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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 92 「セシルの決断」

ルーカスの都にたどり着いたセシルを待っていたのは、またしてもおびただしい数の死体の山だった。


首を切り裂かれた執事とおぼしき死体。スチュワートの屋敷の時とは殺害方法が異なる。


今回の死体は腐敗が進んでおり、屋敷内は悪臭に支配されていた。


「外でお待ちになられますか?」

「……いえ。さあ手がかりを探しますわよ」


セシルはハンカチで顔を覆いながら、ウジの湧く死体を掻き分ける。



オイゲンは死体の傷口に注目する。ナイフのような鋭利な刃物で切り裂かれており、切り口はとても美しい。一切の迷いもなく、正確に動脈を切り裂いている。


(素人ではない……明らかにプロの手口。スチュワート家とは別の者の仕業、そしてメルという名……)



セシルはある部屋にたどり着く。エレナ・メルの寝室だ。扉を開けるとエレナはベッドで永遠の眠りについていた。


あまりの悪臭と絶望にその場で意識を失うセシル。セシルの倒れた音を聞き付けてオイゲンも部屋にやってくる。


セシルを抱き抱え、部屋を探索するオイゲン。遺体はエレナ一人分だが、部屋に飛び散っている血液は明らかに一人分の量を越えている。


この屋敷には何かある。そう感じ取ったオイゲンは部屋を出て屋敷をくまなく探索する。一見アルバート家と同じく普通の貴族の屋敷だが、明らかに臭いが違う。それは腐敗臭や血の臭いではない。そしておそらく今に始まったことでもないだろう。


死の臭い。本能が感じとる臭い。自分と同じ殺し屋の臭い。


臭いのする方へと足を進めると地下へと続く階段が。一歩、一歩と足を踏み入れる。



「なんだ……ここは!」



拷問器具の数々。それは決してコレクション用などではなく、明らかに使用目的で集められていた。それを物語るかのような何重にも塗り重ねられた血の色。そして犠牲になったであろう瓶詰めにされた元人間の部位。別の部屋には子供から老人まで各種取り揃えられた人間の剥製がおびただしい数飾られていた。


オイゲンは確信した。ここは殺し屋、悶殺のムースと麗殺のレイリーの巣窟だと。


すぐに屋敷を立ち去るオイゲン。この惨劇をこれ以上セシルの目に入れるわけにはいかない。





「……ここはどこ?」


セシルはふかふかのベッドで目を覚ました。今までの悲劇はすべて嘘だったのではないか?そんな期待を裏切るかのようにオイゲンからメル家について判明したことを語られる。



「……そんな」



いけすかない連中だったメル家。だがショックは大きかった。



「レイアさんにムースとレイリーが絡んでいるのは確実です。そして三人の姿はあの屋敷にはなかった。おそらく今も共に行動しているか、あるいは既に……」


言葉をつまらせるオイゲン。語られずともセシルには伝わった。そしてそれ以上手がかりはなく、振り出しに戻ってしまった。


何の力にもなれず落ち込んでしまうオイゲン。


「てい!……ていたたた!」


オイゲンの眉間に突如でこぴんを繰り出すセシル。そしてまたしてもオイゲンの固さに指を痛めてしまう。


「な、何を」


驚くオイゲンの頬を両手で鷲掴みにするセシル。


「オイゲン! あなたがショボくれていてどうするの! まだ終わったわけではなくてよ? レイアと一緒にいたという男性の遺体は見つかったの!?」

「い、いえ」

「ならその男性はレイアと一緒にいると考えるのが普通じゃないかしら。そしてメル邸の様子からしてムースたちとは敵対しているのではなくて?」

「そ、そうかもしれません」

「レイアとその男性はムースたちから逃げている。そう考えるわたくしはおかしいかしら?」

「おかしくないです」


セシルはオイゲンから手を離す。


「でしたらわたくしたちがムースたちよりも先にレイアを見つけ出しましょう! そうしてレイアと協力してムースたちを迎え撃つのです! そうと決まれば早速聞き込みに行きますわよ!」


セシルは元気よく部屋を飛び出す。急いでオイゲンが追いかける。


おかれた状況はなにも進展していない。それどころか悪くなる一方だが、セシルが元気ならそれでいい。そう思うオイゲンだった。





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