1・ハーさん 前編 【ようせいが……ようせいだと名乗る「ハーさん」が……私の前に現れた】
おとなのひとへ
にちじょうの
なにげない
おはなしを
ようせいといっしょに
どーしょもない
ようせいといっしょに
ふわっと
してほしいんだ
人間ゴッコに飽きた『はがねのようせい』が私の前に現れやがって。
しょうがねぇ。私は一緒に暮らすんだ。
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≪妖精とくらしたい≫
小学校の卒業文集にそう書いた。
将来の夢 妖精を漢字で書いた。
出来ない子で。
何度も嫌な思いをして。
でも泣かなかった6年間。
最後の3学期。
原稿用紙に向かった夜。
≪妖精とくらしたい≫
ただそう書いて初めて泣いた。
誰にも気づかれずただ泣いた。
今だって……きっと……
≪妖精と暮らしたい≫
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そして。
あの文集を思い出す今。
一人で暮らす毎日。
私のそばに、妖精がいて。
きっと、懐かしかった妖精がいて。
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そいつはちょっと前、おカネも仕事もない私の前に、
「まあ、妖精ってやつだよ」
と現れた。
この妖精は食事もするし、トイレにもいく。
そう、妖精と過ごすには、なんと生活費がかかるのです。
そんなこんなで、貧乏な私の頭は、口を使ってこんな言葉を吐かせてしまう。
「なによ!妖精だって?馬鹿にして!役立たず!お金苦しいんだから!まったく!なんで何の取柄もない私の前に現れた!」
吐いた物は私自信も汚してしまったようで・・・・・・。
妖精が笑っている。
「きったねぇなぁ」
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雨の日の今日、妖精はタバコを吸うらしく、雨の中外へ行った。
家の中では吸わせないのだ。私は。
しばらくして帰ってくると、何かブツブツ言っている。
声をかけて欲しそうなので、
「どうした?」
と一言。
そう、私はこれでも気を使う。
「何が雨風に強いだ。外でちっとも着火しないぞ」
ライター、そう、ジッポについて文句を言ってるんだ。
じいちゃんの形見だぞ。それ。
私はもうそれ以上口をきかないつもりになった。
妖精は修理しようとジッポから出した綿にまみれてブーたれている。
―――メンドクサイ、直し方わかんねえ、ネットで調べてよ、他にライターないの?―――
「ハーさん!諦めが悪い!いつまでも文句言わないの!」
ブチ切れて私は声を出した。
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私は妖精を『ハーさん』と呼ぶんだ。
私に『ハーさん』が見えるようになったのは半年くらい前。
気が付くと、横にいた。
・・・・・・男だよな。
死んだお父さん?ちがう。
身内ではないし、
どう見ても、元カレではない。
何なんだろう。誰・・・・・・。
ハーさんはどこかで人間の真似をしてこの世界に居たらしく、
「人間ごっこやるの飽きたからね」
などと言った。
いろいろ聞いたけど、大概の事は「知らな~い」と答える。
名前も年齢のこともそう。
男に見えるそのいでたちについても、
「そう?そう見えるだけだよ」
とはっきりしない。
そこはハッキリしろよ。
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2年前、貯めたおカネでこの知らない田舎の小さいマンションの一室を買った。
東京にはいたくなかったんだ・・・・・・といえばカッコいいけれど、本当は、まあ、安かったから。
どこでもいいから独りで暮らして生きたかった・・・・・・。
高校生の頃から自分の家が欲しかったし。
女一人、自分だけで死んでゆける家が欲しかったし。
だから、この小さいマンションをそう言う風にしようと思った。
引っ越して半年、ハーさんが現れた時の私はコンビニの弁当を作る工場にパートに行っていて、その深夜の仕事にとても気が疲れていた。
対人関係がうまく行っていなかったんだ。
数人の従業員がとてもキライだった。
私は昔から人付き合いが長続きしたことなかったし、良くしよう、などと思ったことも無い。
だったらそんなに気にすることはないじゃないか、と思うだろうけど、それとは反対に、私は人にどう思われるか・・・・・・。を、とても気にしてしまうのだ。
嫌なヤツだ、と思われてはいないか・・・・・・と。
人に良く思われたい。
誰にでもある事だろうとは思うけれど、私はそんな自分がとても苦しかった。
仕事の後、キライな人たちにどんな態度を取ったか、いつも気にしていた。
とにかく疲れていた。
今でもだけど、なんでこんなに疲れるんだろう。
連絡する友達もいない。携帯も古いヤツでSNSなんかもやったことが無い。
ハーさんリビングの扉を開けた時、私はお酒を飲んで、グデーッとしていた。
いろいろ疲れていて、ヘンなものが見えるんだろうな、と思った。
もうなんだか、騒ぐ気になれなかったんだ。
だから、ちょっと、すでに、
受け入れていたのかもしれない。
受け入れたかったのかもしれない。
「なんなんだよお前は」
「はがねのようせいさ」
ハーさんは『鋼の妖精』というカテゴリーに属するらしく、そこははっきり答える
仕方ないから、とりあえず、『鋼のハーさん』と呼ぶことになった。
「なんだそれ。変なの。『オイ妖精』とかでいいのに」と言いながらハーさんはその時、笑っていたな。
ああ、肝心なところだけれど。
笑ってた、と書いたのだけど。
実は私にはハーさんの顔がよく分からなかった。
しっかりと顔が認識できなかったんだ。
顔があるような、ないような。
何となくボーッとしか顔が見えない。
今でもそう。
人間の姿のハーさんは、顔がよく判らない。
でも私は思ったんだ。
いいや。笑っているのはわかるから。
と。
だからハーさんは。
私のそばにいるように。
なったんだ。
つづく