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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 88 「オイゲンの過去」

話は三年前に遡る。


組織の殺し屋として活躍中だったオイゲンに新たな指令が下る。その内容とはハウエリスを拠点として行動するならず者集団の排除だった。


相手は約三十人。それも一人一人が手練れだ。が、それでもオイゲンの敵ではなかった。


ちぎってては投げ、ちぎっては投げ、ならず者たちにとってはまさに悪魔だっただろう。


逃げられないと悟った男たちに残された道はシ自爆特効しかなかった。爆弾を体に巻き付け、オイゲンに飛びかかる。一人が爆発すると連鎖的に他の者も爆発する。


オイゲンを中心にして大爆発が起こり、辺り一面を焼き付くす。それは鋼の肉体を持つオイゲンの肉体を持ってしても大ダメージは避けられなかった。


やがて爆発音を聞き付けて人々が集まってきた。この世のものとは思えない惨劇があったことは誰の目に見ても明白だった。明らかに爆発によるものではないおびただしいほどの死体の山と、この爆心地でなお生き延びる異様な出で立ちの男。畏怖する人々の目がオイゲンをとり囲む。


「お嬢様! なりません!」


人々の反対を押しきって一人の少女がオイゲンのもとにやってくる。


「まだ息があるじゃない! すぐに屋敷に運んで!」


オイゲンにさわろうとする少女を止める男たち。


「なりません! この男、明らかに異様……危険です、御下がりを!」


男たちをふりきってオイゲンに触る少女。なんかとか引きずって連れ出そうとするが、重すぎて動かない。


「何を見ているの! 手伝いなさい!」

「お言葉ですがお嬢様、この男は化物です。いくらお嬢様のご命令でも化物に手を貸すことはできません」


オイゲンから手を離し、男の頬を叩く少女。


「人が困っていたら手を貸すのが人よ! もしここでこの人を見捨てたりなんかしたらそれこそわたくしが化物です! あなたたちはわたくしを化物にしたいの!?」


オイゲンは意識が途切れるまでその少女を見つめていた。自分よりはるかに小さくてはるかに大きいその少女を。



オイゲンは大きな屋敷で目を覚ました。どれ程眠っていたのだろう。ひどくおなかがすく。


「お嬢様、私がやります」

「いいの、わたくしがやりたいの!」


部屋の外から騒がしい声がする。


バタンと扉が開く。あのときの少女が食事を持って現れた。


「あら、目が覚めまして? ちょうどいいわ、食事にいたしましょう」


オイゲンは食事を貪る。これは一体何なのか、そんなことは考えもせずひたすらに食べる。


「いい食べっぷりですこと。昨日まで死にそうになっていたのが嘘みたいですわね」


少女は満足そうに微笑む。


食事を済ませ、オイゲンは頭の中でおかれている状況を整理する。


(ここはおそらくこの女の家だろう。やり取りからして身分の高い人物なのは違いない)



そんなことを考えているといつの間にか少女が目の前まで来ていた。


「お、お嬢様!?」


メイドらしき女が慌てている。


「……なんだ」

「あなた、仕事は?」

「……」


少女の問いかけに口を閉ざすオイゲン。殺し屋ですなど答えられるはずもない。


オイゲンが黙っていると少女が一方的に話し出す。


「わたくしはあなたの命の恩人です。ここまではお分かりかしら?」

「……」

「でしたらあなたはわたくしの命令に従う義務がありますのよ?」

「……何が望みだ」


ようやくオイゲンから返答がもらえたため嬉しそうな少女。


「あなたにはわたくしのボディーガードを努めていただきます。これは決定事項よ」

「は?」

「わたくしはアルバート家長女、セシル・アルバート。さあ、あなたの名前を聞かせてちょうだい」

「……何を勝手に」


バン!とオイゲンの寝ているベッドを叩くセシル。


「意思の疎通が出来るの? 出来ないの! 出来るのなら質問に答えなさい!」

「は、はい!」


初めてだった。自分より小さい、しかも女の子に恐怖の感情を抱いたのは。


オイゲンはセシルのボディーガードを始めた。昔からアルバート家に仕える者たちの中には快く思わない者も居たが、そんな者たちにはセシル自ら叱咤した。


生まれてきてから人の温もりに触れたことの無かったオイゲンはセシルの行動に戸惑いっぱなしだったが、少しずつセシルに惹かれていくのが自分でもわかった。


アルバート家の使用人たちとも徐々に打ち解けていき、人間らしい生活を送るようになったオイゲン。


そんなオイゲンに現実は容赦なく襲いかかる。


オイゲンに組織から一通の指令が下る。



ハウエリスコク アルバートリョウ リョウシュ

レイスアルバート ナラビニツマ ミーネアルバート オヨビムスメ セシルアルバート ヲ


マッサツセヨ



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