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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 97 「謎の島」

セシルはある重大な問題を抱えていた。


臭うのだ。男共が。そして自分が。


これまでそんなことを考える余裕もなかったが、今になって思い返してみれば最後に入浴したのは屋敷にいた頃だ。その後は体を拭く程度しかできず、水浴びすらしていない。


「もう我慢できませんわ! この船は浴室は付いていないのかしら?」


船は長期間の移動用ではなく、大きさも小さいため、そのような施設は無い。船長室を除けば小さな客室がひとつあるのみだ。


「オイゲン! あなたはなんともないのかしら?」

「はい。長期間入浴できないことは珍しいことではなかったので」

「もう!」


船長室に殴り込むセシル。


「な、なんだいお嬢ちゃん。何か用か?」

「今すぐ近くの島に上陸しなさい! これは命令です!」



急に進路を変更したことに違和感を覚えたフェンリーが船長を問いただす。


「おい、なんか進路変わってねぇか? 何してんだ」

「済まねぇフェンネス。どうしてもって聞かなくてよう」


またしても笑みを浮かべて、謝罪する船長。


(コイツ、またか。ったく)


船室でのんびり読書をしていたセシルに事情をうかがうフェンリー。


「どういうつもりだ。何でお前が進路を変える?」

「なんですの? 文句がありまして?」


澄まし顔で答えるセシル。


「まだわかってねぇのか? この船の行き先を決めるのは俺たちだ」

「あら? 行き先を決めるのはわたくしたちではなく、船長ではなくって?」

「そ、そりぁ」

「用がすんだのなら出ていってくださる?」


言い返せず客室を出ていくフェンリー。


(臭いって思われていないかしら……)


自分の臭いをかぐセシル。



(……やはり臭いますわね)



「どうだった?」


様子を伺っていたゼロがフェンリーに尋ねる。


「ゼロ、お前今金持ってるか?」

「いや?」

「なら諦めろ。俺たちの敗けだ」


とぼとぼと歩きながら去るフェンリー。


オイゲンが客室から出てくる。


「済まんゼロ。少しだけお嬢様のわがままに付き合ってくれ」

「……」


察するゼロ。

ワルターは修行に夢中で気に止めていないようだ。



程なくして船は小さな島に上陸した。



「なんだい? もうついたのかい? 困ったね、もう一日あると思ったのに」

「あ、わたくしが先ですわよ!」


ハウエリスに到着したと勘違いしたワルターが、セシルを差し置いていち早く船を降りる。そのワルターの顔のすぐ横を一本の矢が通りすぎる。


「タチサレ。ココハワレワレノシマダ」


島の奥から矢を放ったと思われる人物たちがゾロゾロと現れる。腰に布を巻き、上半身裸の男たちは追撃を加えようと弓を構える。


「なんだい君たちは。血の気が多いねまったく」

「テッタイノイシ。ナシ」


男たちは次々に弓を放ってくる。


「おっと、ちょうどいい機会だね。どこまで動けるか試させてもらうよ」

「ワルター!」


剣を抜こうとするワルターに、船上から木刀を投げるゼロ。


「甘いね、まったく」


ワルターはそれを受け取り、弓矢をはじく。


「ハハ! いくよ!」


荷造りを始めるゼロ。


「ちょっとあなた、手伝わなくてよいの?」

「お前たちも今のうちに準備しておけ。おそらく一分もかからない」


心配するセシルとは逆に黙々と準備を進める三人。気がつくとすっかり外の音が止んでいた。恐る恐る外の様子をうかがうセシル。



「ふう。結構動けるね。よかった」


立っていたのはワルター一人だった。血はおろか、汗一滴すら落とさない正に完勝だった。


続々と船を降りるゼロたち。


「お嬢様、参りましょう」

「もう! 何なのよ!」


オイゲンの差し出した手を握ってセシルも船を降りる。


「きゃあ!」


倒れた男の一人がセシルの足首を掴む。


「イイキニナルナ。ボスノテニカカレバ、オマエタチシヌ」

「心配は要らない。俺が付いている」


オイゲンは男を掴みあげ、思い切り投げ飛ばす。悲鳴をあげながら海の方まで飛んでいく男。


「お嬢様、離れないでください」

「ええ、オイゲン」


ゼロたちは生い茂った木々の隙間を抜けていく。




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