ以上濡れないじゃん。
無くなったら困るな、コンビニ袋!
私は大きめのコンビニ袋を4枚引っ張り出してきて、運動靴を掃き直した。
両足、足首の上まで袋を二重に被せて。
ハーさんはまだ出てこない。
「先行ってるよ!」
私は新しいスコップを手にして飛び出した。
「ふぉーい、すぐいくー」
トイレの方からハーさんの声がしたようでした。
鍵をかけて。
振り返ると。
あ、隣のおばさんだ。
えーと。
加藤さんだっけ。
普段会う時は「こんにちは」ぐらいしか会話したことが無い加藤のおばさん。
だから今日も、
「こんにちは」と言った。
加藤おばさん、私をじっと見つめている。
そうかコンビニ袋の足だもんな。スコップ持って。
「雪かき?」
「え、あ、はい。ちょっと」
私はなんだか照れてしまう。
「それじゃぁだめだねぁ」
「え?」
「あたしのならあるけど」
「いいんですか」
「いいよいいよ、ちょっと待ってな」
長靴を借りて。
お隣の加藤のおばさんから。
「あたしら年だからねぇ。気を付けてね」
加藤のおばさんは、それ以上言う事も無く、長靴を貸してくれた。
それは、なんとまあピンクの長靴で。私とサイズがぴったりと合って。
私はなんだか嬉しくて駐車場に向かったんだ。
なんだか雪が嬉しくて。
~~~~~~~~~~~~~~~
駐車場について。
まったく大量の白。
私は深呼吸をする。
新しい空気が胸に入るのを実感するのは久しぶりの事でした。
厨房にいたころ、上司に言われて仕事場の駐車場の雪かきをしたことはあるんだけれど、自分の所の駐車場を雪かきするのは初めてで。
雪かきどころか、この土むき出しの駐車場、ゴミ拾いをしたこともなかったから。
「ふひょーい」
妖精が飛んできたぞ。
お?段ボールの切れ端を持って来たな。
「おまたせー」
そのままボスンと雪の中に飛び込んだ。
「遊んでないの!鍵、閉めてきた?」
「ほーい」
「ほらっ!立って!」
私は笑ってハーさんを咎めるんだ。
古いマンション、この駐車場は今日、車が随分と停まったままでした。
「みんな仕事休んでんのかな」
スコップ山盛りの雪を手に私がポツリ言うと、ハーさんが私の軽自動車の屋根に積もった20センチはあろうかという雪をダンボールの切れ端で下に落としながら答えました。
「そんなわけないじゃん」
私はなんかムッとして、ハーさんの反対に回り、車を挟んで屋根の雪を落とすんだ。
「なんでわかるの?こんな雪だもん。みんな仕事なんか行かないんじゃないの」
「みんなあなたとは違うんです」
私は手を止め、ハーさんを睨みつける。
「どうせ失業者ですよ。社会不適応者ですからね」
「なーに、いいじゃん。人と違ったって」
ハーさんはそう言うと、落ちた雪で玉を作って私に投げつけて来た。
私は雪玉を除け、スコップを取り行こうと歩き出す。
「あー、はずれたぁ~」とハーさん。
そんな声のすぐ後に、
ぼすっ。
私の背中に雪玉が当たった。
続けて頭にもあたった。
肩にも。太ももにも。
ぼすっ。ぼごっ。ぶふっ。
でも。
私は振り返らず、無視して歩いてゆく。
顔は笑ってるんだけどね。
「なーんだよぉ~つまんない~」
その声を聞いて私は一気に振り返り、ひとつ、ふたつ、みっつ。
早業で雪玉を投げ返しました。
ふたつ当たったぞ!
「やーい」
それからちょっと雪合戦になって。
ハーさんと必死に雪合戦。
「もういい、もういいから雪かきやろーよ」
妖精がそういうまで私はハシャいで雪を投げ続けました。
「やったぁ~勝ちぃ~」
笑った私の声が雪に吸い取られ。
あたりはまた心地よい静けさに包まれる。
~~~~~~~~~~~~~~~
小一時間、自分の軽自動車の周りを雪かきした私は、車の中に座り、一息つきました。
ハーさんは雪の中に立ち、タバコを一服しています。
未だ、ちらつく雪。
まだ降り続けるのかな。
この駐車場の中、自分の車の周りだけ雪が取り除かれている。
ハーさん、タバコをポケット灰皿に入れると、スコップを手にしたぞ。
隣の車の周りを雪かきし始めたのです。
私は車の中から出る。
「そんなん、いいのに。大変だよ」
私は車の後ろ、おろして山になった雪を蹴飛ばしながらハーさんに言った。
「まだ降るしさ、キリないよ」って。
ハーさんは黙って人の家の車周りを雪かきしている。
私は黙ってしまう。
さっき加藤のおばさんから借りて履いている、自分の足元に目が行ったから。
ハーさんを見返した。
「かいた雪どうすんだよ。どこにも捨てる所ないぞ」
ハーさんは振り向いて指さします。
私はその方を見る。
「何?」
「川」
「川?」
そう言えば、駐車場の横には小川が流れていたのでした。
「川に捨てるの?」
「そう」
「妖精のくせに、えらく現実的に物事考えるねぇ」
「へへへ」
へへへ、じゃねえよ。まったく。
私は少し考えて。
雪を見ながら考えて。
「ちょっと待ってて」
私はマンションに引き返した。
つづく
お読みいただきありがとうございました。
出来ますれば
評価・レビューの程よろしくお願いします
声をお聞かせください
糧を、お願いいたします