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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 94 「道連れ」

オイゲンはすべてを語り終え、再びゼロたちに拳を向ける。


「まさかその男三人組がお前たちとはな」


静かに話を聞いていたゼロだったが、フェンリーは笑いをこらえるのに必死だった。


「くっふぅ」

「おいフェンリー。君失礼じゃないか。」


ワルターがフェンリーを注意する。


「だってようっ……こ!」


ゼロが銃でフェンリーの脳天を殴る。


「ゼロ、お前何を……」


まさかの仲間割れに驚くオイゲンを素通りしてセシルのもとへと歩いていくゼロ。


「おい! お嬢様に近づくな!」


不用意にセシルに近づくゼロを止めようとオイゲンが向かってくる。ゼロは上着を脱ぎ捨て、持っていた武器をすべて地面に置く。


「お前とこの女に危害を加えるつもりはない」


そう言って手に持っていた愛用の銃もオイゲンに手渡す。


「少しでも俺に不信な点が見当たればそれで撃ち殺せ」

「何を考えている?」

「心配するな。お前と俺は同じだ」

「一体何を……」


セシルの肩をつかんで揺らすゼロ。


「起きろ」

「貴様……その手を離せ!」


オイゲンの話を無視してなお揺らすゼロ。セシルがゆっくり目を開ける。


「一体何の騒ぎです」

「目が覚めたか。よく聞け」

「あなたは先程の……きゃああ!」



半裸の男に肩を捕まれていたセシルは驚いてゼロに向かって平手打ちを繰り出す。が、受け止められてしまう。


「な、ななな何をするつもりですの!? オイゲン、オイゲン!」

「お嬢様から手を離せ!」


錯乱するセシルとセシルを助けようとするオイゲン。今にもオイゲンの手がゼロを捕らえそうだ。


「レイアは無事だ!」


そんなセシルとオイゲンの動きをゼロの一言が止める。ゼロはセシルから腕を離し、立ち上がって服を着る。オイゲンから武器を取り返し、所定の位置へと戻す。


「もう一度言う。レイアは無事だ。今はモルガント帝国の大佐に預けている。心配は要らない」

「それは本当なの!?」


今度はセシルの方からゼロに飛び付く。


「ああ、本当だ。お前たちのいっているレイアと共に行動していたのは俺だからな」

「なんですって!」


ゼロは簡単にレイアと出会ってからのことをセシルとオイゲンに語る。


オイゲンは信じることができなかった。惨殺のゼロといわれるこの男が一人の少女のために組織を裏切り、戦い続けていたなんて。信じることはできなかったが、理解はできる。自分もまた同じなのだから。


「ゼロ、お前の話しはわかった。矛盾もない。だが、俺はお前を信用した訳ではない。不用意にお嬢様に近づくようなら容赦なく殺す」


オイゲンは再びゼロに向かって拳を向ける。


「ああ、それで構わない。俺はこれ以上お前たちに干渉しない。レイアに会いたいのなら、モルガントのヴァルキリア邸を訪れるといい。ハウエリスへ着いたならすぐに迎え。それまでは俺たちに付き合ってもらう」

「嫌よ、このままモルガント帝国へむかいなさい! あなたたちの用事はその後でいいでしょう?」


セシルが不満ありげにゼロに突っかかる。ゼロはセシルを睨み付ける。


「な、なんですの? わたくしに文句でも?」

「この船を貸し切りにしたのは俺たちだ。お前たちはそれに付いてきたにすぎない。なら俺たちに従ってもらう。それが嫌だというのなら、すぐにこの船から降りろ」


ゼロは冷たくいい放つ。セシルは萎縮してしまい、それ以上ゼロに言い返そうとはしなかった。


「おいゼロ。こんな可愛らしい少女に向かってその言い方はないんじゃないかい?」

「だからといってここでこいつらの言うとおり回り道をしてしまえば、それだけアーノルトから遠ざかることになる。それは避けたい」

「とか何とか言って、中途半端にレイアに会いたくないだけだろう?」

「黙っていろ」


ワルターとゼロのやり取りを聞いていたオイゲンが急に叫び出す。


「いま、なんと言った!」

「ん? 中途半端にレイアに会って……」

「そこではない!」


ワルターは返答を否定され、ふてくされる。


「……アーノルトか」


ゼロが答える。


その名前を聞いて明らかにオイゲンの様子が変わる。セシルは心配そうに青ざめたオイゲンの顔を覗きこむ。


「どうしたというのオイゲン?」

「……ちゃんとお話するべきですね」


オイゲンはあの屋敷を抜け出した夜の話をセシルに聞かせる。薄々何が起きたのか勘づいていたセシルだったが、やはりショックは隠しきれない。


「そう、だったのですね。お父様、お母様……」

「申し訳ございません。もっと早くお伝えするべきでした」


セシルはその場にうずくまる。すすり泣く音が聞こえてくる。


「ここから出ていってくれないか? 頼む」


オイゲンにそう言われて部屋を出ていくゼロとワルター。倒れているフェンリーも連れていく。



「ゼロ、いいのかい? 女の子を泣かせたままで」

「俺は意見を変えるつもりはない。それに泣かせたのは俺ではない」


そういいつつもセシルとオイゲンのことが気がかりなゼロ。何しろ少し違えばセシルはレイアだったかも知れないのだから。



しばらくの間沈黙がその場を支配していたが、急にオイゲンが叫び出した。


「な、何を仰っているのですか! お考え直しください!」

「これは決定事項ですわ!」


部屋を飛び出してくるセシル。真っ赤な顔でゼロに叫ぶ。



「あなた方はアーノルトのところに行くのでしょう? ならばわたくしたちも連れていきなさい! これなら文句は無いでしょう!」


ゼロは帽子で緩む口元を隠す。


「ああ。だが、俺はお前を守ったりしないぞ? すべては自己責任だ。それでも構わないなら一緒に来い」

「別にあなたに守っていただこうなんて考えていませんわ! わたくしにはオイゲンが居ますもの!」


セシルはオイゲンを指差して答える。指された本人はとても不安そうだ。




旅は道連れ。世は情け。向かう先は容赦ない道のり。新たな仲間を迎えて旅は続く。




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