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はがねのようせい  作者: きみのさち
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3・雪と妖精 後編

いらっしゃいませ。


『はがねのようせい』

第3話「雪と妖精 後編」です。


よろしくお願いします。

 朝、雪に浮かれていたというのに、些細な事で私は雪に沈んで歩くのです。


 些細な事?


 なにが些細なもんか!


 妖精はすぐ私の神経を逆なでするんだ。



「一緒に転べばいいのに」


 私の後ろにまわしたポーチのそのまた後ろから声が聞こえる。


 ハーさんめ!追いついてきやがった!


 チラと見ると、妖精は足跡のない雪の上をハネながら歩いている。


 私は誰かの通った足跡に上に自分の足を重ねて歩く。


「一緒に転んで遊べばいいのに」

 ハーさんがまた言った。


 またハネてる。これ見よがしに、さ。



 私は答えないんだ。


「……雪を歩くのも気持ちいいねえ」

 答えのない私を待って、ハーさんがそう続けた。


 しょうがねえなぁヒトだなぁ。つまんねえなぁ。


 そうゆう風に言ってるように私の耳は受け取ったんだ。

 だから私は答えない。



「……雪を歩くのは気持ちいいねえ」

 ハーさんがまた同じ事を言った。


 しつこい!


 もう振り返って怒るのは嫌なので、足元の注意でそれどころではない、といったふうに私は聞き流す。


「ねぇねぇ、じゃ、さぁ、帰りにタバコ買ってよぉ」

 なんだか恐る恐るの声だぞ。


 はぁ?なんだとぉ?


 タバコが欲しくて私の機嫌を取ろうとしてたのか。


 今度は私の顔が仏頂面に。


 こいつの面倒を見なければならない理由なんて何一つないのに、何で私はハーさんと暮らしているのだろう。


 いちいち言うのがもう面倒くさい私は、感情を殺して言う。

「タバコやめろよ、もう」


 今度はハーさんが返事をしない。


「余分な金なんかないんだからよ、え?そうだろ?」


 私は立ち止まって振り返った。

 最上級のオニ顔で。


 妖精のハーさんはいつの間にか少し遠く、足跡の無い白い雪原に立っていました。

 私の傍を離れて。


「そんな顔するんならいいぞ。もう出てこないから」


 そんな事を言う。


「そうしろよ」


 私は見えない、認識できないその顔に吐き捨てると、身をひるがえし歩いてゆくんだ。


 ムカつく。


 なんて事言いやがるんだ。ムカつく。


 つまんないこといいやがって。ムカつく!


 私は雪を忘れ、すたすたと歩いてゆく。


     ~~~~~~~~~~~~~~~


 振り返らずに着いたホームセンター。


 雪の無いフロアーについて、私は靴がびちょびちょなのに気が付いた。


 案の定だったけれど。


 私はドッと落ち込む。疲れた。


 振り返り、ハーさんを探すと……。


 見当たらない。


 私は手袋引っぱり脱がし。太ももに叩きつけ厳しい顔でトイレに向かった。



 個室で濡れた靴下を脱いで履き替える。


 でも。びちょびちょの靴を又履くんだから結局変わらないんだ。

 私は。


 随分前からとって置いていた、家から持って来たコンビニの袋に、脱いだ靴下を放り込み固く結ぶ。

 汚いから絶対出てこないでよ、と。


 トイレの鏡は水垢がひどくて、自分の顔がよくわからなかった。

 別に直す気もないし。



 トイレを出て、私は自然と、再びあたりを見回しました。


 いない。


 まあ……イイヤ……。


 そんなカンジがして、スコップ売り場を探す。



 スコップはレジ横にあって。


 妖精がいた。


 スコップ選んでいる。


 頬が緩むのが自分でわかって。


「こら」

 私は近寄ると、ハーさんの頭をポンと叩いた。


「どこいってたんだよぅ、スコップここじゃんか」

 ハーさんが普通に言った。


 認識できないけれど、普通の顔で。


 その普通がドキドキした。


「ほらどいて。ちょっと私見るから」

 私はハーさんを押しのけてスコップを選び出す。


「このぐらい大きい方がいいのかなぁ。でも重いよねぇコレ」

 そう言って振り返ると。


 あ、あ、あ、いない!


 私はドキリとしてあたりを見回すんだ。



 ハーさんは。


 店の隅、サービスカウンター、煙草売り場の前に立って、こっちを見てた。


 待っているんだ。待っている。


 私は急いで近くにいた店員さんに話しかける。


「あのう、コレ、すぐ買いたいんですけど、もう少し小さいのありませんか?」


     ~~~~~~~~~~~~~~~


 巨大なスコップをレジから引きずるように運んでくると、妖精が待っていた。


 何もなかったかのように。


 まるで何にも。


「もっと小さいので良かったのに」

 ハーさんが後ろからスコップを持ち上げてくれた。


 私は普通になった。


 そして普通に答えてしまう。

「みんな雪が降る前に買ってっちゃったんだよ。この大きさしかないんだって」


 それから、タバコを買って。


「1つじゃ待たなくなっちゃうんだろ」


「……2つ買っとこうかな……」


 煙草を2つ買ってやって。


 妖精と私は大きなスコップを二人で抱えて帰るんだ。


「そっちじゃないよ」

 私の歩こうとする道の先を、ハーさんがたしなめた。


 私はハーさんの顔を見て道を引き返す。


     ~~~~~~~~~~~~~~~


 ああ、町のみんなにはハーさんの顔が分かるのかな。


 きっと普通の顔なんだろうな。


 私の顔も、みんなには普通に見えているのかな。


 いいな、ふつうで。


 イイや、普通で。

 と思う。


 妖精の後姿を見る。


「ほらぁ。まだ足跡ついてないとこイッパイあるよー」


 ハーさんがタバコを吹かして真っ白な雪の方へ飛び跳ねて行った。


第3話おわり


お読みいただきありがとうございました。


評価していただけたら、この上ない幸せです。


またのお越しをお待ちしています。

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